炎の夜:四人の来客
南区の
馬車が走れる程度に整備された道の脇には、強盗など当たり前にやる住人達の姿があったが、しかし彼らは馬車から目を逸らし、建物の中に逃げ込み、窓や戸を閉じて閂を掛けた。
この黒塗りの馬車は、王都の裏社会に最も大きな影響力を持つ、ボン・ファミリーの客を乗せた物であり、ここの住人はそれをよく知っていた。
―― もし小石の一つでも当てれば、何かで客の不興を買えば、そいつは無残な死体に変えられて、廃坑の大穴へと捨てられる。
轍の無い道を、砂埃を上げて黒塗りの馬車が去って行く。
車輪の音が消えて少し経っても、しかし誰も、窓を開く者はいなかった。
……。
……。
「か~~っ、何で俺様があのクソジジイの巣穴に行かなきゃなんねえんだよっ」
ベルグト・ファミリーの若頭、
「計画の最後の確認は必要ですよ。何せあの第一王女を殺すという大仕事です。万が一の失敗は許されません」
対面に座る王都商人ギルド南区支部の最年少の理事、トーマスがハンカチで自分の額を拭きながら答える。
「ほっほっほ、顔が真っ青だぞトーマス君。やはり商人に荒事は難しいかね」
鉱夫ギルド、いや今はほぼギャング組織と化しており、裏社会の悪党達に名を連ねるに至ったギルドの幹部、
「はぁ、その肝の太さが羨ましいです。しかし賢者の勇気と愚者の蛮勇は全くの別物。あなた方のそれが、精々前者であると祈るばかりですよ」
「はっ、商人風情が抜かしやがる」
トーマスの顔を狙ったザドッツの右拳は、しかし瞬時に展開された魔法障壁に防がれた。
「……ウィンテスの護衛があなたみたいに単純で、この程度の力しかない者達ならどんなに楽だったでしょうね」
「てめぇ、ぶっ殺してやる」
ザドッツの右手が傍らの大山刀の柄を掴む。
トーマスの左手の黒い腕輪が黒蛇に姿を変え、その人差し指に蛇身を絡ませて白い瞳にザドッツを映す。
「忠告を。それ抜いたら死にますよ」
「はっ、なら試してみやがれっ!!」
ザドッツの大山刀の斬撃、トーマスの黒蛇の毒炎、その二つが馬車の屋根を吹き飛ばした。
「これこれ、やめんか二人とも。こんな所でバカしても、ケイリーは呆れるだけじゃぞ」
両手に短剣を握るドパゲンも呆れた声を出す。
その二振りの短剣が、ザドッツの斬撃と黒蛇の鎌首を逸らしたのだった。
「獣じゃあるまいし、角突き合わせる前に、花束でも買って持って行く甲斐性くらい持たんか」
「ちっ、ジジイが」
「……ふぅ」
ザドッツが大山刀を鞘に戻し、トーマスも黒蛇を腕輪に戻した。
「ふぉっほっほ、若い者はええのぉ。のお、ラガリオ殿」
ドパゲンの向かいに座る白髪の男が頷く。
魔晶石ギルド王都本部の理事長であり、その商いの豪腕と共に、寡黙として知られる人物でもあった。
「しかし若いと言えばビクス武器商会の者は来んかったのお。残念じゃわい」
「裏切りは死だ。いいじゃねえか、後でぶっ潰しちまえば。そうすりゃ俺達の取り分も増えるってもんよ」
ビクス武器商会は、この十年で台頭してきた新進の商会だった。
夜明けの轍に参加した者の多くは、時代の流れの中で斜陽となった者達だったが、メラニー王女の理想等に機会を見出して参加した新進の者達も少なからず存在した。
「彼女とは現地で合流ですよ」
「あんだと?」
「ビクス武器商会の代表は魔法学院の学生です。学院を終えてから現地に行くと、商会から通知がありました」
これまでの遣り取りは、商会の番頭を務める男の一人が行っていた。
そして今回は初めて、商会を取り仕切る一族の者が出て来ることになっていたのだが……。
「おいおいおい、舐めてんのか?」
「ふぉっほっほっほ、時代じゃのぉ」
「………………」
ドォンオオオンッと、爆発音が響いた。
馬車から飛下りた四人が目にしたのは、古い館を改装した店の正面に空いた、大きな穴の姿だった。
ちっ、と舌打ちしたザドッツが駆け出し、トーマスが続く。
「ウィンテス殿下の配下の襲撃か、はてさて、それ以外か」
「…………もしゾルヴィン殿下の手の者だった場合、俺は下りる」
「……ほっほっほ、ワシもじゃよ。流石にあの暗闇の怪物を相手にする勇気なぞ、どんなに絞ってもワシには無いわい」
ザドッツとトーマス、ドパゲンとラガリオ達が穴を抜け、半地下のホールに辿り着く。
そして彼らの目に映ったのは、左手でケイリーの頭を掴む、黒髪赤目の男の姿だった。
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