第5話 その手を離さないで

ショッピングモールでの3分ボマー事件から一か月が経った。

あれから、爆弾事件はない。

俺が警察からマークされ始めたから事件が起きない……みたいじゃないか。

いよいよ迷惑だ。



ケイタは学食でご飯を食べていた。

すると、目の前に一人の若者がトレイを持って座った。

こんなガラガラな食堂で、なぜ相席に?


彼はケイタの方に二つ折りのメモ用紙をそっと渡してきた。


メモを開こうと紙に触れた時だった。



『僕の名前は、大矢古路[おおやこみち]。君と同じ能力者だ。警察に見張られているのは知っている。メモのQRコードを読んで、あとでメッセージをちょうだい。今は元々友達のように振る舞おう』



そう、頭の中に声が流れてきた。

メモを開くと、QRコードしか付いていない。



「……この大学の学生だったんですか?」



小声で聞いた。



「そうだよ。心理学科」



彼は味噌汁を啜りながら言った。



「……あやしいですね……」


「興味は心理より、超心理学の方だから」


「ガチだ……」



自分に超能力があっても、他人のは受け入れ難いから不思議だ。



「周りに超能力者なんていないから、出会えて嬉しいよ。仲良くしようね」



彼が目を細めてこちらを見る。

声からすると、爆弾作り男ではない方だ。

めちゃくちゃ逃げ出したい。



「あの……俺のことどこまで知ってるんですか?」


「あの日、現場にいて君を見つけた。後を追って、自宅もわかっている。君と同じ能力があるんだよ? 一か月もあったんだ。君のことで僕が知らないことなんてないよ」



怖い……



「なんのために、俺に会いに来たんですか?」


「だから、仲良くするためだよ。君だって、嬉しくないかい? 同じ能力者に会えて」


「古路さんは、暴力的なのでちょっと……」


「うん、それは反省した。もし君と出会わなければ、僕は本当のテロリストになって、爆弾をもっと重要なところに仕掛けてただろう。でも君に出会えたから、僕は愛に生きることにしたよ」



もう仲良くが、愛に変わってる……

怖い……



「えと……これから何をするつもりなんですか?」


「ケイタ君は、僕と何したい?」



何もしたくないよ。

関係を持ちたくない。

微妙に会話がずれてるんだよな、この人。



「あとで……メッセージで連絡しますね……」


「超能力があるのに、メッセージが必要なんて、不思議だよね。楽しみに待ってるから」



古路はフフッと笑った。



♢♢♢



「マモル……相談があるんだけど」


「ケイタから相談なんて、珍しいな。俺、ずっとケイタから頼りないと思われてると思ってた」


「それもなきにしもあらずなんだけど」


「やっぱりな。俺は超能力ないけど、お前のことなら大体わかるよ」


「俺のことを、大体じゃなくて100パーわかる男が現れたんだけど、どうしよう」



ケイタは古路のことを話した。



「今流行りの、こじらせ溺愛じゃん」


「チートのね」


「ちょっとワルなのも読者にとってはいいんじゃない?」


「ヤクザものは見かけるけど、テロリストものはあんま見ないから、読者向けにはならないと思う」


「でも、テロ行為を愛で止めるなんて、すごいじゃん。戦わずに平和をもたらすなんて、ヒーローの鑑だ」


「それはいいんだけど、俺の人生どうなっちゃうかだよ。あんなテロ思想と超能力が噛み合った奴とか怖すぎるよ」


「だからこそ、お前が体をはって彼を繋ぎ止めれば、平和は持続するよね」


「いやだよ。俺は自由に生きていきたい」


「まあ、俺のパンツ色当てゲームで興奮するくらいお前はお子さまだからな」


「言葉一つ一つで俺を変態にするの、やめてくれない?」


「お前にはさばけない案件だろうから、俺が一肌脱いでやるよ」


「ま、まじで?大丈夫なの?マモルは普通の人間なのに……」



能力者相手にマモルの自信がどこから来るのか、さっぱりわからなかった。



♢♢♢



メッセージを送り、古路をカラオケルームに呼び出した。



「はじめまして……っていうレベルじゃないくらい、あなたのことも知ってますよ、マモルさん」


「どーもどーも。ケイタがお世話になるみたいで。ここは俺もお近づきになりたいと思って。早速、パンツ色当てゲームしません?まだ古路さんが本物の超能力者かどうか、疑っているので」


「……いいですよ。お二人のゲームに参加できるなんて光栄です」



古路はちょっとイラついているようだった。



「じゃあ、早速どうぞ」


「………………」



古路はマモルのズボンに触れた。



「うっ!」



古路の顔が青ざめて、手を離そうとした。



「まだまだまだ! 離さないで! じっくり視て!」



マモルが古路の手を掴んで、ズボンに押し付けた。



「やめろ! 視せつけるな!!」



古路は暴れるが、マモルはしっかりと手を握って、離さなかった。

しばらくすると、古路は大人しくなり、ぐったりとソファにかけた。



「何色でしょう?」


「色は黒だよ! ってか問題は色じゃねぇ! ケイタ、こいつマジで変態だから、もう付き合わない方がいいぞ!」


「あーすごい。なんか本物っぽいけど、ちょっとそれじゃあ超能力で本当に視えたかどうかはっきりわかんないですよね。もっと具体的に言ってもらえます?」


「言えるか! 恥ずかしい!」


「ああ、そうやって解答をごまかすのはだめです。何が視えたのか、正確に、事細かにおっしゃってくださいな」


「……ケイタ、本当にお前、友達選んだ方がいいぞ」


「ケイタと友達になると、もれなく俺がついてくるんで」


「……最悪だ……もう、俺は帰る!」



古路は怒って帰ってしまった。



「しゃべってみたら、意外といい奴だったから、俺も仲良くしたかったのに」


「いや、そんなにちゃんとしゃべってないよ……」


「ケイタも、パンツ触る?」


「いや! いい!」


「興味あるかと思ったのに。俺と早乙女と金髪の思い出のパンツに」


「……なんか、古路よりお前の方が怖くなってきたよ」



人の怖さって、能力じゃないんだな、って思った。


―第五話おわり―


こちらの震災小説の『その手を離さないで』もどうぞ!▼

https://kakuyomu.jp/works/16818093073686690265/episodes/16818093073689725934

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