第17話 手合わせ
リリアとノア、それからルオにジュリアやその他諸々の守護者たちが屋外訓練場へと足を運んでいる。
新人の能力がどのようなものなのか。気になるのが先輩と言う生き物だった。噂を聞きつけたリベラートなんかも訓練場へと足を運んでいる。
屋外訓練場。その名の通り屋外にある訓練場であり、石灰で四角く囲われているだけの簡素な訓練場だ。訓練場と言うよりも稽古を付けるための場所と言う方が適しているかもしれない。
既に十名ほどの観客が出来ている中で、審判として任されたリリアが口を開いた。
「いい?これは訓練。しかもノアはまだ自分の力すら満足に使ったことがないんだから手加減しなさいよ」
「承知!」
「ほんとに分かってる?」
「大丈夫だよリリア。いざとなったら俺が止めるから」
「アンタに言われるまでもないわよリベラート。いざとなったらアタシが止めるわ」
「そう?ならお願いしようかな」
戦いたくてうずうずしているルオの様子を見て頭を抱えるリリア。それを面白そうに眺めているのはリベラートだ。
ノアは初の実戦と言うことで若干緊張の色が見える。だが、気後れはしていないらしい。魔界に放り出された経験があるからなのか、度胸は人一倍あるようだ。
「ルールは単純。どちらかが降参するか、アタシが止めと言ったら止めること。いいわね?」
「応!」
「はい」
「では……」
ルオは好戦的な笑みを浮かべ、ノアは表情を硬くしてルオの姿をじっと見つめている。
「始め!」
合図とともに走り出したのはルオだ。
まるで人間とは思えないほどの初速にノアは反応が遅れる。次の瞬間にはルオは人間離れした跳躍を行い、ノアへと一直線に襲い掛かる。
「むッ!?」
しかし、飛び掛かってきたルオにノアは能力を用いて空中に固定した。
「中々のパワーだ!だが……!」
「ッ!」
ルオは己を縛っている未知の力をまるで厚紙を破り捨てるが如く容易に振り払った。
そのまま重力に任せてノアへと拳を当てようとするも、ノアとて馬鹿正直に食らってやるつもりは無い。
バックステップで回避し、ルオの地面を土魔法で泥へと変える。
驚いたルオは少し重心を崩した。
(ここだ!)
隙を晒したルオの足を重点的に念を仕掛け、転ばせる。
しかし、ルオは右手を地面につくとそのまま念を振り払い体勢を立て直した。
「なかなかやるな!」
思ったよりも歯ごたえのある相手に出会えて喜色満面なルオと対照的にノアの表情は苦い。
自らの能力で拘束できる時間が短い上に、この場には念で操れる物体が少ない。ノアの能力を十全に活かせる戦場は、雑多な物が多くある市街地のような場所なのだ。
(とりあえず、そこら辺に落ちてる小石を使って牽制を……)
そうして、ノアは無数の小石を操りルオへと高速で飛来させる。
今までと全く異なる攻撃手段にルオは僅かに目を見開いたが、すぐに対応する。
一粒一粒は問題ないが、これほどの数となると厄介だ。
視界を覆いつくす数の小石。これを完全に躱すには大きな動きをする必要がある。しかし、如何せん攻撃力が足りない。ルオは目を守りながらその攻撃を全て真正面から受けきる。
「今の、わざわざ食らう必要あったのかな?」
そう零したのは観戦していたジュリアだった。
「そりゃあ別に食らう必要なんてねえな」
「あ、エリクじゃん」
ジュリアの独り言に律義に返したのは幹部の一人である、緑色の髪をオールバックにしているエリクだった。
「だよね?食らう必要なんてないよね?」
「ああ。まあそうだが。ルオは脳筋だからな。真正面から受けきって勝つって選択肢を取ったんだろ」
「ふーん。でも痛そうだよ?エリクは痛いの嫌でしょ?」
「嫌だなぁ。オレは真正面からなんて戦い方はしねぇしな。ルオは能力が『身体強化』なんだし、まああの戦い方にもならァ」
ルオの能力『身体強化』。文字通り身体能力を強化するものだ。
筋力、瞬発力、体力、俊敏性、動体視力などを強化する。
「お。動くぞ」
エリクのその一言で観戦していたジュリアを含めたメンバーが戦いへと集中する。
ルオの猛攻をノアは念での身体束縛、土魔法による搦め手でなんとかいなしている。だがそれも時間の問題だろう。ルオは一切本気を出していないにも拘わらず、ノアの顔には疲労の色が見え始めている。
だが、そんな状況でも観戦している守護者たちのノアへの評価は鰻登りで上がっていた。
「あいつ、能力に目覚めてまだ二日だよな?」
「え?知らないけど……」
いくら守護者とは言えノアの事情を知っているのはリベラートを含めた幹部たちに限られる。あとたまたま居合わせたウィル。あの時は夜だったと言うこともあるが、他の守護者の教育に良くないという判断で隠していたのだ。
「あ、ああ。そうか、知らねえか」
「うん。え、ノアって能力に目覚めてまだ二日なの!?」
「そうだ」
「なのにあの出力なの?」
「ああ」
「うへぇー」
能力に目覚めたばかりで自分の力を禄に把握出来ていないだろう人物が、本気では無いとはいえルオに食らいついている。その事実はこの南部境界守護者たちにとっては驚愕の事実なのだ。
その事実を知らなくても、新人がルオの猛攻に耐えられていると言うだけで彼らにとっては評価に値するのだ。
「ウィルもそうだったが、こりゃすげぇ新人が入ってきたのかもな」
「ウィルねー。確かにあれは凄かった」
今年に南部に配属されたウィルも例に漏れずルオによる洗礼を受けていたが、基礎的な戦い方を修めているのと、能力の相性が良かったウィルだったのだが、ルオには勝てなかった。
戦闘の様子を見ると最早ジリ貧だ。このままいけば確実にルオが勝つ。しかし、この戦いを審判しているリリアが止めないのであれば、まだ何かあるのかもしれない。
「お?」
「ん?」
体力を失いかけているノア。その隙を逃さず猛攻を仕掛けるルオだったが、彼の拳は空を切った。
本来ならば決して躱せぬ姿勢であったはずのノアが、不自然に後ろへとスライドしたのだ。
「なるほどな。自らの能力で自らを動かす。中々面白ぇ発想じゃねぇか」
「あれってやろうと思ってできるものなの?」
「さぁな。オレはノアじゃねぇからあいつの能力がどんなもんかは知らねぇが、まあムズいんじゃねぇか?現にバランスを崩してる」
エリクの言う通り、ノアが自分の能力で自分を操るのはかなりの集中力と、何より慣れが必要な技術だった。
ぶっつけ本番でそのような能力の使い方をしたノアは、バランスを保つことが出来ずに倒れる。
その隙を見逃すルオではなく……。
「そこまで!」
しかし、審判によって試合終了の合図が下された。未来視を持つリリアが止めと言ったのだから結果は明白だったのだろう。
「勝者、ルオ!」
審判が下り、観戦者は皆手を鳴らす。
実に見事だったと、ノアを讃えているのだ。ぶっちゃけルオが勝つのは当たり前の試合だったのだから、そのルオにここまで食らいついたノアはかなりのものだった。
「お疲れノア」
「つ、疲れた……」
地面にドカっと座り込んでしまったノアにリリアは手を差し伸べる。
緊張の糸が切れたのか、もう力が入らないようだ。
差し伸べられた手をそっと掴みながら、ノアは小声で言った。
「帰ったらレイにご飯作ってもらお」
是非もなし。
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