第5話 神官王女と神官王子のファーストコンタクト

「ようこそ、水の神殿へいらっしゃいました」


 水の神殿の前でカルミアとクロエは降りた。

 門番に用事を伝えると、すぐに通してもらう。

 神殿の門を抜けると、庭が広がっている。門から神殿の本殿に続く道を歩き、建物に近づき、三人の人影を確認する。

 白髪の壮年の神官がおり、制服も他の神官と異なることから、カルミアは彼が大神官と判断。その隣には眼鏡をかけて銀色の髪の美しい神官、もう一人は黒髪の人懐っこそうな神官が立っていた。


(あの人。綺麗で、眼鏡。もしかして、冷徹眼鏡こと、ゼラン王子?)


「クロエ様。もしかして」

 

 隣を歩いていたクロエに声をかけると、彼女は頷く。


「運が悪すぎです」

「もしかして運がいいかもしれないわよ」


 落ち込むカルミアにクロエは明るく答える。

 そうしているうちに本殿に辿り着き、二人は三人の水の神官と対面することになった。


「遠路よくいらした。疲れたでしょう。クロエ様、そして」


 壮年の神官がカルミアに視線を向けて、少し驚いたようで眉を上げる。


「水の大神官様。こちらはエレナ。下級神官です。私の助手です」

「エレナ。火の大神官と同じ名前ですか。これはまた。エレナ。私は水の大神官です。よろしくお願いしますね」

「だ、大神官様。エレナです。よろしくお願いします」


 少しうわずった声でカルミアは答え、大神官は微笑ましいとばかり目を細め、銀髪の神官は無表情、黒髪の神官は笑い出した。


「可愛いいなあ。緊張しているのかな」

「テニウス様。それ以上近づかないでくれる?」

「クロエさん。相変わらず良いものをお持ちで。重そうですね」


 カルミアを庇うように彼女の前に出たクロエに、黒髪の神官は微笑む。


「あなたは相変わらず、どうしようもないわね」


 クロエにしては珍しく冷たい声で答え、視線を大神官に向ける。


「もしかして、このお二人が今回の私たちの案内人でしょうか?」

「そうです。ご都合悪いですかな?」


 大神官が含みのある笑みで返し、クロエは動きを止めた。


(ん?確かに都合は悪いよね。あの黒髪の人、クロエ様に慣れ慣れしいし。視線もなんていうか、クロエ様の胸あたりに固定されてる気がする。銀髪の、神官はきっとぜラン王子だし。不満ばかりですよね?)


 カルミアはクロエの後ろでそんなことを考えており、きっと彼女が人を変えてくれるように大神官にお願いすると思っていた。

 しかし、クロエは人選に文句を言うことはなかった。


(どうして?え?)


「今回は三週間滞在するということで、神殿ではなくこちらで家を借りる予定です。ゼラン様やテニウス様には神殿内の案内のみを頼むつもりです」

「クロエさん。遠慮しなくてもいいんだよ」

「大神官様。今日はご挨拶だけで、実際の交流は明日からで構いませんか?」

「ああ。いいですよ。昼食だけはご一緒しましょう。用意はすでに整えておりますから」

「ありがとうございます。ご相伴に預かります」


 クロエは黒髪の神官テニウスを完全に無視して、大神官とだけ会話する。銀髪の神官ゼランは興味がないとばかり、視線は別のところを向いていた。

 カルミアは彼が何を見ているのかと気になって、視線を追う。

 しかし、彼女が視線の先にたどり着く前に、ゼランがこちらを見たので、彼が何をみていたいのかわからなかった。

 ゼランは銀色の髪に青い瞳で、造形がとても整っていた。

 しかし人形のように表情は無表情。何を考えてるわからなかった。


「さあ、こちらへ」


 大神官がそう言い歩き出し、それにゼランは付いていく。


「クロエさん。どうぞ」


 黒髪の神官テニウスが手を差し出すがクロエはそれを完全に無視して、歩き出した。


「じゃ、エリナさん」

「え?」

「エリナ。その人は無視しても構わないわ。行きましょう」

「ひどいな。クロエさん」


 テニウスは傷つき泣くふりをした。

 カルミアはクロエの背中、テニウスを見比べていたが、最後にはクロエの背中を追い、彼は取り残される。


「エリナさんまで、ひどい」


 ☆


 大神官の部屋で、ささやかな歓迎会が開かれた。

 テーブルと椅子が用意され、テーブルにはさまざまな料理が乗っていた。神官たちに食事制限はない。肉も魚も食べ一般の人と食事は変わらない。なので肉料理や魚料理、パンに果物が五人分準備されていた。

 水の神殿は信者からの寄付と国からの給与で成り立っている。神殿は神官を国へ派遣してる。役割は王族の護衛や、町や村の警備様々である。神石のかけらをつかう神官は、百人分の兵士と同じ戦力を持つ。したがって、兵の一人として神官を国に貸している。その対価を国から納めてもらっている。

 神殿の運営費用、神官への手当、貧困に苦しむ民衆への援助金等でそれらの費用はなくなり、貯蓄もしているが節約は必要であり、彼らの食事は一般人より少し質素なものになる。これは火、水両方の神殿で共通の問題だった。


「さて、祈りましょう」


 大神官はそう言い、目を閉じる。

 水の神官は水の女神へ、火の神官は火の神へ。

 祈りを終え、五人は食事を始めた。

 

「クロエさん。どこらへんに家を借りたの?神殿の近く?」

「近くよ。出迎えは不必要だから」


 クロエは今度は無視することなく答えた。しかし釘を刺すことは忘れない。


「そんなに警戒しなくても」


 テニウスがそう言うが、クロエは今度は完全に無視をしてスープを口にする。


「美味しい」


 カルミアもスープを口にし、クロエとカルミアの声が同時に重なった。


「それはよかったです」

「うん。うん。このスープ本当美味しいよね。ゼランもそう思うだろう?」

「そうだな」


 大神官が満足そうに笑い、テニウスが相槌を打つ。ついでにゼランに話を振ったが、抑揚のない短い答えが返ってきただけだった。



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