第14話 神官王女 VS 神官王子
水の神官同士の模擬戦から、数日後、カルミアとゼランが対戦することに決まった。
傷だらけだったテニウスとゼランだが、擦り傷のみで軽傷。そのため治りも早かった。それに対して他の水の神官は骨折や打撲で大変な目にあっていた。
「今日はお見舞いに行かないの?」
「き、昨日行きましたから!」
テニウスもゼランも水の神殿に住んでいるため、療養も神殿内の寮の自室だ。試合終了直後、カルミアは強気でゼランに接していたが冷静になるにつれて、恥ずかしくなっていた。
基本寮は女人禁制。けれども特例として、クロエとカルミアはテニウスとゼランを見舞うことができた。
「私は行くけど?」
「では、私も!」
カルミアの反応をクロエは面白がりながら、二人は水の神殿に向かう。一度目の襲撃以来、襲われることはなかった。しかし念の為、街に出るときはかつらを使用し、町娘が身につけるような服を着ている。
クロエ自身はテニウスなど見舞いたくなかったが、自分が行かねばカルミアもゼランを見舞うことはない気がして、毎日水の神殿に通っている。
「テニウスとゼランなら、鍛錬所にいますよ」
神殿の敷地内にある寮の入口で、水の神官の一人がクロエに話しかけてきた。その視線は彼女の胸元で、クロエはさりげなく視線から胸を隠しながら礼を言う。
(フォーグレンでは全然感じなかったけど、クロエ様大変だな。あ、フォーグレンで一緒に街に出かけたことがなかったかもしれない)
クロエと共に寮を後にして、鍛錬所に向かいながらそんなことを思う。
「あの馬鹿、もう訓練してるわ」
クロエの声に反応して鍛錬所を見ると、テニウスとゼノンが組み手をしているのが見えた。二人とも水の神石のかけらを使わず、拳のみで対戦している。
止めようと動いたクロエだが、その場にとどまり見惚れたように二人の動きを見ている。カルミアも同様で、舞っているような動きに目が釘付けになった。
「すごいわね」
「はい」
「あれ、クロエさん!カルミアちゃんも!」
ふとテニウスが気がつき、動きを止めた。その隙をついてゼランが攻撃を加える。油断したテニウスはお腹を蹴られて、飛ばされた。
「訓練中に余所見するな」
「ははは。カッコ悪いところみせちゃったな」
笑いながら立ち上がり、テニウスは埃を払う。
ゼランが咄嗟に力加減したせいか、被害はうけていないようだった。
「もうそんなに動けるのね」
「そりゃあね。寝てばかりもいられないし」
「そうね。私を舐めてかかっていないようでよかったわ」
「それはそうだよ。クロエさん」
険悪だった二人だが、模擬戦以来少し距離が縮まっていた。それでもおかしな冗談を言ったら最後、クロエは容赦なく攻撃を仕掛けていたが。
「ゼラン様ももう大丈夫なのですか?」
あの動きを見れば大丈夫に違いないが、カルミアは敢えて尋ねた。
「大丈夫だ。それよりあなた方の周りで変わったことはないか?」
ゼランは短くだが答え、さらに質問する。
彼の態度も少し変化が見られていた。
「何もありませんよ。どうかしましたか?」
「いや、なんでもない。三日後、いよいよ対戦だな。全力でぶつかってくれ」
「はい。頑張ります」
カルミアがそう答えると、ゼランがふいっと顔を逸らした。
距離は以前より縮まっている気がするのだが、こうして彼は時たま顔を逸らすことがあった。
(うーん。なんだろう。でも嫌われているわけじゃないよね)
☆
そうして三日後がやってきた。
カルミアとゼランの対戦が行われる。
二人は一礼した後、距離を取った。
カルミアは炎で槍を生み出し構える。対するゼランは氷の剣だ。
合図で対戦が始まる。
カルミアとゼランは力では断然ゼランが有利だ。肉弾戦をすればすぐに敗退する。なので、彼女は炎の礫を行使した。
ゼランはそれを相殺したり、氷の剣で撃ち落とす。
「な、何?」
ピュンと音がして何が切れた音がした。
会場に置かれてあった桶が飛び、その中身がカルミアの全身にかかる。
「変な匂い」
ゼランもその液体の匂いを嗅ぐ。そしてその正体を知った。
「カルミア、武器を捨てろ!」
咄嗟に言われ、迷っているうちに炎の槍から引火する。
「いやっつ!」
「カルミア!」
ゼランはすぐに彼女に水を放つ。
中途半端な水は炎の動きを増すだけ。なので彼女を吹き飛ばす勢いで水を放った。
異常に気がついたクロエもすぐに動いた。火の神石のかけらを使い、カルミアに引火した炎を操る。
それらはすぐに効いて、カルミアから炎が引いた。
ゼランは水を含ませた自身の神官服のローブを脱ぎ、彼女を包むこむ。そして抱き抱えた。
「医療室へ彼女を連れて行きます」
「そうしなさい。この場所は封鎖します。誰も動かないように」
大神官はいつもより声を張り上げ、会場に残った水の神官に告げる。
こうしてカルミアとゼランの対戦は、カルミアの負傷という形で終わった。
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