第34話 戦闘前準備

 ※ノア視点



 南部境界守護者たちが一堂に会し、その実力を高め合うのが戦術訓練。

 現在、未曾有の災害が起こることが予期されている事態であり、それに少しでも対応できるように今一度チームの戦術を磨くことを目的として開催された。


 私はここに来て初めて行うイベントであり、私自身、まだまだ未熟であるけれど、迫っている相手は優しくない。真剣に取り組んで、少しでも実力向上の糧とする必要がある。


 一回戦の相手はミスラ班。ミスラさんとは一度会ったことがある位の関係だけど、ミスラ班にいるルオには色々と苦い記憶がある。


「ミスラ班って言ったらパワータイプのルオと搦手タイプに見せかけたパワータイプのミスラとあと一人は今年入ってきたウィルの同期だよね?」

「そうですね。僕の同期であるヘレナです。彼女の能力は【再上映】。過去に行った行動をもう一度再現するというものです」


 どういうことだろう。過去の行動をもう一度行う。聞いた限りでは特別な何かがあるように感じないけれど。


「それって具体的にどういう能力なの?」


 分からないことがあるのならば聞けばいい。私は素直に能力の詳細を聞くことにした。


「彼女の能力【再上映】は過去に彼女が行った行動の結果をそこに再現するというものです」


 ウィルが言うには、ヘレナがここでパンチをした場合、ヘレナの能力によって彼女の行動が記録され、記録された行動は彼女がどこにいようと能力を使用することでもう一度そこでパンチをしたという事実が再上映されるのだという。


「分かりにくいですね。簡単に言ってしまえば、彼女は攻撃を文字通りことができるのです」

「つまり、攻撃を置いておいて、任意で発動できるということ?」

「そうなります」


 うげ。なんか相手にすると考えることが多くなりそうな厄介な能力だなぁ。


「ヘレナの能力は面倒って感じがするね。強いのか弱いのかは分からないけど、弱点としては一度そこで何かしらのアクションをしておく必要があるということ。つまり、特別警戒するべきなのは彼女の周辺だね」


 ジュリアがそう言う。でも、結局どこにどんな攻撃が設置されているのか分からなかったら厳しいと思うんだけど。


「中々厄介な能力だね」


 私はまだここに来て一月くらいしか経っていないから、能力の扱い方も戦闘の仕方もあまり上手くない。だというのに、迫ってくるのは王国史でも稀に見る災害だという。それに対応するためには、今回の戦術訓練は貴重な機会になるのだ。


「そういえば、ミスラさんの能力って何?」


 気合いを入れつつも、私は気になる情報をチームメンバーへと求める。

 ミスラさんの能力も知らないのだ。


「ミスラの能力は【精神干渉】。対象一人の精神に干渉して、無理やり士気を上げたり、下げたりすることが出来る。そういう干渉系の能力には自らの聖気で抵抗できるってことは教えたよね?」

「うん」


 自らの内面に干渉してくる能力なら、自分の聖気で抵抗するか、ミスラさん相手の場合は強固な精神力があれば良いのだとか。


「ミスラさんの精神干渉に抵抗するのはかなり難しいですから、能力の発動条件であるミスラさんに触れないようにすることが大事ですよ」


 そうアドバイスしてくれるのはウィルだ。ミスラさんの能力の発動条件は相手に触れること。ならば、触れられないように奇襲を仕掛けるのが良いだろうか。


「基本的に相手の戦法としては、ミスラさんがルオさんに精神面での強化を施し、120%の力を引き出したルオさんを中心とした立ち回りとなるでしょう」

「それに、ミスラだってかなりのフィジカルだよ。ミスラが後方支援だって思ってたら痛い目を見るからね」

「うへぇ、そうなんだ。そんな風には見えなかったけど」


 ミスラさんはかなり近接戦闘が得意なようだった。見た目は雪の妖精みたいに儚い雰囲気を出しているのにね。人は見かけによらないってことなんだろう。レイも見た目によらなかったし。


「僕たちの戦法としては、僕の能力を上手く扱い、多角的に攻めることにします。その隙をノアさんが大胆にジュリアさんが惑わすという方法で行きましょう」

「結局、実戦形式の訓練は臨機応変さが求められるから、あんまり作戦云々を考えていてもドツボにハマるだけだから」


 ジュリアはそう言う。

 能力という一人一人固有の力を持っている中で、得意不得意というものは必ず出てくる。


 それに、初見の技だったりも沢山だろう。


「臨機応変に、これに尽きる」


 負けても自分の糧にできるかどうかが鍵だ。

 頑張ろう!

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