第30話 今後の課題

 道化師とパレード。今回の議題における本題はこれだろう。ぶっちゃけ俺の存在がどうこうはさしたる問題ではないのかもしれない。


「彼らの調査結果から、道化師であるフィーネが裏に潜んでいる可能性が浮上した。今回のパレードはただのパレードにはならないかもしれない訳だね」

「とは言ってもよぉ。やることが変わることはねぇと思うが」


 道化師がいたとしても、守護者が行うべきことは変わらない。エリクはそう言う。まあそうなのだろうけど。


「そうだね。だけど、パレードを経験したことがない子たちもいるし、何よりフィーネが裏にいると言うことは、知性体が複数であるという可能性すらあるんだ」

「あ?どういうこった?」


 リベラートが発した言葉にエリクは疑問を浮かべる。

 知性体が複数。彼のその発言に、エリク以外の幹部の面々の表情が驚愕に染まった。ローゼとツバキはどうやら納得しているようで、苦い表情を浮かべている。


「フィーネの能力は『カリスマ』。彼女の立ち振る舞い、言動、表情、一挙手一投足、何から何までが彼女を魅力的に見せてしまう。常時発動しているわけではないけど、非常に聖気の消費が少なく、だというのに、耐性がなければ洗脳に近いほど彼女に心酔してしまう」


 聞いただけで厄介な能力だと言うことが窺い知れる。なぜ彼女が道化師のリーダーではないのか疑問に感じる能力ではあるが、この能力があるのならば帝国の辺境伯領を壊滅させることも容易いだろう。まあ、対抗戦力がいなければの話だが。


「そりゃまあ、めんどくせぇ能力もあったもんだな。ってかなんで知ってんだそんなこと」

「……昔、戦ったことがあってね。というか、フィーネの能力は有名だよ?」

「あ゛?マジでか?」

「マジマジ。その時は俺はまだ守護者になったばかりの新人だったけど、当時の統括を殺害されて大変だったんだよ」


 その一言にローゼとツバキ以外の幹部が目を見開いて驚いている。


 まあ話を戻して、統括と言うのは、今のリベラートの地位だ。リベラートの実力は知らないが、幹部のみんながこれほど驚いていると言うことはそれだけリベラートの実力を信頼しているということの裏返しでもある。


「そんなこと聞いたことないんだけど?」


 リリアが若干責めるような口調で言う。


「まあ、言うべきことでもなかったからね。とは言え箝口令を敷いていたわけではないから、知っている人は知っている情報だけど」

「道化師によって南部が危機的状況に陥ったって話ならオレも聞いてるが……」


 だがそれを聞いたのはオレが守護者になってからで、事件発生の一年後の話だ。なんてエリクは言っている。


 その疑問に答えたのは意外にもローゼだった。


「あまり言いふらすと領民が不安になってしまうから、領主が必死に隠したのよ。境界守護者がやられてしまったら領地の防衛は絶望的。南部の統括が死亡したなんて情報はいたずらに不安を煽るだけのものでしかなかったから」


 まあ、その決断は英断だったと言えるのかもしれない。統括が死亡したとはいえ、当時の戦線はまだ維持されていたのだろう。話を聞く限り、相打ちくらいには持っていけていたのかもしれない。

 敵が領内まで侵攻することはないが、南部の統括が死んだという情報を掴んだ民衆がどんな行動に出るのか、為政者としては考えるのも面倒なことだろう。下手したら南に住んでいる領民が一斉に北に押し寄せてくる羽目になる。それに、民衆の不安を扇動して変な革命家が出てくる可能性すらある。まあ、領主目線からしたら非常にだるいな。


「なるほどなァ」

「まあ、あの事件のことを知っているのは俺とローゼ、あとツバキとミスラくらいかな。他の人たちはもう代替わりでいなくなっているし、あの事件で死んでしまった人たちも多いからね」


 エリクはその説明に納得したようだが、まだ聞き足りない人が居るようだ。

 

「そんなに被害が出てたの?」


 リリアがそう質問する。それにリベラートは答えた。


「あの事件はね、魔物を従えたフィーネが気配を消して俺たち守護者を一人ずつ暗殺してたんだよ。境界警備の守護者をおびき出して、暗殺する。だからこちらの対応も後手後手になって被害が重なってた。幸いなのは、被害の割に派手ではなかったことだね。だから領民に情報が漏れることはなかったんだ」


 リベラートがそう言う。それからこの話は一旦置いておくことにして、道化師フィーネの対策を話すことになった。


『さっきリベラートは知性体を複数従えているって言ってたが、それはどういうことなんだ?』


 俺は少し気になったことを聞いてみることにした。

 リベラートは先ほど、フィーネがユニーク個体を複数従えている可能性について言及していた。


「ああ。それはね、ある程度知性があるユニーク個体ならフィーネのカリスマで従えることができるんだけど、ユニーク個体に従う魔物はそれと同種か近しい種族ではないといけない。君たちが見たのは、様々な種の魔物が入り乱れていたんでしょ?なら答えは一つ。それぞれの種のユニーク個体が存在すると言うこと」

『ちょっと待て、それだと最低でも四種のユニーク個体がいることになるぞ!?』

「……ちょっとまずいね」


 ちょっとどころじゃ済まないような気がするんだが?

 最低でも四種のユニーク。そしてそれに従う無数の魔物。この南部だけの戦力で抗うことができるのだろうか。


 原作でもこんなピンチはそうそうなかったはずなんだが?


「それはまあ、レイがいるから何とかなるんじゃないかな?あとはこの南部の守護者全てを動員して、俺が初手で全力を出す」


 そう言ったリベラートのその覇気に、俺は呑まれてしまった。

 忘れていたが、彼は南部統括。原作では『一騎当千』と謳われた、東西南北全ての守護者の中で殺戮に特化していると言われた能力者であった。


『……ちなみに、全力と言うのは如何程?』

「うーん。命にかかわらない程度に可能な限りの聖気を用いた一撃、かな」

『それって、どれくらいの規模なんで?』

「ちょっと地形は変わっちゃうかもね」


 あー。……あまり考えないようにしよう。


「あの、幹部になるとこれが普通なの?」


 と、静まり返った室内で木霊するのはノアの疑問。


「そんなわけあるか!」


 リリアの渾身の叫び声が返ってきた。他の幹部たちも引き攣った笑みを浮かべている。

 リベラートのように数を相手にした戦法を持っている人物はそれほど多くない。とは言え、守護者であれば一人で十体くらいの魔物であれば同時に倒すことができるらしいから、対魔物なら幹部連中もかなりの強さがあるんだけどね。


「さて、パレードの先がこの領地であると確定したわけではないけど、まあ十中八九狙いはこちらだろうね」

「あのさ、他の道化師がいる可能性とかは無いのかな?」


 と、ノアが問う。


「それはないだろうね。彼らは群れない。道化師と言う組織ではあるが、その実一人一人がひどく身勝手だ。それに、グランドル領が壊滅したという知らせに道化師が複数いたという情報はなかった。だからいるのはフィーネ一人だろう」


 なるほどね。まあ道化師と言う組織のことを聞いたときからそうじゃないかとは思っていたけど。


『じゃあ終末の美はどうなんだ?グランドル辺境伯領を壊滅させたって聞いてるけど』

「それも、あまり現実的とは言えないかも。多分終末の美の連中は帝国の方に行っていると思う。道化師と終末の美は仲が悪いからね」


 ふむふむなるほど。なら、警戒するのはフィーネ一人でいいと言うことか。


「じゃあ、次の話題に進もうか」




 

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