第3話 アリアリーシャとアンジュリーン


 アリアリーシャがホバーボードの練習をしているのをレィオーンパードが監督していた所に、アンジュリーンは訪れて評価を聞いていたが、魔物を狩る為に誘いに来た事を忘れていたわけではない。

 アンジュリーンは、話だすタイミングを考えていた。

「ねえ、ゆっくり走るのも大事かもしれないけど、広い場所で速度を上げて練習するのも大事なんじゃないの?」

 アンジュリーンの言う事はもっともな話である。

 実際に魔物との戦いにおいては、スピードに乗ったホバーボードがヒットアンドウェイによる一撃を加える事になる。

 接触する時間を最小限にとどめて自身が攻撃を受けないようにする。

 安全を意識したパーティー戦の一部に二人は組み込まれており、その戦闘における練習の一つとして裏庭を使ってホバーボードの出力制御を行っていた。

 レィオーンパードは、ウズウズした。

 二人だけで王都の外に出る事を禁止されていたので地味な練習をしていたが、広い場所で思いっきり走り回りたいと常々思っていた。

 アンジュリーンに潤んだような瞳を向けた。

(チョロいわ)

 アンジュリーンは、わずかに鼻で笑った。

「ジュネスの許可は取ってあるわ。私達4人でギルドの依頼を受けるか、無ければ王都の外で魔物狩りをするから、思いっきりホバーボードで走れるわよ」

 レィオーンパードは、笑いが止まらなといった表情をするとアリアリーシャを見た。

「姉さん! 王都の外に行くよ! 高速運転の練習ができるよ!」

 大声で声を掛けたが、その声にアリアリーシャは鬱陶しいという表情をしてレィオーンパードを見ると、ゆっくりと向かってきてホバーボードから降りてボードを立てた。

「そんなに大きな声で言わなくても聞こえるわよ。レオンは本当にヤンチャなんだからぁ」

 アリアリーシャは、後から二人の所に寄ってきたカミュルイアンを見てから、アンジュリーンを見上げた。

「アンジュ、狩に行くんでしょ」

 二人は狩の為に完全装備を付けていた事と、レィオーンパードが言った練習とが噛み合わないと思ったようだ。

「練習じゃなくて実戦になるんじゃないの?」

 アンジュリーンは、しまったと思ったような表情をしたので、アリアリーシャは睨んだ。

 アリアリーシャは、ちょっと睨んだつもりだが、162センチのアンジュリーンを130センチのアリアリーシャが睨んだので、見上げるようになっていた事もあり威圧感が強かったようだ。

「あ、あのね。王都の周辺の魔物だったら、私達のランクなら、問題は無いと、思うの、よ。実戦で、ホバーボードも、試せるし、狩尽くしたら、その後、ホバーボードの、練習も、できると、思う、わ」

 アンジュリーンは、徐々に辿々しく答えたが、それは、アリアリーシャが、黙って見上げるように見ていた事が気になったからだ。

「ど、どう、か、し、ら」

 アリアリーシャは、黙ったままアンジュリーンを見ていたが、アンジュリーンはアリアリーシャから視線を外してしまった。

 そして、アリアリーシャは口を開いた。

「ねえ、アンジュ。最近できたブティックに通ってたわよね」

 アンジュリーンはマズイという表情をした。

「あそこに、色違いの可愛い服がショウウインドウに飾られていたわね」

 その言葉にギクリと肩を震わせたので、アリアリーシャはやっぱりと思ったようだ。

「赤と水色、どっちを狙っているの?」

 アンジュリーンは、冷や汗を流し出した。

「どっち? それと、何で私の目を見れないのかしら」

 アンジュリーンは恐る恐るアリアリーシャを見た。

「どっち?」

「りょ、両方」

 その答えに呆れた。

「あんた、あれ、結構いい値段だったわよ。両方とも買おうっていうの」

「だって、可愛いんだもん」

 すると、アリアリーシャは大きなため息を吐いた。

「あ、あのね。今までは、学生だったし、入学する前は、そんなオシャレなんてできなかったのよ。アリーシャだって、入学した後、ジュネスに援助してもらって人一倍食べてたでしょ! そのいかがわしい体型にもなれたんじゃないの。でも、私だって同じように食べて、同じようにトレーニングしたけど、ぺったんこなの! 少し位着飾らないとバランスが悪いでしょ!」

 それを聞いたレィオーンパードとカミュルイアンは、慌てて二人から距離を取り始めたが、アリアリーシャは、ムッとしてアンジュリーンを見上げていた。

「わ、私は、アリーシャみたいな体型にならなかったんだから、せめて可愛い服でバランスを取れるようにしたいの!」

「そう、でも、あんた44歳でしょ。エルフの44歳って、人の16歳程度でしょ。その年齢なら小さい娘も多いわ。いえ、小さい娘の方が多い。小さな娘でも大きくなった人はいるし、あんただって、これから大きくなるでしょ!」

 ジト目でアリアリーシャが言うと、赤い顔をしたアンジュリーンは睨み返した。

「そ、そんなの、わかるわけないわよ!」

 アリアリーシャは呆れた。

「ヒュェルリーンさんは、私より大きいかもじゃない。アンジュだって年齢とともに大きくなるわよ!」

 アンジュリーンは、同じエルフであるヒュェルリーンの体型を思い出し自分も大きくなる可能性に気が付き、一瞬、納得するような表情をするが、直ぐに面白くないという表情になった。

「あの人は108歳よ! あそこまで大きくなるのに何年掛かるか分かったもんじゃないわ」

 すると、キリッとした表情になった。

「だから、私は、今、可愛くしたいの! 可愛い服が欲しいの!」

 アンジュリーンは、体型的なコンプレックスを可愛い服を着る事で癒していた。

 特に、一緒に居るアリアリーシャの体型が、日に日にグラマラスに変わっていくのを間近で見ていた事から羨ましいと思っていた事もあり、自分を魅力的に見せたいと着る物にこだわっていたのだ。

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