炎の夜:不実の代償を

『俺はお前達を買いに来たんだ』

「は?」


 ケイリーの広げた口から笑い声が止まる。

 リネットやレベッカ達も似たような表情を浮かべている。


 俺はスプーンをパフェにぶっ刺して、山盛りとなったアイスクリームとフルーツを口に入れて咀嚼そしゃくする。


『ボン・ファミリ―、ベルグト・ファミリー、王都商人ギルド南区支部、魔晶石ギルド王都本部、鉱夫ギルド、ビクス武器商会、その他諸々』


 ハンカチで口を拭き、立ち上がる。

 

『主流を外れ、貧民窟ここに押し込められた負け犬ども。一発逆転を狙ってブラックホフン公爵が作った『夜明けの轍』に参加した馬鹿どもでもある』

「……おい、てめえ、今何て言った……」

『馬鹿どもと言った。貴族どもにいいように使い使い倒される、捨て駒どもだとな』

 

 カウンターから飛び出てきたケイリーの右手に胸倉を掴まれた。

 血走った目が俺を睨み付けてくるが、歯を食いしばっている口からは罵声一つ出てこない。


『ほう、理解しているのか。丸っ切りの馬鹿というわけじゃないようだな。安心したよ』


 ケイリーが振り上げた左手を掴んで少し力を込めると、苦痛に歪んだ彼女の顔にびっしりと汗が浮かび上がった。


『そんなお前らを俺は買ってやると言っているんだ。力の差も見せてやっただろ? 弁えろ』

「ぬ、抜かせ……」


 リネット達は動かない。

 ケイリーが俺の右手に捕らわれている意味を理解し、歯を食いしばりながら耐えているのだ。


『お前らには十億メルクをやろう。勿論、他のにも同等の条件を提示する積もりだ。そうそう、ブラックホフン公爵家の隠し財産を受け継いだのは俺だから、支払いは安心してくれて構わない』

「……野郎」

『ん?』

「このクソ野郎が!」


 ケイリーが怒声と共に放った右足の蹴りが、俺の股間を打った。


 鈍く重い音が響き、ケイリーの顔が真っ青に変わる。


「――――――――っ!!」

『お前程度が俺を傷付けれるわけないだろう』


 愚かな女だ。

 たかが一時の感情に身を任せて、救いの糸を自ら捨てるような行動を起こすとは。


 先程カウンターで見せたシェイクは素晴らしかったし、出されたパフェの味も最高だった。


 蓮っ葉な言動には少し眉を顰めたが、それでも使える人材だとは思っていたのだ。


『残念だよ』

 

 代替できる人材は他にもいるだろうし、それが見付からなくても問題ない。


 一々根まで引っこ抜くのが面倒だったから頭を抑えようと思っただけで、物理的に全て消し飛ばしてしまえば騒ぐ者達はいなくなる。


『今度は加減無しだ。肉塊になっても治したりはしない。お前は俺の好意を裏切った』

「はっ、あんたもすぐに毒で死ぬんだよ」

『パフェに毒は入っていないと知っていた。俺にはそれを調べる能力もある』


 だが、俺の中に他人を信じる機能は無い。

 信じられない存在ものに、意味も価値も感じることは無い。

 

 しかしそれでも、だ。


『不実の代償を受け取れ。さあ、塵になるがいい』


 左手でケイリーの頭を掴む。


「待ってくださいイフリートさん!!」

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