第26話 魔界調査1

「魔界の調査かー。普通は浅い場所までだけど、レイがいるから結構深くまで進んでもいいって許可が出たんだよね?」

「はい。ノアさんの証言によればレイさんが近くにいることで魔物から襲われる頻度を大幅に減らすことができるようなので」

「私たちがレイの餌だと思われてるのかもしれないね」


 なんて会話をしている三人を見ながら、俺はノアの背中で布に包まっていた。はい。いつものパターンでございます。


「なんかあたしがレイの餌だと思われるの納得が行かないんだけど」


 そんなことを言われても仕方がない。俺は魔物避けとしての活躍を期待されているのだから、甘んじて受け入れてもらって。


 魔界の調査なんて俺がいなかったらできないような危険な任務だ。原作でもそんなことをした描写はなかったしね。


 そんなこんなで魔界へと足を踏み入れた一行。本日の警備担当であるミスラ班に挨拶をし、魔界のより深い場所へと向かう。


 その途中で俺は布から出してもらい、自由の身を獲得したのだった。


「遠くから見てもそれなりの数いるねー」

「そうですね。遮蔽物が多いとはいえ、慎重に行動しましょう」


 俺が住処としていた場所まではまだ距離があるものの、既にここはある程度開けた場所だ。

 如何にかつてのノース領と言えども、都市部からは離れているため建物はそこまで発展していない。


 魔物の種類は様々だ。だが一番多く生息しているのは犬や狼のような外見をした魔物である。


 彼らは生殖機能があり、放っておくと勝手に増えるのだ。

 ゴブリンのような緑の肌をした醜い魔物もいるが、彼らは犬型の魔物に比べると数では一歩劣る。一度に産める数が犬型の方が多いのだろう。


「そんなに変わった事はなさそうだけど……」


 と、ノアが口にする。

 確かに魔物の様子に変わった事はあまりない。俺の存在が抑止力となっているのか、様々な魔物が俺達のことを遠目に見ているだけで、襲ってくることは無い。


「確かに、今のところ変わった事はないけど、知性がある魔物がこんな浅い場所にいることはそんなにないよ」

「そうなんだ」

「『そうなんだ』って……。あ、でもノアはここに来てからまだ少ししか経ってないから分かんないか」


 そんなジュリアの台詞に、ウィルが気まずそうに反応した。


「僕もなんだかんだで今年配属されたばかりなので、ユニーク個体の見分け方があまり分からないんですよね」

「えっ。じゃあ、もしかしてあたしの判断で全てが決まる……?」


 ノアは兎も角ウィルもユニーク個体とは会ったことがないようだ。それだけパレードの頻度は高くないということだろう。


「ちなみに、レイは?」

『分からん』

「……あたしが何とかするしかないのね」


 仕方がないだろう。俺はここに来るまでは引きこもって生活していたのだから、ユニーク個体なんかとは会ったことがないのだ。


「でもまあ、初見だろうと一目見れば分かるはずだよ。他の魔物とは雰囲気からして違うから。なんというか、瞳に知性が宿ってるみたいな……?」


 なんか分かる。知性の有り無しは目を見れば何となく分かるのだ。とはいえこれは前世で見た動物の動画がエビデンスにある。

 まあ、これは知性の有無と言うより理性の有無かもしれないけど。


 そんな会話をしながらもどんどんと深くへと潜っていく。


 かつてノアと出会った花畑も間近になり、俺は柄にもなく感傷に浸ってしまうのであった。


「こんなに深い所まで来るのは初めてだなー」

「そうなの?私はここ来たことあるけど」

「え゛。よ、よく生き残れたね!?」

「あの時は無我夢中だったから何が何だかよく分からなかったけど」


 そうだね。来たことあるというか俺に関してはこの周辺で生活していたのだけれども。


「守護者になって一年以上経つけど、ここまで足を踏み入れたことがある守護者なんてノアくらいじゃないかな……」

「そうなの?」

「うん。魔界の調査なんて百害あって一利なしだよ。生活区画周辺の警備は毎日やってるけど、深くまで来ちゃったら逃げ道もないし、命を無駄にするだけ」

『そんな危険な行為をやろうと思ったのか?』


 ジュリアの言い方では今まで魔界の深くまで来たことなどなかったのだろう。

 ここが深いのか浅いのかはさておいて、今まで危険だからという理由でやることがなかった行為を、ぶっつけ本番でよくやろうと思ったものだ。


 そんなことを考えながら問いを投げかけてみたのだが、案外あっけらかんとした態度で、ジュリアは返答してきた。


「あたしの能力とウィルの能力があれば逃げるのは容易いかなって思ったの。あたしの能力は『幻惑』。最大で三名の対象に幻覚を見せるって能力。何かあったら同士討ちでもさせればいいから」

『……えげつないな。というか、ウィルは他人も瞬間移動させられるのか』

「はい。僕の能力は触れていれば一緒に移動することが可能です」


 つまり、ジュリアで同士討ちさせている間にウィルの能力で逃げると。

 それに加えてノアという戦力、俺というヒーラーと魔物避けがいるのか。


『客観的に見るとバランスが取れたいいチームだな』

「うん。正直この面々ならレイが魔物避けとしての機能を果たさなかったとしても逃げるだけなら十分だろうなって判断したわけ」


 なるほど。かなり考えられているんだな。


『というか、このチームのリーダーってウィルじゃないのか?まるでジュリアがリーダーみたいだが』


 そう聞くと、ジュリアが苦笑いをしながら答えてくれた。


「守護者としての歴ならあたしの方に軍配が上がるけど、実力はウィルの方が上なの」


 そう言うジュリアの言い分に興味を持ったノアが次に問う。


「実力主義ってこと?」

「そう。あたしたち守護者の活動は魔界が主。魔界っていうのは戦場でもあるわけ。そこで的確な指示を出せたり、戦場を見極められる能力があるウィルの方が、リーダーとしての適性が高いの。ウィルは領内で騎士団見習として色々と仕込まれているからね」

「ジュリアは騎士団とか魔法師には所属してなかったの?」

「なかったよ。あたしはたまたま能力に目覚めたの」


 魔法師だったり騎士団だったりは俺もあまりよく分からないが、ウィルは能力者になる前から実力があったのか。

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