第27話 魔界調査2

 ウィルがリーダーではあるものの、知識や守護者としての経験はジュリアの方が一日の長があるわけだ。


「レイが住んでた家もあと少しで見えてくるかもね」

「え、レイってここら辺に住んでたの!?」


 ノアが言ったことにジュリアが驚愕している。そりゃ俺だって魔物なんだから生息地は魔界だ。


『まあそうだな。ここら辺で数十年もぼけーっと過ごしてた』


 やること無くて魔法の研究と能力の研究で一日を潰していただけとも言う。

 今考えるととんでもない時間の使い方だったと思う。人間時代では考えられなかったことだ。


「へぇー……ん?」

「あ」


 呑気な会話をしていたら、空中から鳥型の魔物が急降下して、明確な害意を持って突進してきた。


 それを認識したウィルが手に持っていた剣を素早く鞘から抜き取り、魔物がこちらに向かってくる勢いを利用して切り捨てた。


『今のは、流石にユニーク個体じゃないか』


 そうだとしたらここで全て解決である。


「違うね。ただ襲いかかってきただけ。レイの威圧が効きづらくなってきたのかも」

『俺が近くにいることで魔物が襲ってこないことのメカニズムが解明できていたら、少しは原因が分かったかもしれないけど』


 俺がそんな不満を言うと、ノアが考えていることを意見してくれる。


「レイの方が他の魔物よりも強いから寄ってこないんじゃないの?今の魔物は後先考えなかったバカだったってだけでさ」


 そう聞くとある程度辻褄が合うかもしれない。


「本能でしか行動しない魔物の行動理念として弱肉強食はあながち間違ってないかもしれませんね」


 ウィルがノアの考えに同調したことで、俺たちは今後そのように考えることを共通認識とした。


「折角ここに来たんだし、レイの家に行かない?」


 そう提案したのは、勿論ノアだ。


「構いませんよ。僕としてもレイさんが住んでいたという家を知りたいですし」

『別に大した家じゃないぞ。廃墟寸前のボロ屋だ』

「そうかもしれないけど私にとっては大事な場所だよ」


 うーむ。そんなことを言われてしまうと強く出れないのが俺という生き物である。


「あたしもちょっと行ってみたいかも」

『そんなに興味あるの?』

「いや、だってレイ程の魔物が住んでたところって聞けば興味も出るよ」

『マジで大したことない場所なんだけどなぁ』


 そう言うも、だとしても一度は目にしてみたいと押されてしまった。まあ見せても減るもんじゃないしいいのだが、本当にただのボロ屋なのだよ。なんか期待が高まっている気がするが、いざ見せたら落胆されるとかやめてよ?


 道中で襲いかかって来た魔物を難なく葬りながら、俺たちはノアの先導のもと俺がかつて使っていた拠点へと足を運ぶのだった。


「ついたー!」

『ついたな』


 目の前にあるのは俺がかつて使っていた廃屋。廃屋とは言っても俺の魔法によって定期的に手入れされていたからか、目に入れても痛くない程度の外見は保っていた。


「いや、大分大きな家じゃん」

「ボロ屋なんて言っていたので、てっきりもっと酷いものかと……」


 ああ。まあやっぱり使うなら大きい方がいいから。折角だからちょっと改築したりしたけど、素人仕事だし、どこかでボロが出てるかもしれないけど。


 そんなこんなで中に案内する。家具なんてもんは元々あったものしか無いし、かつてノアとの交戦によってボロボロになってしまっているけど。


「これ、普通に使えそうだね」

「ここが魔界でなければ僕が率先して使っていたかも知れません」


 ジュリアとウィルは興味深そうに家の中をウロウロとしていた。長い間使っていなかったので魔物の住処として活用されている可能性があるから、二人一組となって行動しているところは危機管理ができている証だ。


『ここで休憩にするかな』

「そうだね」


 興味深そうに二階にまで上がっていってしまった二人を見つつ、俺とノアはそんな会話をする。


『そう言えば、ノアも俺と会話するのに支障がないくらい文字を覚えたよな。偉いぞ』

「えへへ。レイと話したかったからね、結構頑張ったんだよ?」


 数週間で文字の読みを覚えたノアは凄い。いくら第一言語だとしても中々のものなのではないだろうか。


「ここが、私の第二の人生が始まった場所。私の原点」

『……大袈裟じゃないか?』

「ううん。大袈裟なんかじゃないよ、レイ。私はここで存在意義を得たの」


 そう言って微笑むノアは、初めて会った時のような年齢にそぐわない儚い笑みを浮かべていた。


 なんだかこのまま消えてしまいそうな気がして、俺はノアの頭に手を置く。……手はないけれど。


 俺がノアの頭に触れたその後、ゆっくりと俺の方へと顔を向けたノア。

 魔物である俺の目と人間であるノアの瞳が見つめ合い、なんとも不思議な感覚を得るのだった。



「レイー?ノアー?ここめっちゃいいね。また調査任務があったらここ使おう!……どうしたの二人とも。なんか穏やかな雰囲気だけど」

「ううん。なんでもない」


 二人して感傷に浸っていると、二階から降りてきたジュリアが笑顔で降りてきたと思ったら、俺たちを見て不思議そうにしていた。


「魔物の住処となっているような事もないようです。ここは比較的安全地帯ということになりそうですね」


 ウィルはそう言うが、まあ元々俺と言う魔物の住処だったんだけどね。というツッコミはしないようにする。


『ここで一旦休憩にしよう。なんだかんだ精神力を使っただろうし、魔界を歩いてきたんだから体力も消耗したでしょ?』

「僕はそうでもありませんが、ノアさんはそうではないようですね」

「そりゃそうでしょ。ノアはまだ能力者になったばかり、体も鍛え切れてないんだから」


 という訳で、ここで休憩と相成った。


「レイ、猪狩って来てくれない?」

『……?まあ、いいけど』


 なんかノアから猪を所望されたので俺は適当に家から出て、魔法で猪を狩ることにした。携帯食品は持ってきているんだし、そんなに猪肉が好きなのかと思うが。


「思い出の場所では思い出の食べ物をね」

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