第29話 調査結果

 地下通路を通り、守護者の生活区画へと帰ってきた一行。

 道化師の誰かが絡んでいる可能性があるため、この情報は一刻も早く司令部へと伝達する必要が出てきた。


 そういう訳で早速司令部へとやってきた訳であるが、丁度幹部会合の真っ最中だったようで、司令部にいた一般守護者さんに待合室まで連れてこられ、そこで時間を潰すことになった。


 迂闊に俺を出すわけにもいかないので、俺は今でも布に包まっているままだ。


 待合室にいる間、ノアが道化師について気になったことをジュリアやウィルに聞いているが、ウィルもあまり知らないようで反応に困っている。

 

「あたしだって知ってることは少ないんだけどね。道化師の幹部は五名。その内名前が判明しているのが、『狂気のカリスマ』フィーネと『泡沫の姫』ヒバナくらい。あとは教祖であるイックス」


 五人の内二人の名前と二つ名は知っているが、それ以外は知らないらしい。それに加えて、これが彼らの本名であるという保証すらないようで、能力が判明しているのはフィーネだけなのだとか。


「彼らの行動原理もよく分かってないし、謎だらけの組織なんだよね」


 そう言ってこの話は締められたのだが、すぐに部屋に先ほどの守護者の人が入ってきた。どうやら幹部会合は終わったらしい、魔界調査から帰ってきた俺たちの報告を聞きたいから来てくれとのことだ。


 一般守護者の人に案内され、俺たちは円卓の間へとやってきた。およそ数週間ぶりにこの部屋に入る。中にいた顔ぶれは俺がここにやってきたときと全く同じだ。当たり前だが。


 案内をしてくれた守護者さんが役目を終えたとばかりに帰還したのを確認して、幹部たちの許可を得てから俺は解放された。


 調査の労いの言葉を貰ってから。早速リベラートに聞かれる。


「さて、では調査結果を聞かせてもらえるかな?」


 この場で発言するのは班のリーダーであるウィルである。彼は簡潔かつ明瞭に魔界で見聞きしたことを極めて冷静に説明していた。


 異なる種が徒党を組んでいたこと。

 何者かの統制下にいただろうと言うこと。

 以上から、道化師『狂気のカリスマ』とユニーク個体が同時に存在している可能性を示唆していた。


「うーん。相当まずいね」

「何呑気なこと言ってんだリベラート。この数年で一番やべぇ出来事じゃねえかよ」


 いまいち危機感がないリベラートに苦言を呈すのはエリクだ。いつものように乱暴な口調から発せられる言葉はこの場の幹部の意見の総意でもある。


 だが、リベラートと言えども呑気になっているわけではない。態度こそ飄々としているように見えるが、その実誰よりも頭を回しているのだろう。


「レイの存在を公にする時が来たのかもしれないね……」


 ボソっと呟いたリベラートの言葉に異を唱えたのは意外にもアリベルトだった。


 アリベルト・オルスラー。


 俺と彼の接点は幹部による監視という名目での一日同居の時に一緒になったことが一度だけあるという程度。いつもはリリアやツバキ、リベラートなどと一緒にいることが多かったため、アリベルト含めエリクやローゼとはあまり接点がないのだ。

 

「少し早いのではないか?確かにパレードが道化師の手に落ちている可能性があろうとも、レイの手を借りるまではないと思うが」

「本当にそうかい?帝国の辺境伯領が壊滅しているんだ、戦力はどれだけ多くても困らない」

「……それは分かるのだが、この重大な局面で内部に不穏因子がいると言うことを態々明かす危険性がある」


 二人の言い分は尤もだ。メリットとデメリットが均衡している。俺と言う存在を明かすメリットは極上の回復系の能力者を味方につけることができること。デメリットは守護者の信頼関係に罅が入る可能性があるというところか。


「アリベルトの言い分は分かるよ。でも、俺たちはそこまで脆い信頼関係の上に成り立っているのかい?」

「……むぅ」


 どうやら、アリベルトもリベラートと同じくらい守護者たちを信頼しているらしい。リベラートの言い分に反論ができずにいる。


「あらあら。アリベルトくんは無理して悪魔の代弁者になろうとしなくていいのよ?」

「……だが必要だろう」


 どうやら、あえて反論することで議論の質を上げると言う目的があったようで、本心としてはリベラートに賛成していたらしい。


「レイの存在は一気に明かすんじゃなく、一人ずつ順番に明かしていけばいい。俺たちの説得もあればなんとかなるだろう。最悪、リリアがいるからね」


 やはり未来が見えるというのはそれだけで頼もしい味方となることが分かった。リリアが便利キャラすぎる件について。


「異論がある人はいるかな?」


 幹部全員にリベラートが問うが、異論がある人物など一人もいなかった。南部の守護者たちの結束力はどうやら俺が思っていた以上のものがあるようだ。

 誰からも反論がないというのはそれだけで凄いことである。改めてこの環境に身を置けて良かったと感じる次第だ。


「さて、じゃあ次の議題は道化師とパレードについてだね」

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