第24話 破壊神の炎

 腰に【マジック・シリンダー】と【スケイル・シェーバー】の二振りの短剣を装備したカナンが、背嚢リュックを背負う。


 宿で襲って来た男の持っていた短剣【スケイル・シェーバー】も鑑定した結果、中々の業物わざものである事がわかった。


[銘:【スケイル・シェーバー】]

[材質:千年級の竜の鱗と鋼鉄を混ぜて作られた合金]

[特記:十年級の魔剣であり、熟成を経ておらず戦場で多くの命を奪った事で魔剣に進化した短剣です。他者の魔力を弾く性質があり障壁や結界等の魔法防御を貫く事が出来ます。また使い手自身の魔力を剣に込める事で攻撃時の威力が増加します]


「そういえばエルイン様は?」

『あのクソ野郎に様付けは不要だ。裏切りやがったから返り討ちにして、魂を喰ってやった』


「……そっか」

『イケメンだったから残念だったか?』


「ううん、結局そういう人だったかと思っただけ。やっぱこの国の貴族だなって」

『長居は無用。すまんがカナン、氷で船作るから『水』にしてくれ』

「了解。この世に満ちる」


 カナンが呪文を唱える途中で下水道の中にノイズは響き、次いで陰気な男の声が聞こえた。


『聞こえるか、E級の【カナン・ソリティア】君とその使い魔君』

「その声は……」

『ギルド長のクソ野郎、ウカップスだな』


『君達の戦いは見せてもらったよ。すぐに昇級の手続きをするから、ギルドまで来てもらえないだろうか?』

「ボク達はすぐにここを出る積もりだよ。放っておいてくれるなら、あなたの命は取らないであげる」

『マスターの慈悲に感謝しろ三下陰険下衆野郎。お前の寄越した手下のように挽肉ミンチか細切れかってんのを勘弁してやろうってんだ。震えて枕抱えて小便でも漏らしてろ』


 ファ〇ク!!

 

『流石は魔法学院を放逐されたカナン君の使い魔。口が汚くて下品だな』

「冒険者を騙して奴隷にするようなギルド長の方が、何億万倍も下品で卑劣で愚物だよ」


『……カナン君、君には反省が必要なようだ』


 下水道の中を強い魔力の洸が覆った。


『これで君達はそこを出られない。君達程度の力では、遺跡のシステムに守られた壁を破る事は不可能だよ』

『あ~あ、マスターの慈悲を無駄にしやがって。お前は全殺し決定な』


 ジジジッと壁の魔力の洸が揺れ、映像が映し出された。

 クソ陰気でぶっ殺したい顔のウカップスと、ハゲ&デブ&ザ・傲慢面ごうまんづらという裸の中年の姿が現れる。


『うげ、お前らかよ。吐きそ……』


 俺の心が。

 あと口元を両手で抑えているカナンはマジだな。


『違うわ下民の使い魔がっ。く、くくく、ワシは【オッコー・シルヴェリ】! 栄光あるトギラ王国より男爵位を与えられし者だ!』

「おえぇ~~~」


 あ、カナンが下水に吐いた。


『あ―、それでギルド長と愛人関係の男爵さんが何の用だよ』

『おのれ下民がっ』


 取り敢えず両手の中指を立ててみた。

 露出狂男爵の顔が真っ赤っか。

 効いてる効いてる。


『ウカップス! こいつらを殺せ! 今すぐだ! 今すぐ殺して首を持って来い!!』

『閣下、閣下』


 ウカップスが赤顔男爵に耳打ちをする。


『ふ、ふふ。そうだな、そうだな。まずはそこで苦しませてからだな。飢え渇き、下水をすすり鼠を喰らうまでに、まずは堕とす!!』

『そうです閣下。そして選りすぐりの冒険者達を絶えず送り続けます。彼らは休む間もなく削られてき、果ては己の愚行を悔やみ閣下へ許しを乞うようになるでしょう』


『お――い贅肉男爵、そんなにここの町に留まって、領地の経営は大丈夫なのか?』

『は――っはっは、下民は物を知らんな~。そんなものは、ワシの優秀な代官が万事差配するようになっておるわ! それに優秀なワシの息子もおる! お前らが果てるのをここで見届けてくれるわ! それが貴様らに殺されたバルナバへのとむらいよ!』


 なるほど。

 こいつが長期間いなくなっても問題ない、と。


『泣け叫べ! 許しを乞い無様な姿を見せろ! それからなぶって嬲って殺してやるわ!』


 放蕩ほうとう男爵の喚き声を最後に映像が消えた。

 

『さて出るか。カナン、すまんが『水』、『火』の順番で魔法を頼む』

「わかった。それにしても気持ち悪かったよ」

『そうだな』


 俺の状態が『水』に変わる。

 『風』の時に溜めた、下水の中の空気を圧縮し凍結。

 『風』の状態の俺はフィルターの役も務めており、カナンへ浄化した空気を供給し続けていたのだ。


「【灼璃しゃくり】」


 カナンの火の魔法を受け、『火』の状態へと変わる。


『アイアン・トレント展開』


 俺の両肩から伸びた鋼の蔦が絡まり合い、一抱えもある砲身を形成した。

 側面の取っ手を両手で持ち、砲尾と俺の腹部を接続する。


『魔導核融合炉起動』


 ブレイブ00として得た第二のスキル、魔導核融合炉が動き出す。

 俺の心臓に当たる場所から莫大なエネルギーの供給が始まり、俺の中を循環する。


『これは、思った以上にヤバいな』

「だ、大丈夫イフリート?」


 手足の関節から炎が噴き出てるよ……。


『大丈夫、ギリギリで抑えていられる。すまんけどカナン、もうちょっと多目に離れてくれるか』

「う、うん」


 現在出力3パーセント。

 もし5パーセントになったらエネルギーは暴走して爆発し、俺の体は木端微塵になる確信がある。


『さっさと片を付けるか!』


 スレッドマン『鑑定』を頼む。


[了解。鑑定完了。目標の位置はこちらにまります。そしてこれが標的周辺の生体反応の分布になります]


 俺の視界に赤いターゲットが現れ、砲身をそちらに向ける。

 緑色の点は生体反応のマーカーか。

 

『なあ下衆野郎ども、お前らに覚悟はあったか?』


 虐げてきた者達が、陥れられてきた者達が、どれほどの怒りを抱えていたか考えた事はあるか?

 

 自分達は安全だと思う場所で腐った笑い声を上げ、反撃されるなんて微塵も思っていなかっただろう?


『喜べみんな。今日が審判の日だ』


 俺の中の【ソード・アロー】、【エア・シールド】、【アイアン・トレント】、【ダーク・シェル】が笑みを浮かべた気がした。


―― 俺達の無念を頼んだ。ぶっ殺せ破壊神!!


 新入りの【デス・クロウ】が叫ぶ。


 ははは、破壊神か。俺を破壊神と呼ぶか! 

 だったら応えなくちゃいけねえな!!


 俺の体を巡るエネルギーの許容量が限界に達した。

 だが俺は! 更にその先を目指す!!


―― 出力6パーセント!!


『喰らえクソ野郎ども! ビックバン・ブラスター!!』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る