第35話 パジャマパーティー1
今夜はミランダの部屋に集まってパジャマパーティーだ。シェリーも一緒に、こちらの世界には無い女子会をしようということになったのだ。
レイは、パジャマパーティー前に一波乱あった。
レヴィがパジャマパーティーに参加したがったのだ。
レヴィは本体が剣なので無性だが、精神的には男性のようだ。今回のパジャマパーティーは女性限定であることを伝えると、非常に残念そうな面持ちで聖剣の姿に戻り、ソファにガシャンッと不貞寝? してしまったのだ。
鋭利なものを抜き身のままソファに置いておきたくなかったレイは、レヴィを剣立てにしまってからミランダの部屋に向かった。
琥珀は女の子なので、今回のパジャマパーティーには一緒に参加する。
少し遅れてミランダの部屋に行くと、レイを心配したミランダが部屋の外に顔を出していた。
「そういえば、レヴィと一緒の部屋なのよね」
ミランダが呆気にとられた顔をした。こちらの世界では、レイの元の世界よりも、男女はしっかり別々に部屋を分けている。未婚の女性が家族でも無い男性と同じ部屋は、外聞が悪いのだ。
「レヴィも人型でいることが多いですし、お部屋があった方がいいですよね……」
「後で拡張方法を教えてあげるわ。剣とはいえ、さすがに同じ部屋に男性がいるのはよろしくないし……とにかく、どうぞ中に入って」
***
「わあ! 素敵!!」
ミランダの部屋は、白を基調としたカッコカワイイ部屋だった。
キャビネットやテーブル、ドレッサーなどの家具類は全て白で統一されている。真っ白な革張りのソファには、白い毛皮が掛けてあり、ビビッドなピンクのクッションとモノトーンのボーダー柄のクッションがアクセントになっている。
毛足の長い白いラグが床には敷いてあり、カーテンもふんわりとした真っ白なレースのカーテンと、その内側には淡いピンク色のカーテンが取り付けられている。
壁には、モノトーンのおしゃれで小さな絵画がいくつも飾ってあり、よく見ると魔術式が組み込まれているようだった。
白い三面鏡付きのドレッサーには、モノトーンの小さなジュエリーボックスと香水瓶が置いてあり、こちらにも魔術式が組み込まれているようだ。
部屋の角には、白い植木鉢にトロピカルな大きな葉の観葉植物が植えてある。
琥珀は部屋に着いて早々、白い毛皮の上にさっさと陣取って丸くなった。野生味のあるロゼット柄は、ミランダの部屋に驚くほどハマっていた。
ミランダらしく大人っぽくて女性らしい部屋に、レイは目をキラキラさせてあちこち見てまわっていた。
「あんまり見過ぎないで……ちょっと恥ずかしいわ」
ミランダが珍しく頬を染めてたじろいでいる。そんな姿もとても艶やかだ。
ミランダの部屋着は、ゆったりした大きめのTシャツに、黒のショートパンツだ。出るとこは出て、引き締まっている所は引き締まっている、抜群のスタイルのためか、肌見せ部分は多いが、変に色っぽいというよりは、ヘルシーでセクシーな感じだ。
「ミランダの部屋はとても素敵ですもの、レイの気持ちも分かるわ」
シェリーもソファに座って、にこにこと微笑んでいる。
シェリーの部屋着は、柔らかいコットン素材の膝下ワンピースだ。オフホワイト地で、小さな薔薇の花束模様が、所々入っており、胸元にはギャザーが寄っている。ウエスト部分にはゴム紐のリボンが付いていて、少しだけサイズを調整できる仕様だ。
淡いピンク色のふわふわ素材のロングカーディガンも羽織っていて、清楚でかわいらしいシェリーにぴったりだ。
レイはシンプルなシャツワンピースタイプのスリーパーだ。
持ち物が少なく、お金もまだ持っていなくて買えないため、ユグドラからの支給品をそのまま着ている。淡い水色の生地は、二重ガーゼで柔らかくて着心地も良いので、レイは今のところ特に不満はない。無いったら、無い。
白い木材の脚と淡いピンク色のクリスタルの天板で造られたローテーブルの上には、スパークリングワインやハーブティーのほか、ドライフルーツやチーズ等ちょっとしたおつまみが用意されていて、準備はもう万全だった。
「「「乾杯!」」」
ミランダとシェリーはスパークリングワインで、レイはハーブティーで乾杯をした。
「あの絵画に魔術式が付いてて気になったのですが……あと、ジュエリーボックスと香水瓶にも!」
「レイも魔術師が板についてきたわね。真っ先に魔術式が気になるだなんて……ジュエリーボックスと香水瓶は、それぞれ空間収納と劣化防止ね。絵画の方はね、部屋の雰囲気を変えられるの」
ミランダが苦笑しながら教えてくれた。
ミランダがとある絵画の前まで行き、手をかざして魔力を込めると、部屋の雰囲気がガラリと変わった。
部屋の中が南国のサンセットのような温かいオレンジ色の空間になり、どこからかザザーンという微かな波の音と、潮の香り混じりのそよ風が吹いてきた。
「こんな感じで、部屋の雰囲気を変えられるの。絵画ごとに違うのよ」
「すごい! 前の世界にもこんな凄いものは無かったです!!」
(自分の部屋にも、こういうのがあってもいいかも!)
レイは心の中にメモ書きをした。
ミランダは、夜の帳にアロマキャンドルの明かりを灯すような、落ち着いた雰囲気に部屋を変えると、ソファに戻って来た。
ふわりと微かにラベンダーとオレンジの香りが鼻先をくすぐる。
「パジャマパーティーは恋バナが定番なのです!」
レイが胸を張って言い放った。
「レイは前の世界だと成人してたんでしょ? 恋人はいたの?」
ミランダがズバリと切り込んできた。
「……いたことはあったんですが、交際期間が短くて、あれを付き合ってたって言ってもいいのか微妙なレベルです……」
レイは微妙な顔をした。
向こうから「付き合って欲しい」と言われて試しに付き合ってみたはいいものの、ほとんど会わないまま、始めたばかりの仕事が忙しくなって、そのまま自然消滅したのだ。
「……それは、確かに微妙ね……」
「……レイは若いし、そのうちきっと良い人が見つかるわよ」
シェリーがさりげなくフォローしてくれた。
「そういえば、アイザックとはどうなのよ? 求婚されてたわよね」
ミランダとシェリーが目をぎらりと煌めかせて、ぐっと前のめりになった。
「初対面からいきなりそんなこと言われても……いまいちピンと来てないんです」
レイは困り顔だ。あまり恋愛らしい恋愛をしてきていないので、何とも判断が付かないのだ。
しかも、相手は人間ではなく魔物である。はじめましてな生き物に、レイもどうしたものかと考えあぐねているのだ。
「アイザックは強いし、元の顔はカッコいいし、爬虫類系の魔物女子にモテてるわよ」
「そうよね、やっぱり強い人はいいわよね〜」
「モテるの基準がまずは強さ……!? 元の顔って、サーペントの時の顔の良さですか!?」
弱肉強食のこちらの世界事情から、強さは外せないのだろう。それは分かるが、魔物の時の顔でイケメン度を測ることに、レイは異世界らしさを強烈に感じた。
「もちろん、そうよ。人型の顔なんて、変身魔術でどうとでもなるじゃない? 魔物の顔の良さは、本来の姿の顔の良さよ」
(こっちの世界のイケメンって一体!?)
レイはイケメン迷子になった。そもそもサーペントの顔の良し悪しの基準が分からなすぎる……
「そういえば、師匠に水系の爬虫類男には気をつけろと言われました。あと、水の王には会うなと……女好きだからって」
「水属性の魔物は良くも悪くもウェットなのよ……特に男は割と属性の性格がストレートに出やすいのよね。普段は愛情深いけど、嫉妬に狂って相手を刺すのはよく聞く話ね」
「よく演劇とか物語の題材にもなるわよね。血みどろ系三角関係の」
「こわっ!!」
レイは両腕で自分を抱きしめて、ぷるぷると震えた。
「水の竜王は、先代が放蕩者で、当代が女好きだったわね。どっちも水の性質が悪い方向に出た例ね。ここを除けば、穏やかで優しいから、人とも付き合いやすい竜王よ」
「デメリットが強烈すぎませんか?」
(たとえどんなに優しくても、デメリットが結局全てをダメにしてしまうのでは……?)
確実にダメンズである。
「アイザックの入れ込み様から考えて、レイのことはすごく気に入りそうね」
「水の王とアイザックは、同じ属性同士、仲が良いからね」
「「絶対、会っちゃだめよ!」」
ミランダとシェリーがきっぱりと忠告をしてきた。
「会わなくていいなら会いません!!」
浮気者はもう懲り懲りなレイだった。
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