11 パーティーの日に

「アンジュ!」


 誕生日のパーティーには孤児院にいた少女たちも招かれた。

 久しぶりに見たニナはいくらか背が伸びていて、外出着の裾が短くなりすぎていた。抱き着いてきたニナの頭を撫でながら、エルマと話をした。

 シスター・ヴェガは孤児院の担当から外れた、とのことだった。それもあって、ほんの少しだけ空気が変わったようだった。


「いまはすっごく過ごしやすいんだー、アンジュも戻ってくればいいのに!」

「ニナ……アンジュはもう私達とは立場が違うのよ」


 かちゃかちゃと食器の音を立てながら用意された食事を貪り平らげていく少女たちに、招かれた者たちは眉を顰めていた。ひそひそと言葉を交わす声の中にはアンジュをよく思っていないことがわかるものも含まれていた。


「あれが無能の……みだらな元聖女の、娘というやつですか」

「孤児院にいたそうですわ。ほら、あそこ――みすばらしい子供たちが来ているでしょう? 一緒にいるとどれがご令嬢だかわかりませんわね」


 アンジュ、いらっしゃいと呼ばれて向かうと親族という裕福そうな男女たちの前に連れ出された。習ったとおりの淑女の挨拶をすると品定めするような視線を浴びた。


「こちらがアンジュ嬢ですか――あまり、伯爵には似ていらっしゃらないですわね」

「どちらかといえば、ねえ?」


 金の髪も翡翠の瞳も、無能となり果てた聖女――ラヴィエラにそっくりだ。何度も何度も孤児院で言われてきたことだった。

 アンネは、びくっと肩を揺らしたアンジュを庇うように引き寄せた。


「何をおっしゃるんです、この鼻の形や口元なんてサイアスそっくりじゃないですか」

「ほほ、そうですわね……言われてみれば確かに」


 ロージェル伯爵夫人の手前何も言えないでいるのがよくわかる。

 鉄壁の微笑を湛えた伯爵夫人から遠ざかっていくのを見送ってから、ふん、とアンネは鼻を鳴らした。あまり淑女らしくはない行為ではあったとは思ったのか、しぃ、と人差し指を唇につけて「トビーには内緒ね」と片目を瞑った。


 そのとき、きゃあという悲鳴が広間に響き渡った。思わずアンネと顔を見合わせ、ともに駆けつけるとエルマが床に倒れ伏していた。少女たちが泣き叫んでエルマの名前を呼んでいる。


 アンネはサイアスに医者を呼ぶように頼むと、エルマのようすを確かめていた。アンジュもエルマに寄り添い、苦しそうに息を吐く友の姿を眺める。冷や汗をかいており、青白い肌には発疹がぽつぽつと浮かんでいる。


「た……すけ、て」

「エルマ――」


 アンジュはエルマの手を両手で包み込むようにして握った。かつて自分がそうしてもらったのを思い出しながら優しく触れる。


「っ」


 そのとき、温かな光がじわりとにじんでエルマの身体を覆ったかのように見えた。

 途端にすうっと身体に浮かんでいた発疹が薄れていくのがわかった。呼吸は徐々に穏やかになっていき、冷や汗も止まったようだった。


「エルマ!」


 ニナが抱き着くと、目を開けたエルマがきょとんとしたようすで周囲を見回していた。

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