第5話 珍道中

「そう言えば、レイって能力者なの?さっきの攻撃、魔法じゃなかったみたいだけど……」


 ああ、そう言えば当たり前すぎて忘れていたけど、普通は魔物は能力を扱わないのだ。まあ当然っちゃ当然で、前にも言った気がするが聖気が魔物にとって弱点だからだな。


 原作でも能力を扱う魔物は登場しなかったし、俺がイレギュラーであることは間違いない。

 だが、ここで変に誤魔化すのもおかしな話だ。まず、魔物が能力について把握しているのはおかしいという前提を忘れて、俺は頷いた。俺は転生者だからね。いいんだよ。


「やっぱりそうなんだ……。どんな能力なの?良ければ見せてほしいな」


 ふむ。まあ別に構わないが、さてどうしたものか。

 俺の能力は回復系だ。その種類は多岐に渡る。研究の成果なのかそれともただ特訓していたから能力の幅が広がったのかは分からないが、今では大半の“癒し”は可能である。


 例えば、傷を治す。これは鉄板だ。転生当初でもできたことだな。後は、体力の回復。それから毒や麻痺症状を回復するなど。精神的な癒しすら与えることが出来る。睡眠不足にも効果がある。

 とは言え、俺は不眠不休で活動できるのでその効果はまだ実証できていないが。理論上はこんなことが出来るけど、まだ誰にも試したことがないんだよね。


 ノアに俺の能力を見せてほしいと言われたけれど、じゃあ何をしようか。

 現状、ノアの体に傷なんて見られないし、体力も消費しているようには見えない。


 まあ、とりあえず使うだけ使ってみよう。


 俺は、体力の回復と精神の癒し、それから誤魔化し程度の外傷に対する再生効果を付与した能力をノアに使用する。


「……おお」


 俺の能力をその体で体験したノアは驚いたようで、目を見開いていた。

 多分だが、俺の能力を破壊系の何かと勘違いしていたのだろう。魔物相手に内側から破裂させたから。


「レイの能力って、癒しなんだ。てっきり壊す感じの能力だと思ってたけど……なんで魔物相手だとああなるんだろ。それとも、二つの能力を持っていたり?」


 その疑問にはノーと答える。

 流石の俺もそんなチートじみたことは出来ない。まあ、これだけでも十分だとは思うけれど。


「そっか。じゃあ、癒しの能力なの?」


 それにはイエスで答えられるな。俺の能力は正真正銘癒しだ。人間に対してはと言う注釈は付くけれど。


 そんな俺の答えに満足したのか、ノアは「ふーん」と一言。


 魔物にとっての弱点が聖気ならば、俺は自身を癒せないのかと言われるとそうでもない。

 ああ、これでいつぞやの疑問が解消できたのではないだろうか。


 ……ふむ。俺はさっきまで魔核と聖気は別々に体内に存在している物かと思っていたけど、そもそも俺自身の体が癒せるのならその理論はおかしい。となると、完全に融合していると考えた方が自然だ。


 そうなると、俺は完全な不死身となったのか。その可能性は大いにあり得るが、俺としてはまた別の説の方がしっくりくる。それは、魔素と聖気の同時攻撃によってのみ俺は殺せるという説だ。

 相反する二つの物が混じってしまっているのなら、その両方にて相殺する。これが一番現実的だと思う。


「魔物の癖に癒しの能力を持ってるなんて、レイって存在が皮肉だよね~」


 それは、貶しているのか?

 ……いや、褒めてるんだろうな。だって嬉しそうだもの。


 なんか釈然としない気持ちを抱えつつも、まあ彼女が幸せそうなら何よりだ。


  ちなみに、ここに来るまでの魔物に関しては何も問題なかった。ノアが捻って殺すし、何より俺が近くにいるから滅多に襲ってこない。俺の獲物か何かだと勘違いしているのだろうか。


 そうして俺たちは進み続ける。

 かつて人間が住んでいたであろう痕跡がそこかしこに散らばっている魔界。ここは何年、もしくは何十年か前まではノース領だったのだろう。俺が定住していたところも含めて。


 建物の数も増えてきて、だんだんと複雑な道のりになってくる。ここら辺まで来ると、まだ人が住んでいると言われても違和感がないほどの保存具合だ。そろそろ、段々と城塞都市ウラグが見えてくるころだろう。


 城塞都市ウラグ。ノース領の南部にある街で、その外郭は境界守護者の生活区画でもある。

 この世界において最早【国】なんてものは機能していない。名目上はノース領もイグナー王国の一部だが、そんなのは建前だ。

 領地一つ一つが国と言っても過言ではないだけの機能を果たしている。そんな領地を守るために、ここノース領では、東西南北を城塞都市で囲み、その更に外側を境界守護者が守っている。


 ここら辺まで来ると魔物の生息率も格段に下がる。体感九割以上は下がる。理由は明白だろう。守護者が狩るからだ。魔物も少しは学習するのか、ここに態々訪れる個体は少ないし、訪れたとしても狩られる。


 と言うか、魔物どもにまともな知性はない。あれは人間を見つけたら殺すとプログラミングされた機械のようなものだ。人間を見つければ襲うが、見当たらなければその場でうろうろすることしかしない。


 完全に人類殺戮兵器の類だよな。

 魔物が何で誕生したのかは俺もよく分かっていないのだ。記憶が曖昧ってこともあるが、確か続編が出る前に死んだからそもそも設定が明らかになっていない。


 まあなんにせよ、そろそろ守護者たちの最終防衛ラインへと到着する頃合いだ。


「遠くに見えて来たね。あれが城塞都市ウラグの一つ目の城壁。ここから先は守護者様たちが守っている最初にして最後の砦だよ」


 最初にして最後の砦。言い得て妙だな。この壁が突破されても、その中にもまだ城壁は立っている。しかし、この防衛線が突破されてしまったら、それは守護者たちの敗北を意味するのだ。


 魔物を倒せるのは聖気を扱える守護者のみ。故に、ここが突破されればあとはお飾りの城壁。物理的な壁でしかない。空から飛来する魔物を相手にはできないし、物理的に壁を突破されたらお終いだ。


 そんなことを考えながら俺たちは進む。そろそろ境界守護者たちに俺たちの存在がバレてもおかしくはない頃合いなのだが……。


 そう思ったのも束の間、なんの前触れもなく俺の胸……多分胸部分から剣が生えてきた。


「ッ!?レイ!!」


 ……は?


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