第18話 お留守番withツバキ
ノアがルオとの手合わせをしに行ってしまった。
のだが、なぜか家に幹部が来ている。
「あ、あのぉ……」
オロオロと俺の様子を伺っているのは、先ほどの幹部会合で真っ先に俺に攻撃してきたツバキである。
なんで彼女がここに来ているのか疑問なのだが、まあ普通に考えて監視が外れるのはまずいよねってことだろう。
リリアはノアたちと一緒に行ってしまったし、その代わりと言うことである。
ツバキ・アラナミ。
それが彼女のフルネームだ。
日本人っぽい名前なのは出身がこの国ではないからと言う話を前世で聞いたことがある。だが、あまり詳しく明言されたことはなかったはずだ。
彼女の見た目は黒髪黒目で小柄で童顔。消極的なその性格も相俟って幹部の中で、というより、守護者全体で見ても幼い印象を受ける彼女だが、実年齢は二十二歳とリベラートよりも一つ年上だ。
まあ、どっからどう見ても中学生くらいにしか見えないのは奇跡体験と言うほかない。人体の不思議である。
というか、二十二歳ってこの南部境界守護者たち全体を見ても最高年齢ではないか?
……これが?
この何かにつけて自信なさげにしている少女が?
納得できないがこの世界はゲームの世界。前世とは違うのだ。常識は捨てるべきなのかもしれない。……そんなこと言ったら俺が一番非常識な存在だった。なんかすまない。
まあ、そんな彼女なのだが、戦闘となると人が変わったように戦う。と言うか実際人が変わっているのかもしれない。なんというか、無心で戦うのだ彼女は。幹部会合でリリアもそんなことを言っていただろう。
だから、感情による起伏が一切ない。メンタルに一切翻弄されずに戦う彼女は前世でプレイヤーたちからサイボーグ侍とか言われていた。
「…………」
今は俺の目の前で正座しながら瞳を泳がせているのだけれど。
本当に二十二歳の姿か……?これが……?
「あ、あのっ!レイさんは魔法は得意ですか……?」
まあ、得意か不得意かで聞かれたら得意だけど。
そんな意味を込めて頷いておく。
「で、でしたら、ボクに魔法を教えていただけると……」
ああ。そう言えば彼女は魔法が苦手だったか。魔物と戦う上で魔法なんて不要だと思うのだが、何故必要なのだろうか。
というか、教えるったって言葉による意思疎通が出来ないんだから無理なんじゃないか?
そう思ったのだが、その疑問にはツバキも分かっていたようで予め答えてくれた。
「ボクは能力で目に見えない物でも見ることが出来ますから」
なるほど。そう言えば彼女の能力は『天眼』だったな。
三百六十度どこだろうと視界に収めることが出来る能力だったか。効果範囲内で同時に数か所を視点として見ることもできる。監視カメラのモニター数枚って感じかな。上から俯瞰して見ることもできる。
あとは、魔力だとか聖気の細かな動きを見ることが可能だ。それとある程度の透視能力もある。
魔力または魔素、あとは聖気。これらは普通の人間が肉眼で見ることは出来ない。ただまあ、何というか第六感と言うやつがあってな。なんとなくフィーリングで感じ取ることは出来るんだ。
だが、ツバキは精密にそれを見ることが出来る。
透視能力に関しては、エリクの能力が『透明化』だが、透明化したエリクを見ることができる。あとは服を透けてみることもできるとか。壁の向こう側を見れるとか。
男が欲しがりそうな能力だな。風呂とか覗き放題じゃん。やったね!
まあこの能力を持ってるツバキはそう言うことに使うつもりはないようだけど。
そんな彼女の能力があるから、俺が魔法を扱っているところを見て、魔力の流れを見て真似しようという魂胆らしい。
なのだが、良いのかそれは。俺は魔物だぞ。一先ず信用できるまで幹部の監視を付けるって話だったじゃないか。いやまあ目の前にいるけど。
勝手に魔法なんか使って攻撃されるなんて考えないのか……。いやまあそうなったら敵になるだけなのか……。
っていうかあれだな。ツバキの能力って直接的に戦闘力を上げるような能力じゃないんだよな。なのにあの円卓の間で俺、結構追い詰められたけどさ。
ウィルだって冷や汗かいてたけど……。まあ、幹部なんだからそれくらい当然なのか。
そんなことを思っていたらツバキが魔法について懇願してきた。
「お、お願いしましゅッ!?」
噛んだ。
おい二十二歳。あざといぞ二十二歳。
前世でこんなあざとい二十二歳を見たら鳥肌とか立ったのだろうか。ただまあ、庇護欲を駆り立てる見た目をしてるんだよなぁ。
まるで幼女だぞこいつ。
まあいいや。見て分かるんなら今頃魔法使えているだろとかいう疑問は考えないことにする。なんで魔法が苦手なのか考えようよ。
とりあえず、得意な風の魔法を使うか。
魔法に関しては前にも言った気がするが、まあ四つの属性がある。火、水、風、土だ。これに関してはなんの捻りもない。それぞれの属性を魔法で扱えるというだけだ。
それ以上でもそれ以下でもない。詠唱とかそういうのも一切ない。
自分の魔力を外の魔素に干渉させることで魔法を起こすことが出来る。それだけだ。
属性の適性なんてものもあるが、俺は全て扱うことが出来る。
さて、じゃあやりましょう。
まあ見本を見せるだけだから殺傷力のない単純な風起こし程度にしよう。
俺は体内の魔力を放出、空気中の魔素に接続し、魔法と言う現象へと昇華させる。
すると、俺を中心に円を描くように空気の流れが生み出された。
俺の魔法によって発生した気流により、ツバキの衣服や髪の毛がふわふわと一定の法則性を持って揺れる。
「おお……。ボ、ボクもやってみます……!」
そう言ってツバキは俺の魔力の流れを真似して魔法を繰り出そうとする。最初の内は風がふわっと起こったものの、すぐに霧散してしまった。
それを見てツバキは目に見えてしょんぼりしてしまった。子犬か。
だがまあ、なんとなく何が悪いのか分かった気がする。
魔力は目には見えないが、魔法と言う現象になってしまえば話は別だ。例えば、人は筋肉の動きとか筋繊維がどこにどれくらいあるかとかを肉眼で把握することは不可能だろう。
しかし、例えばスポーツにおいては模範となる体の動きはあるし、武道だって同じことだ。
スポーツにおける“体の動かし方”と“魔法の扱い方”は同じで、パンチする時に重心が崩れていると言うことは指摘できるし、ジャンプするときに上手く力が伝わっていないことだって指導できる。それは人体の構造が完璧に理解できていなくてもできることだ。
まあ長々と講釈垂れてしまったが、“魔法”という“結果”が見えてしまったのなら結果から逆算して何が悪かったのかを推察できるという。まあ至極当たり前のことなのである。
あとはまあ、俺が補助してあげればいい。
柔道の授業はしたことがあるだろうか。その時に先生に姿勢を矯正されたことは?水泳の授業でバタ足を補助されたこととかは?
自分の体ではないと思うほどしっくり来たことだろう。
それと同じことをする。
今の彼女は魔力と魔素の境界があいまいになってしまっている状況なのだろう。HDMIを上下逆に無理やり接続しているようなごり押し感がある。
こういうのは長く魔法に触れていないと他人のミスは見つけられないのだ。
とりあえず彼女の体に触れて魔素と魔力を上手く接続できるように補助する。
「えっ……えっ!?」
急に体に触れられてめちゃくちゃ戸惑っている。
まあ攻撃してこないだけマシか。すまん。意思疎通が出来ないから無理やり許可なく触れるしかないのだ。
無理やり許可なくというところだけ発言を切り取ったらなんか犯罪者みたいだな。
うーん。えーっと。ああこうだ。
「……ッ!」
そう。それだ!その感覚を覚えるんだ!
根気強くツバキの魔法を補助していたら、彼女の風魔法も俺と同じように渦を巻いた。
これで完璧だな。
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