破滅のキャンディ(2)
それから一時間ほどが過ぎ、お酒も食べ物も進んできたころ。ご機嫌になったメンバーは頬を赤らめながら尽きない話に花を咲かせた。
「だが本当に、爆弾事件に続いてお手柄だったな、二人とも」
「そう、そーなのスピアお姉様! 二人とアメリアが本当に救世主に見えたわ……!」
「爆弾事件と言えばよぉ、これ聞いたか?」
酔っぱらったスネークがパクトを開いて音声再生画面を表示させた。そこから流れたのは……。
『ガルガは本当にいい子だね。僕のことを心配して、そうやって意地悪するんでしょ?』
『意地悪じゃない。お前がちっとも自分を大事にしないから、俺が代わりに心配してやってんだろうが』
爆弾解除の最中に交わされた二人の会話だ。スネークは堪らず腹を抱える。牙の隙間からチロチロ覗く先割れ舌が憎らしくて、ガルガはキッと目尻をつり上げた。
「……スネーク、いい加減それをネタにするのやめろ。ぶっ飛ばすぞ」
「だぁーってよぉ! このお
腹をよじって笑う仕草をした悪友の肩を、顔を赤らめたガルガがおもくそに殴った。大人っぽく見えるが思春期真っ盛りの十六歳。全部が本心だったこともあり、余計に気恥ずかしいのだ。存外子どもっぽい反応が微笑ましい。マホロや他のメンバーは頬を緩ませて料理を楽しんだ。
「だがもし犯人の言い分通り紺色のコードを切っていたら大変なことになっていたな。どうしてマホロはあのコードを選んだんだ?」
「へ?」
スピアライトの純粋な問いに、全員の視線がマホロへ集まる。彼女に特別な意図はなく、ただの酒のつまみ程度の話題のつもりだった。だが、視線の中心人物は不自然なほどピクリとも動かない。熱々の肉まんを持ったままの両手の指先にじくじくと熱がこもる。
「たしかに、何でだ? まるで最初から決まってたみたいだったよな?」
「あー……偶然だよ、本当にたまたまで」
追及してくる相棒に視線すら返さず、天井からぶら下がる黒と赤の六角灯篭の明かりを見上げるマホロ。
怪しい。ガルガはマホロの右肩を抱き寄せると、匂いをスンと一嗅ぎする。嘘や隠し事は皮脂を通じて匂いに出る。ガルガの前では無駄な足掻きだ。お揃いのボディソープの香りに混ざってピリリと感じた証拠に、シルバーアイズがじとりと細められる。
「しんがたあーてぃふぁくと、
壁に張られた『店長のおすすめ! 産地直送・古代魚の目玉焼き!』のチラシをバックに拳サイズの目玉を堪能していたマリオネットが言う。骨の奥の暗がりで、細かい牙がみっしり生えた口元が愉快そうに三日月を描く。
「知ってた? 知ってたって何をだ?」
「ぜんぶ」
「マリ、しーッ」
口元に人差し指を当てたマホロを怪訝そうに睨むガルガ。追い詰められた容疑者は食べかけの肉まんを半分に割ると、片方を執拗な口に押し込んだ。
「んぐっ、
「おすそ分け。あ、ギョーザもあるよ。ほら、あ~んしてあげる」
たっぷりのシロップを掬ったギョーザを箸でガルガの口元へ運んだ。肉まんをどうにか飲み込んだ立派な喉仏がごくりと上下する。そして間髪入れずに甘々ギョーザにも条件反射で食いついた。マホロからのあ~んは至極のご褒美だと脳に刷り込まれている。だが、それで誤魔化しきれるものではなく。
「それで、あの場で何をどこまで知ってた」
人前で恥ずかしげもなくあ~んを披露しても、すごく絵になるキリっとした顔で当然のように取調べは続く。
ガルガの半分は足でできているため、座ってしまえばそこまで身長差はない。が、それでも上から端正な顔に凄まれたら圧を感じる。それに、これは絶対に獲物を逃がさない獣の顔だ。誰よりもマホロが一番近くで見て来た。
「えーっと……解除者の深層心理に反応して色を変えるアーティファクトのトラップが仕込まれた新型爆弾だってことは一目でわかってたよ。幸福な記憶と辛かったり悲しかったりした記憶を色として抽出して、幸せな色の方を切ると爆発する。西海岸の塔の町で最近使用されたって履歴があったんだ。新しいアーティファクトは一斉に流通するからね、しばらくは同じタイプの爆弾が使われると思うよ」
追及に観念した確信犯が全てをペロった。要約すると、歩く犯罪データベースの力が遺憾なく発揮された、ということらしい。
これで全部を白状したのだが、解放されるどころかガルガの目がどんどん据わっていく。
「つまりお前は、助かることを最初から知ってた上であんなこっぱずかしい茶番をしたってわけだな」
「わぁ、ガルガ怒ってるね。でも茶番って言い方は悪意があるよ。まるで僕がふざけてたみたいじゃないか」
「どう考えたってふざけてるだろうが! わかってたなら何でもっと早く解除しなかった!」
「まぁ落ち着けガルガ、きっとマホロは――」
ヒートアップしそうになった喧嘩を止めるためにスピアライトが間に入ったその時、近くのテーブルからグラスの割れる音が響いた。
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