第11話 鍛錬所
昼食を終え、テニウスとゼランはカルミアたちをある場所に連れてきた。
火の神殿にもあったが、風紀が乱れているとは水の神殿にもその場所はあった。
「鍛錬所?」
「そう」
「こんなところ、私たちに見せても大丈夫なの?」
「勿論。別に訓練している様子をみるだけでしょ?」
五十年前まで、火と水の神官は命のやり取りをしていた。今もお互いに対抗意識は残っている。
(これって、見てもいいのかな?)
テニウスとクロエのやりとりを聞きながら、カルミアは模擬戦をしたり、走ったり、柔軟体操をしている水の神官たちを眺める。
「おい、テニウス。なんで火の神官を連れてくるんだよ!」
カルミアたちの存在に気がついた一人の水の神官が走り込みをやめて、突撃してきた。
「どうどう、落ち着けよ。ジャン」
「落ち着けるかよ。火の神官の案内をしていると聞いていたが、ここはだめだ」
「どうしてだ?」
テニウスは本当にわからないと首を傾げて聞く。
(その仕草。テニウスさん、わざとかな?)
おちょくるような仕草で、ジャンと呼ばれた金髪の男は余計に怒り狂う。
「わからねーのかよ。ここは水の神官が訓練するところだ。火の神官に俺たちの実力を知らしめてどうするんだよ」
「あれ。ジャン。火の神官が怖いの?」
「はん?どういう意味だ。お前!」
テニウスはジャンを煽りまくり、とうとう胸ぐらを掴まれた。
「そこの人、ジャン様、かしら。テニウス様を怒らないでちょうだい。私たち、興味があったのでお願いしたのよ」
(クロエ様?!)
テニウスに助け船を出したクロエにカルミアは驚きを隠せなかった。
テニウスの胸ぐらを掴んだジャンの手に触れ、諭す。
「許してあげてくれないかしら?」
ジャンの顔が一気に赤くなり、テニウスから手を離す。くるりと背を向けた。
「ふ、ふん。見たければ見るがいいさ」
ジャンは振り向くこともなく、そう言うと再び鍛錬所に戻っていった。
「わー、ありがとうね。クロエさん」
「別にあなたを助けたつもりはないわ。これで、存分に訓練を見れるわね。興味があったのよ」
火の神官同士の模擬戦は何度もある。
しかし平和になった今、両神官が模擬戦とはいえ、拳をぶつけ合う機会はなかなかなかった。
「まあ、次襲われた時の撃退法を考えることもできるしね」
昨日襲ってきたのは水の神石のかけらを使う者たち。技は水の神官と同じだった。
「じゃあさ、模擬戦やらない?」
楽しげなクロエにテニウスが提案する。
「模擬戦?俺、クロエさんとお手合わせしたいんだよね。なあ、ゼランもだろう」
「……興味がないわけではない」
話を振られ、ゼランが答えた。
(興味あるんだ。私も、私も参加したいな。ゼラン様と戦ってみたい。きっと負けちゃうけど、やりたい!)
「私も模擬戦したいです」
「え?あなたも?」
クロエはやる気を見せたカルミアに驚いたようだった。
「鍛錬所内だったらいいかしら。いいわ。模擬戦やりましょう。ただし、明日。今日もちょっと疲れたわ。やるなら全力で戦いたいわ」
「そうだね。うん。それがいい。一応大神官様には話を通しておくよ」
「よろしく頼むわ」
クロエがそう言うと、突然場がわっと湧いた。
「いいなあ。お前だけ。俺も戦いたい」
「俺も」
「俺も!」
火の神官との戦いに興味があるのは、テニウスだけでなかったようだ。次々と水の神官が声を上げる。
「それなら、こうするのはどうしょうか?」
「大神官様!」
静かな、けれども周りを圧倒するような声がして、場が静まる。
「面白いことを考えましたね。それなら、水の神官で先に戦い、勝った者二人がクロエさん、とエリナさんと戦うのはどうでしょうか?」
「おお!さすが大神官様!」
「えー、面倒だな」
他の水の神官たちは拳を突き上げて嬉しそうに笑い合っている。
テニウスは不機嫌そうに唸った。
ゼランがどう思っているのかとカルミアが彼の様子を伺う。
(あ、ゼラン様。少し楽しそう?)
いつも無表情な彼の口が少しだけ綻び、目に輝きが見えた。
(ゼラン様も参加するのね。勝ったら戦える。どうなのかな)
ゼランには助けてもらったが、その実力はどうなのかカルミアにはわからなかった。
「決まりですね。参加したい者はテニウスに申し出なさい。希望者を募り、対戦を決めましょう。テニウス、お願いしますよ」
「え?俺ですか?」
「ああ、ゼランもお願いしますね」
大神官に話を振られ、彼にしては珍しく目を見開いて、驚いているようだった。
「畏まりました。大神官様」
「え?引き受けるの?やめとこうよ。ゼラン」
「諦めなさい。言い出したのはあなたですよ。テニウス」
「畏まりました。大神官様」
「よろしい。はい。今から夕方まで希望者はテニウスのところへ集まりなさい。ゼランも手伝ってくださいね」
「はい」
「え〜。けれど、カルミアさんたちの案内は」
「私が代わりにいたします。あなたは対戦についてよろしくお願いします」
そうして、カルミアたちは鍛錬所を離れ、大神官とお茶を飲んだ後、解散となった。
念の為、かつらをかぶり着替えをしてから二人は神殿を出る。警戒しながら歩き続け、借家に到着した。
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