05 型破りな新婚生活
新婚初夜に知ったのだが、アンジュはほとんど無知といっていいほど、その手の知識が皆無だった。
深い口づけへの可愛らしい反応、つまりは動揺ぶりから察してはいたが――男女の営みに関する知識など得る機会がない、よほどの箱入り状態だったと思われる。
こういう話は友達同士で盛り上がったり、年上の同性のきょうだいから聞いたりするものだが――アンジュにおいてはどちらも縁遠そうであることは明らかだった。
あの家族の態度からしてもアンジュを嫁がせるつもりはなかっただろうから、夫となる方にすべて委ねなさいとしか教えていなかったことだろう。
「っ、ふ」
ねっとりとした口づけから解放するととろんとした眼差しでアンジュはカイルを見上げてくる。初心な女性を相手にするのは初めてだったのでカイルはキスをしただけでもかなり興奮した。いや、それだけではないのかもしれない、という内なる声は蓋をしてすぐに行為に夢中になった。
薄く透けるような生地で作られた寝間着を剥いで、あらわになった肌に噛み痕をつけながら、うっとりしながらカイルはつぶやいた。
「……可愛いアンジュ」
ところがカイルがキスをして優しく妻の身体を愛撫していたあたりで、アンジュは気を
この悶々をなんとか解消して就寝した翌朝に、アンジュから告げられたのは「子供はよそで作ってくれ」という無体な提案なのであった。正直勘弁してほしい。隣にこんなに可愛い嫁がいるのに手が出せない、ってどういうことだよ。
愛人を作れと言われたとき顔には出さなかったけどカイルは傷ついてもいた。
さんざん遊んできたツケがここに回って来たのだ。そんなふうに言われたらそれまでだが、結婚を機に心を入れ替えたつもりだったのに……よりによって新妻から浮気を許容します、などという提案をされるとは。
それでもカイルのレーヴァテインの傷を思っての発言ではあり、アンジュ自身、悪気がまったくないのがまた困ったところなのだった。
しかしこれでは彼女がカイルを遠回しに拒んでいるという可能性も捨てきれず、色男としてのプライドなどはばっきりと無残にも折れてしまったのである。
だがここでめげないのがカイルの長所でもあった。
書斎にこもって、仕事そっちのけで聖女にかかわる文献をあたった。
聖女がみごもったことで聖力を失う――その現象は絶対なのか。何か対処法はないものか。ラヴィエラ以前の聖女とは、どのような存在であったのか。
目を皿のようにしてありとあらゆる記述を探すさまを覗き見た従者は主がまた頭でも打ったのか、と心配していた。
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