第4話
とは言え、繰り返しになるがやるしかないのだ。切り替えて、アルドリックは設定を改めた。
「まぁ、それで、今の僕はきみの弟子なわけだけど。きみ、二十三だろう? ここを卒業して六年。今の僕が十六ということは、一番長くで十才から面倒を見てもらってるってことでいいんだよね」
塔に引き籠もっている彼の現状が、今回ばかりは功を奏している。エリアス・ヴォルフ一級魔術師の私生活など、誰も知らないという意味で。
確認したアルドリックに、エリアスは「そうだ」と真面目に頷いた。
「魔力検査後に縁故を頼って弟子入りし、修行に励んでいたものの、事故に遭って記憶に抜けが生じた。魔術の知識であやふやな部分が散見され、勉強のやり直しが必要な状態である。そのタイミングで臨時講師の話が飛び込んできたので、おまえも編入してやり直すことにした。おおまかに矛盾はない」
「きみと関係があることにしておくと、構内できみと話す理由になるからいいよね。でも」
「なんだ?」
「いや、ええと、学院を頼らず魔術師に弟子入りをする子って、この国では珍しいんじゃないかなと思って」
「かなりイレギュラーだが、ないわけではない。学院を卒業せずとも、試験に受かれば国家魔術師になることはできる」
規定にあっても、十年に一例もないような。不安が過ったものの、今の自分はイレギュラーな存在と信じ込むほかない。
曖昧に首を振ったアルドリックに、エリアスは注釈を挟んだ。安心させようとしてくれたのかもしれない。
「フレグラントルではよくある話と聞くが。学院に入学する前から個人で魔術師に弟子入りをして、魔力をコントロールする術を学ぶそうだ」
「へぇ、さすが魔術大国。やっぱり魔術が盛んなんだな。小さいころから弟子入りって、なんだか憧れるなぁ」
目を輝かせると、なぜか彼は物言いたげな視線を寄こした。
「俺に言わせると、フレグラントルの魔術師はお上品すぎる」
「そうなんだ」
隣の大国フレグラントルは、五大魔術師ふたりを擁する大陸随一の魔術国家だ。幼いころに本で読んだので、アルドリックも呼び名だけは知っている。緑の大魔術師と森の大魔術師。
そういえば、彼らも師弟という話だったかもしれない。懐かしい記憶を辿っていると、心底嫌そうに彼は断じた。
「なにが魔力は国のものだ。自分のものに決まっているだろう」
「なんというか、きみはこの国に生まれてよかったね」
そういうところ、きみの話にたびたび出てくるビルモスさまに似ているよ、との指摘は呑み込む。エリアスは不敬にも苦手がっているが、同族嫌悪というやつかもしれない。
「どういう意味だ」
「額面通りそのままの意味だよ」
あるいは、幼少のころから能力の高い師匠に従事していれば、傍若無人な性格にも改善の見込みはあったのだろうか。
……いや、ないな。
なにせ、エリアスだ。小さかったころから謎に自信満々で、頑固。こうと決めたら、自分が納得するまで折れることはない。
つまり、なにがどうなって自分を「好き」と言ったか知らないが、撤回する発言を聞いていない以上、変わっていないだろうということ。
エリアスと再会してからの三ヵ月で、自分が学んだすべてである。
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