第6話 南部境界守護者
俺の胸から剣が生えてきた。いや、刺されたのだろう。
なるほど、俺の人生。いや魔生もこれで終わりか……。
うん。振り返ってもいい魔生だった。悔いはない。
ってなるとでも?
なんちゃって!俺はこの程度じゃ死にません!
俺は冷静に刺さった剣と刺した相手を見る。
自身の体の半分ほどのもある長さの西洋剣を扱い、的確に俺の急所を狙ってきたのは小柄な少年だった。身長は160半ばと言ったところか。不意を突いたいい攻撃だ。これだから守護者は。
剣が刺さっているというのに一向に死なない俺を不審に思ったのか、俺の後ろの少年は驚いて俺との距離を離した。ノアはあからさまにほっとしている様子だ。
俺を殺したくば、魔素と聖気の同時併用が求められるぜ?
とは言え、死なないだけでノーダメージと言うわけではない。傷がついた体では普通にパフォーマンスが落ちる。まあ、すぐに癒せるんだけども。
俺は能力を用いて傷を癒す。ローブも一緒に直ったので、多分ローブも俺の体の一部なんだろうね。
その光景を見た少年はかなり驚いたようだ。
「魔核が……治療された……!?」
と言うか、俺の魔核の位置分かるんだ。見た目は完全にただの黒い靄なんだけどな、俺。
まあ、魔力が他の場所よりも濃い場所が見極められるなら見つけることは容易だけど。
さて、どうすべきか。
反撃するべきではないことは分かる。こちらから攻撃を仕掛けたわけではないものの、完全に敵対しては俺が善良であることを信用してくれなくなってしまうだろう。ここは待ちが安定か。そう思った瞬間、目の前の少年が突如として消えた。
どこへ行った?なんて疑問は俺の胸に刺さった剣によって返答される。
あーなるほど。思い出した。彼は原作キャラの一人。南部境界守護者の一人、『ウィル・ステイル』だろう。能力は『瞬間移動』だ。
合点が行った。最初の不意打ち。あれは彼の能力によるものだろう。瞬間移動によって背後に回って一撃で葬る。これが彼の戦法だ。これが魔物相手だとよく効くのだ。
「やめて!」
「……ッ!?」
ノアの必死の叫びによって、ウィルは攻撃の手を止めた。戦いに夢中になって、すぐ近くに人がいたことをすっかり忘れてしまっていたのだろうか。何やら焦っている様子だ。
そんなウィルの様子を気にも留めずにノアは俺と彼の間に割って入った。
「この人は私の命の恩人なの!だから攻撃しないで!」
ノアはそう懇願する。
まあ、人じゃないけどね俺。
「…………」
どうやら、魔物を庇う人間と言う構図があまりにも現実離れしているため脳がフリーズしてしまったようだ。ウィルはその場で固まって動かなくなってしまった。
「お願い……!」
「……ッ」
美人の頼みは断れない。いや、前例のない事態にどう対応していいか分からないだけだろうけど。俺も余計な真似はせずに事の成り行きを見守る。ここで下手に行動してしまったら敵対の意思ありと判断される可能性がある。
それにしても、境界守護者は彼一人だけなのだろうか。確か、守護者は一日に何回か外を巡回するという業務があったことは覚えているが、決して一人ではなかったはずだ。
ああ、そうだ思い出した。彼には『瞬間移動』の能力があるから特例として単独行動を認めているんだっけ。まあ、万が一四面楚歌に陥ったとしても彼の能力なら切り抜けることは容易いだろう。
そんなことを考えていたら、苦い顔で考えに耽ったウィルがノアを見て驚きの表情を浮かべた。
「あ、貴方は……」
「え、私?」
ノアも何が何だか分からないと言った様子だ。
「貴方は、昨日の……」
「昨日……。……ああ、あれのことね」
あれ?あれとはいったい何の話でしょうか。わたくし付いていけていません。
「無事だったんですか……」
その一言で俺も思い至った。昨日のこととは、ノアと他の奴隷たちが魔界に放り出された件のことだろう。なぜウィルが知っているのかと思ったが、魔界に放り出すなら守護者たちに事情を説明するのは道理か。
「……そこの魔物とどのような関係なのか、僕には分からないし、既に僕では対処しきれない案件になってしまった。それに、貴方が生きていた。その事実だけで救われます。とりあえず、統括に会ってくれませんか?」
「統括?南部境界守護者の統括様に?」
「はい。貴方が生きていたと知ったら喜びますよ。どうぞ、付いてきてください」
そう言われて、ノアは彼について行く。勿論俺も。
なのだが、ウィルは一度立ち止まると瞬間移動で消えてしまった。と思ったら次は凄く大きい布を持って現れた。
「そこの魔物に被せておいてください。流石にそのまま入れる訳にはいきませんから」
「そうだね。その通りだ」
ということで、俺はどデカい一枚の布にくるまってノアに背負われる。見た目が完全に風呂敷を背負った人なんだよね。
俺の体長がそこまで大きくないことが救いか。なんて言ったって下半身がないから人型にしてはコンパクトなのだ。
そんな何の自慢にもならないようなことを思いながら、俺たちはウィルの案内の元、守護者たちの生活区画へと足を向かわせるのであった。
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