第6話 東の草原


 四人が動き出したのは遅かった。

 一般的な冒険者達は、ギルドが開くと同時に依頼の有無を確認して、良い依頼は我先にと引き受けていく。

 場合によってはギルドの始業時間前に入口に行列ができる事もある。

 しかし、アンジュリーンの思い付きで動き出していた事から、一般の冒険者達が出掛けた後にギルドを訪れていたので、依頼が残っている事は奇跡に近い。

 結果として、四人は東の草原に行き狩をして魔物のコアを販売する事になった。


 草原といってもくるぶしを隠す程度の高さの草が生えているので見晴らしも良く障害になる石などは遠くからでも見つけられる。

「ここなら、スピードを出しても問題無いし、誰か居ても直ぐに見つけられるから都合がいいじゃん。ほら、所々に石が見えている石を順番に回っていくと旋回とかの練習には丁度いいよ」

「へぇー、そうなの。じゃあ、私も一緒にここで練習しようかしら」

 アリアリーシャは裏庭での練習に飽きていたのか、草原の広さとレィオーンパードの説明を聞いて面白そうだと思ったようだ。

「でも、大丈夫なの? すごく見晴らしがいい場所だから、冒険者とか通りすがりの誰かに見つかってしまいそうだよ」

「大丈夫さ。一応、周囲の警戒は怠らないようにしているから、人を見つけたら直ぐに乗るのを止めて魔物でも探すようなフリをするからホバーボードに乗ったところを見られないようにするさ」

「でも、魔物に追いかけられている時に人を見つけたらどうするんだよ」

 レィオーンパードの呑気な言葉にカミュルイアンは不安そうに答えるのを、アンジュリーンもアリアリーシャも黙って聞いていた。

「でもぉ、周囲を確認するならぁ、私にも出来ますぅ。レオンが囮で追いかけられている時はぁ、私も警戒するのでぇ、早めに伝えればいいんじゃないかしらぁ」

 それを聞いたカミュルイアンは不安そうにアリアリーシャを見ると、アリアリーシャは少し面白くない表情をした。

「だったら、少し大きめの岩に陣を敷くようにすればいいでしょ。私が岩の上から警戒するようにして、アンジュとカミューが弓で備えていたら魔物への対応も可能になるし、周囲の警戒も怠らない事になるわ」

 アリアリーシャは、メンバーの中では一番身長が低い130センチとなる事から、カミュルイアンの不安そうな表情から低い身長では遠くまで見渡せないと考えたのか、いつもの語尾を伸ばす言い方ではなかった。

「別に、そんなつもりで言った訳じゃないよ」

 カミュルイアンは言い訳のように言うが、アリアリーシャの機嫌は変わらない。

「ねえ、無駄話はいいわ。それより、作戦よ」

 アンジュリーンが三人の会話を遮るように大きな声を掛けてきた。

「レオン。そのホバーボードだけど、何分位なら全力疾走可能なの?」

 突然自分の名前を呼ばれて少し驚き気味だったが、話の内容から叱られないと分かると安心した様子を見せた。

「うーん、小一時間程度は走らせた事有るけど、必要ならもっと走らせられると思う」

「そうなの。それならレオンに魔物を引っ張ってきてもらい、その時はアリーシャが周囲の警戒を行なう。引っ張ってきたら私達の周りを回るように走って魔物に追いかけられるようにするの」

「えっ! 引っ張って来たら、直ぐに倒してくれるんじゃないの?」

「これは、魔物の狩に慣れる事もだけど、私達の弓の精度も上げる必要が有るわ。だから周囲を回っている魔物を弓で倒すのよ。動く的を射る練習だと思っていいわ」

「そんな事をしたら魔物がオイラ達の方に向かってくるじゃないか」

「その時は剣で戦えばいいでしょ。盾役が居なくても三人で連携して戦えばいいでしょ。アリーシャが先鋒で一撃を加えたら私達も連携して叩くだけよ」

「先鋒? 私?」

「そうよ、一撃離脱。魔物の攻撃を躱しながら一撃で構わないわ。少しでも速度を緩められればいいわ。だから、希望は足に傷を負わせてもらいたいの。そしたら後から私達が剣で魔物に致命傷を与えるわ」

「ああ、そう言うことね。でも、最初の一撃で致命傷を与えても構わないでしょ」

「それは、それで構わないわ」

 アリアリーシャは、一瞬、ニヤリとするが、直ぐに表情を戻した。

(アンジュったら、私はみんなとパーティーを組む前は誰とも組んだ事が無いのを忘れているんじゃ無いかしら。この王都周辺もだけど、この周辺国の魔物とだって引けを取ってなかったのよ。大ツ・バール帝国の強力な魔物じゃ無いし、王都周辺の魔物だって対戦した事があるわ。特徴を熟知した魔物なんだから、一対一で勝てない訳がないでしょ)

 アリアリーシャは、ギルドの高等学校に入学する前は、常にソロで狩を行なっていた。

 小柄な種族に属するアリアリーシャを喜んでパーティーの追加メンバーにする事は稀な例となる。

 小柄で体力的に弱いと見られているウサギ系の亜人は、大きな耳により遠くの魔物を察知する事に長けているが、メンバーにウサギ系の亜人を二人以上入れる事は少ない。

 小柄ということで攻撃力も防御力も劣ると見られていたが、アリアリーシャは、同種の亜人達に比べたら大柄な部類に入る事から、俊敏性を活かし死角から近寄って致命傷を与え魔物を狩るという方法を取っていた。

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