黒髪の聖女様 

@mia

第1話

「公爵家のリリアとの婚約を破棄し聖女モモカと婚約する」


 賑やかだった学院の昼休みの食堂が静まり返る。

 第三王子に婚約を破棄された私も言葉が出ない。しかし私が何とかしないと固まった生徒たちは昼食を食べられない。


「殿下、婚約のことは私に言われても困ります。父にお願いします。それとモモカ様は異世界人ですが聖女認定はされておりません」


 この世界には百年に一人くらい異世界から人や獣人が現れる。女神の気まぐれだの世界の歪みだの色々言われているが、理由は分からない。

 異世界人は現れた領地の領主が面倒見ることになっている。

 半年前にある侯爵領に現れたのがモモカ様だった。彼女は神殿に聖女認定されていないが、殿下は彼女を聖女だと思い込んでいる。彼女の黒髪がその証拠と譲らない。    

 この世界の人の髪は金銀赤青緑茶紫など色々な色があるが、黒髪の人はいない。

 五百年前の記録に当時現れた黒髪の女性が聖女認定されたとある。その記録一つで殿下は聖女だと思い込んでいるのだ。それは国王様も王妃様も注意しているらしいが全然聞いていないようだ。

 それにモモカ様もモモカ様だ。

 今まで現れた侯爵領の令息と仲が良かったのに、いつの間に殿下と……。

 私たちの婚約は殿下有責で破棄となり、たっぷりと慰謝料を頂いた。

 殿下は卒業後男爵となりモモカ様と結婚する。それでも彼は子も聖女ならば公爵になれると信じているらしい。



 数年後、男爵とモモカ様の子が生まれたが、青い髪の父と黒い髪の母の子なのに金髪の子だったらしい。

 金髪はモモカ様が現れた領地の侯爵家の令息と同じだ。

 男爵家の使用人によると夫に不貞を疑われたモモカ様は「祖母は外国人で金髪だったから、娘が金髪でもおかしくない」と訴えた。

 しかし、公爵になれないと――誰も公爵になれるといっていないが――絶望した彼は妻と生まれたばかりの娘を殺し、自害した。

 田舎の男爵領の事件は一時噂になったが、すぐに誰も口にしなくなった。

 

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