第25話 身バレ
少々遅くなりましたが週間ランキング9位!誠にありがとうございます!これからもどうぞよろしくお願い致します。
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ノアと俺の文字教育も佳境に差し掛かってきて、コミュニケーションを取るのに支障はなくなったと言って良い。
文字の読み書きができるようになったノアと俺。さらに、南部の境界守護者としての仕事も割り振られるようになったノアは、ジュリアとウィルの二人とチームを組み、ウィル班としての活動を開始している。
リベラートからパレードの発生の可能性を示唆され、この生活区画も殺気立ってきたところだ。もうあれから一週間以上経っているのだが、未だにパレードの兆しは見えない。
道化師や終末の美なんて組織のことも聞いたが、ぶっちゃけ俺の記憶にそんな組織はなかった。バタフライエフェクトと言うやつだろうか。一体何が原因でそうなったのかは分からないが、グランドル辺境伯領には少し罪悪感を感じてしまう。
上記の要注意団体が何かをしてくるやもしれない。そんな懸念から守護者たちの精神的疲労が見て取れる。少々張り詰めすぎな気がしなくもないが。
『それで、俺も暇なんだが。何か仕事をくれないか?』
俺がそう言う相手はリベラートである。ノアの家にやってきて、今日も今日とて監視役としての務めを果たしている。
「そんなことを言われても、まだ様子を見ている段階なんだよ。君の存在が受け入れられるかってことをね」
『様子を見るって言ったてさ、俺の存在を明かさなければ様子見も何もなくないか?』
「その疑問は尤もだね。まあ、答えはすぐにわかるよ」
リベラートのその言い方に違和感を覚えるも肝心のリベラート本人はそれ以上何も言わないつもりらしい。
俺が少し怪訝な思いをしていたら、家のドアが開く音がした。そして複数人の話し声。ノアとウィルが帰ってきたのだろう。多分ジュリアもいる。
かつてのノアとルオとの手合わせの場で接してから仲良くなったというジュリアだが、話を聞く限りノアと気が合うらしい。年齢はノアの方が二歳ほど年上なのだが、誰に対しても同じような態度をとるジュリアの遠慮のなさが接しやすかったのだとか。
そんなことを考えていたら、俺たちがいる部屋の扉が開いた。
ジュリアもいるだろうに無警戒に開けてしまうのはやや危機感が足りていないのではないだろうか。そんな小言を言おうと俺は扉に目を向けて魔法の発動を試みようとしたが、次の瞬間には俺は氷のように固まってしまった。
目の前にいる人物も二名を除いて同じように固まってしまっているが、さもありなんと言ったところか。
「ノ、ノノノノノア!?ま、魔物ッ!魔物だって!?え、いやなんで統括がいるの?」
「えっ、えっ???」なんて言いながら絶賛大混乱中の彼女は、まあ初めましてだがジュリアだろう。
思考が追い付いていないのかフリーズしてしまった彼女の後ろから遅れてリリアとツバキ、エリクと言った幹部に加えて、初めて見る守護者の人。見た目は長髪で白髪。気だるげな雰囲気を漂わせている女性もやってきた。
彼女も目を見開いて驚いた後、徐々に怒気を孕ませた空気を漂わせる。
『……聞きたいんだが、リベラート。こういうことは事前に言ってから行う物じゃないのか』
「うーん。そうかもしれないけど、百聞は一見に如かずって言うでしょ?あれこれ説明するよりも見せた方が早いって思って。ほら、後ろに幹部のみんなもいるし万が一があっても安心」
楽観的な物言いのリベラートに呆れた様子でため息を零すのは幹部の三名と白髪の女性だ。「またか……」というようなニュアンスを存分に含んだため息であった。
まあ、無理もないだろう。
とりあえず挨拶くらいはしておこう。
『こんにちは。俺はレイ。悪い魔物じゃないよ』
「えっ……あっ……。あたしはジュリア」
「私はミスラ。……はぁ」
ミスラ。この人がミスラか。この間司令部の統括室にやってきてリベラートを呼んだ人。
「それで、納得のいく説明をしてくれるんでしょうね?私、面倒ごとは嫌いなのだけど」
不機嫌さを隠そうともせずにリベラート相手に睨みを利かせるミスラだったが、悲しいかな相手はリベラートである。ミスラの睨みも何のその。まるで気にしていないと言った様子で説明し始める。
俺が知性を持った魔物であること。
ノアを助けてここへ来たこと。
万が一裏切っても容易に殺せるから別にいいでしょ的なことも言われた。それ本人の前で言うようなことではないと思うんだけどさ。
あとは、これまでの監視状況から幹部の人たちも一旦は信用しても良いだろうというお墨付きを経て、説得が完了した。
ジュリアはノアと同じ班のメンバーとして活動する以上、いずれ俺のことを明かすつもりではあったのだろうが、なぜミスラにまで俺のことを説明したのだろうか。
そんな些細な疑問を抱いたので、リベラートに直接問いただしてみることにした。
『なんで最初に俺のことを明かすのがこの二人なんだ?ジュリアは分かるんだが』
「ああ、それはね。ミスラは俺と同い年で、ある程度大人としての対応ができるだろうという信頼があったのと、彼女の能力である『精神干渉』を求めてだね。レイの存在を知ってもらった方が、レイが裏切った時に彼女の能力によって傀儡にすることができるかもしれない。その時になってレイのことを説明するのは色々と大変だから」
合理性はある説明だった。些か俺の心情と言う物を無視している気がするがね。
とは言え、これは脅しでもあるんだろう。俺は意思疎通が可能で人間の価値観、倫理観に精通している。
脅しが効く相手なのだから、裏切ったらそうなるよと脅しておいて損はない。
嫌らしい男である。抜け目もないし、統括と言う地位にいるのは伊達ではないのだろう。
「ここまで意思疎通が可能な魔物とはね……。それにしても、この時期に明かすのは悪手じゃないかしら。もし私がパレードの原因はこのレイって魔物だって判断したら説得なんて不可能になったはずよ」
ミスラがそういう。確かに言われてみればそうだ。現状、守護者たちは魔物に対して敏感になっている。そんな時期に俺と言う者の存在を明かして、パニックにでもなろうことならそれは最悪の事態になり得る。
とは言え、こういう時の最強カードがそこに立っているのだ。桃色の髪をした幹部様がね。はっきり言って便利すぎるよこの人。
「リリアがいるから、もしダメそうなら未来予知からの方向転換でどうにでもなる。まあ、このタイミングでレイの存在を明かしたのは、色々ときな臭くなってきた現状、もしかしたら今までにないほどの激戦が待ち構えているかもしれない。そうなった時に、このレイは役に立つんだ」
「……続けて」
「このレイは回復系の異能を持っている。能力者なんだ」
その発言を聞いたジュリアは驚きのあまり叫んだ。
「早く言ってよ!」
まあそう思うのも無理はない。俺の説明の時に能力者であることを省いたなって思ったんだが、まあ面白がってたんだろうなこいつ。
「はは、ごめんごめん。……まあ話を戻すけれど、レイの能力は回復系の能力。そんな能力を持っているのはこの南部でローゼ一人だけ。“道化師”に“終末の美”が動き出している現状、切れる手札は多ければ多いほどいいんだ。もしレイの存在がこの南部で公になる前に怪我人が多数出るような決戦が始まった時、彼の存在を知っている人が一人でも多いほうがいい」
そういうことか。俺と言うヒーラーを存分に活用するためには、この南部の守護者たちが俺と言う存在を受け入れている必要がある。しかし、その前に大きな戦いが始まる可能性が出てきてしまった。
“パレード”、“道化師”、“終末の美”。もしこの三つが同時に襲い掛かってきたら激戦では済まない。死者すら出かねない戦いになるだろう。そうなってくると是が非でも俺の能力は活用したい。そのために俺の存在を南部の守護者たちに周知させたいわけだ。
しかし、今ここで全員に明かすにはリスクが大きすぎる。外敵の存在が輪郭を持ち出したのだ、守護者たちは殺気立っていて、排他的になっている。
そのため、ある程度大人な対応が可能であると見込まれたこの二名に先に明かしておくことで、俺の存在が公表される前に戦争が起こった際に、俺の能力を守護者たちに使用するために、俺が無害であると説得できる人間の絶対数を増やそうという目論みなんだ。
「なるほどね……。まあ理にかなっているし、認めてあげなくもない」
「複雑怪奇な状況だってことは分かったかな」
これはリスク管理が重要になってくる局面だな。
とは言え、ジュリアもミスラも納得してくれたみたいだし、リベラートの采配には脱帽するところだ。
リリアと言う究極の保険があったという事実からは目を背けることにする。
「それで、急で悪いんだけどさ。ウィル班とレイにはちょっと頼みごとがあってね」
ミスラとジュリアの説得も一段落したところで、リベラートがそんなことを言う。
「頼み事?」
今まで大人しく事の行く末を見守っていたノアが初めて口を開いた。
「うん。パレードが起こりそうかどうか、魔物たちの様子を調べてきて欲しいんだ。本当ならレイ一人に行ってもらおうかと思ったんだけど、レイの姿が誰かに見られたら厄介だしね」
「ユニーク個体が発生しているかどうか、それを見極めろと言うことでしょうか」
次にリベラートに問いを投げかけたのは小柄な少年。ウィルである。
「そう言うこと。この間ノアに話を聞いたんだけど、レイが近くにいたら魔物から襲われることが減ったというじゃないか。原理は分からないけど、それなら比較的安全でしょ?それに、君たち三人なら魔界の探索程度どうってことないと思うけど」
「そこまで余裕があるわけではありませんが、レイがいるのならそうでしょう」
「うん。じゃあそう言うことだから、明日にでも調査をしてきて欲しい」
どうやらここに来て初めてのミッションが課せられたようだ。
魔界の調査依頼。承った。
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