炎の夜:笑み
ボン・ファミリーの組長【ドルグット・ボン】は百年の人生の中で三回、別の顔をしたエルインという男に出会った。
十七歳の時。まだ南区が魔晶石の採掘で栄えていた頃に。赤髪を靡かせる筋骨隆々とした黒目の剣士の男として。
三十一歳の時。鉱脈が枯れて南区が寂れ、外から入って来た裏社会の者達の姿が多くなった頃に。白髪を束ね神官の装いをした黒目の吸血鬼として。
そして八十五歳の時。ギャングとして成り上がり、王都の裏社会を牛耳りって久しい時が過ぎた頃に。夭逝したと噂された、王の愛妾が生んだ黒目の王子の姿で。
―― 快活な笑み、柔らかい笑み、無邪気な笑み。
その全て、血の通った仮面のような表情に鈍く輝く、黒く濁った
ブラックホフンの家に憑く守護霊にして、その他を遍く弑す悪霊たる存在。
明るい日差しの中、奴はふと、陰の中から現れる。
「やあ、久しぶりだねドルグット。また顔の皺が増えたねぇ」
……。
……。
茜色の光に染まる壊れた店のホールの中。
逆光に黒く染まる男の影が、その左手でケイリーの頭を掴んでいる。
『ああ、フィナと』
男が無造作に左手を払い、その先でケイリーが床を転がって壁にぶち当たった。
「ケイリーさん!」
「姐御!」
ドルグットの目が、紅玉のような赤い瞳と合った。
『……ドルグットか。随分と顔に皺が増えたもんだなぁ』
奴は、今度は獣のような笑みを浮かべていた。
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