第33話 戦術訓練
本日をもって、俺は堂々とこの南部で生活することを認められた。
「これより、戦術訓練を開始する!」
俺の横で号令をしているのはリベラートだ。境界の警備と言う仕事があるものの、流石に一つの行事の挨拶を統括が行わないというのは如何なものかということで、リベラートが今は取り仕切っている。
「皆は知っていると思うけど、彼が俺たちの味方となった魔物のレイだ。彼の体には俺が作ったバッジが付いているから、今後彼と同種の魔物が現れた時はそれがあるかないかで判断してくれ」
俺はローブの部分にリベラートから渡されたバッジを身に付けている。これは、俺と同種の魔物と俺の判別を付けるための物だ。言われて初めて気が付いたのだが、俺かて魔物。確かに同種族の別個体がいない理由が見当たらない。
原作で登場している様子がなかった魔物だし、転生体と言うこともあって俺は俺以外に存在しない物だと勝手に考えてしまっていた。
『ご紹介に預かった、魔物のレイだ。皆とは一度顔を合わせているから初対面と言うことはないと思うが、まあ今後とも良くしてくれると嬉しい』
俺が水魔法で文字を投影すると、目の前に集まった守護者たちからざわめきが走る。まあ、最低限の顔合わせだけで終わった人もいるから、俺との意思疎通が可能かどうかを知っている人はあまりいなかったりもする。
「レイは今後、救急要員としての活躍を期待している。彼の紹介はここまで。俺は境界の警備に行くから、あとのことはローゼに任せるよ」
そう言ってリベラートは壇上から降りて、代わりにローゼが上がってきた。
「はーい。じゃあ今から私がここを取り仕切るわね。今回の戦術訓練の目的は、いつ起こるか分からないパレードに備えるために、実戦に近い経験を少しでも積んでもらうことが目的よ。じゃあ、今回の戦術訓練について説明するわね」
戦術訓練。
それは、個人戦、チーム戦に分けられる。今回の場合はチーム戦のトーナメント方式となる。
南部の訓練区画に設けられた魔界を模した施設をステージとして、三対三のチーム戦を行う。
今回のチーム戦における勝利条件は、どちらかのチームの人間が全員戦闘不能に陥るか、審判が勝負ありと判断するかのどちらかだ。
戦術訓練には様々なルールがあるが、今回行うのは最もスタンダードで勝利条件が分かりやすいタイプの物らしい。勿論だが、後遺症を残すほどの大けがをさせることや相手を殺害するような事はしてはいけない。
完全なる実戦形式の訓練であり、必要とされるのは個々人の戦闘力ももちろんだが、チームで意思疎通を行い、チームワークを取ることが重要になるだろう。
戦術を考える頭脳やリーダーに求められる指揮能力など、この戦術訓練で鍛えることができる力は数多い。
デメリットとしては、歴の長さによる実力差がシビアに表れてしまう。いくらチーム戦とはいえ三対三。個人の実力もかなり反映される人数だろう。
「前代未聞の驚異が迫っているからこそ、この戦術訓練で何かを学んで欲しいと思っているわ。もし怪我したり、疲労が溜まってしまっていても、レイが何とかしてくれるから運営本部まで知らせてね」
俺の能力は疲労回復にも効くし、傷を再生させることも出来る万能回復系能力者ということで、このような場面でも酷使されることが決定した。
別に嫌だという訳では無いが、魔物だろうと聖気の消費は流石に魔素で補えるものでは無いので、使いすぎるといざと言う時に役に立たなくなる可能性はあるが。
だとしてもかなり便利なので俺の判断で能力は使って欲しいとの事だ。断る理由もないし別に構わない。
「さて、では第一回戦ね。第一回戦第一グループの対戦カードは、ウィル班vsミスラ班、第二グループはゴア班vsシャルル班、第三グループはノット班vsメナ班ね」
擬似魔界訓練場は、訓練区画に三つ用意されているので、同時に三組の訓練が可能だ。そのため一気に一回戦の三グループの試合を執り行うため、今回は幹部の人達の半数がレフェリーとして参加することになっている。
ってか訓練区画広いな。マジで広大だ。擬似的な魔界を再現したフィールドとかが用意できていると言うだけでかなり凄いことではあるのだが。
一回戦の対戦カードがウィル班対ミスラ班というのを聞いて、戦力差に違いがありすぎるのではないかと俺は思ったが、まあ仕方ないのだ。ここは良い経験が積めると思って、ノア達には頑張って欲しい。
「さて、じゃあ私たちも観戦席へと向かいましょうか」
隣にいたローゼにそう促され、俺は観戦席へと向かう。観戦席はフィールドを俯瞰して見ることが出来る高所に位置している。流石に三つのフィールドを同時に見るようなことは不可能だ。フィールド一つにつき観戦席が付いている。もちろん俺が選んだのはノアが活躍するであろう、ウィル班vsミスラ班の場所である。
審判はツバキと複数のあまり関わりがない守護者さんが担当するようだ。
擬似魔界と言っても割と広大だから、審判も複数人必要なのだ。
はてさて、この戦いはどのような結末を迎えるのか、気になるところである。
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