第15話 事の真相

 神殿の医務室に運び込まれたカルミアに対して、女性の薬師が派遣された。

 ゼランとクロエの働きがあり、後が残るほどの火傷は利き手だけ、他の部分は少し赤くなっていたが時間とともに火傷の後もなくなるだろうと、薬師の説明だった。

 火の神官は炎を扱うが、それは自身が意図して生み出したものだ。このような事故に遭うことはほとんどなく、カルミアはショックを受けているようだった。対戦から彼女は眠り続けている。


「クロエさん、ちょっといい?」


 医務室にいるのは、カルミアとゼラン、クロエだった。薬師は薬を調合してくると席を外している。

 そこに、テニウスが現れた。

 一瞬カルミアを見て、痛ましそうな表情をしたが、視線はすぐにクロエに向けられる。


「何かしら?」

「大神官様が呼んでる」

「何の用かしら?」

「至急らしいよ。こいつに案内させるから大神官室へ行ってもらえる?大丈夫。俺がここに残るから」

「必要ない。私がここにいる」

「まあまあ、ゼラン。クロエさんは早く行った方がいい。急ぎだったみたいだから」


 テニウスに急かされクロエは腰を上げると、水の神官の後を追って、医務室を出て行った。


「テニウス」

「何?」

「カルミアを傷つける原因を作ったお前を私は許せない」

「は?どうしたの?ゼラン」

「お前が仕掛けたんだろう。あの罠を」

「何、言っているの?ゼラン」

「どうしてお前なんだ?」

「ゼラン…」


 テニウスはヘラヘラした表情を改めると、ゼランを睨みつけた。


「俺には選択肢はなかった。あいつが俺の母を隠した。俺があいつの手足にならなければ、俺の母は殺される」

「そんなことが、だが。教えてくれれば」

「君に教えて、何ができる?」

「そうだが」

「ああ、できることがある。ゼラン、俺のためにカルミアちゃんを殺してよ。そうしてくれればとても助かる」

「それは絶対にできない」

「だったら、黙ってろ!」


 テニウスが先に動いて、ゼランの動きを封じようとした。


「そこまでだ」

「大神官様!」


 突然扉が開き、二つの影が部屋に入ったきた。

 一人は大神官、もう一つはクロエだ。


「テニウス。もうやめて」

「君まで」


 テニウスは訳がわからないと、動きを止めてクロエと大神官を見つめる。


「君の母上は無事保護されました。テニウス。だから、私に君の父上の計画を教えてくれませんか?」

「大神官様!それは本当なのですか?」

「本当よ」

「クロエさん、なぜ、君が知っている?」

「あなたの演技が下手くそすぎて、大神官様に相談して色々探ってもらったら、あなたのお母様が不在なこと、そしてお父様、王弟殿下のことがわかったのよ」

「君は最初から知って」

「最初からではないわ。特にカルミアに対して罠を仕掛けるなんて卑怯なことは知らなかった」


 クロエが怒りを露わにテニウスを睨む。


「君の母上は本当に無事なのですよ。陛下の保護下だから安心してください」


 大神官が微笑みながらそう言い、テニウスは両手を下ろす。


「全部話します。申し訳ありません」


 そして深々を頭を下げ、これまでのことを話し始めた。


 ☆


「うん?」


 話し声が途切れ途切れに耳に入り、カルミアは覚醒した。

 蘇る記憶は炎に包まれる自分だった。


「助けて!」

「カルミア!」


 錯乱しそうになる彼女を抱きしめたのは、ゼランだった。


「ゼ、ゼラン様?」

「あ、気がついたか。悪かった」


 名を呼ばれ、ゼランはすぐにカルミアから離れた。


「あ、あの?私は、」


 部屋の中に、ゼラン、クロエ、テニウス、その上大神官までおり、カルミアは思わず聞いてしまった。


「私が説明するわ。カルミア。体は大丈夫?」

「はい。大丈夫です。少しヒリヒリしますが」


 カルミアは包帯を巻かれた腕を見て、少し震えてしまった。


「後は残らない。大丈夫だ」


 そんな彼女にゼランは安心するように伝える。無表情ではなく、目が細められ、とても優しそうに見え、カルミアは見惚れてしまった。


「こほん!」

「あ、クロエ様。はい。説明お願いします」

「邪魔してごめんなさいね。状況を理解してもらわないとこの後色々大変かもしれないから」


 そう言って、クロエはテニウスが裏切っていたこと、その裏に王弟がいて、両国の和平を壊そうと試みていることを聞かされた。


「カルミアちゃん。その怪我は俺のせいなんだ。命を持って償うつもりだから」

「い、命なんて。私はちょっと火傷した程度ですし、あの、テニウス様には生きていてほしいです」

「カルミアちゃん」

「そうよ。あなたが死んだら、きっとお母様も後を追うわ。それでもいいの?なんのために裏切ったの?私たちを、神殿を」

「それではどうすれば」

「水の神殿で神官としてずっと働いて、償っていけばいい。人手は必要だぞ。あと全ての神使人(しんしと)を捕まえる必要があるし」

「そうだね。ゼラン。カルミアちゃん、本当に申し訳なかった」


 テニウスは深々と頭を下げた。


「さて、テニウス。陛下の前で証言してもらいますよ。あと証拠集めも手伝ってもらいます。ゼラン、あなたもですよ」

「畏まりました」


 テニウスは彼が知る限りの情報、神石のかけらの入手ルートなどを書類にまとめ、王弟が王宮へ出仕する日に備えた。

 その日は不意に訪れる。

 カルミアが怪我を負ってから三日後だった。



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