矛盾の静寂
染島霞
葛藤
付き合って半年と少し経った頃、私の心の中に違和感ともいうべき変化が生じていることに気がついた。
以前の私であれば、よく不安に駆られ心を病み電話越しで泣き続ける彼女に優しくそっと寄り添う声をかけ続けられることができていた。しかし最近になって、積み重ねなのか今の自分のメンタルが落ちていることの影響もあってか分からないが(はたまた両方かもしれないが)病んだ彼女のケアを鬱陶しく感じるようになり、同時に怒りさえも湧いてきた。それは私の心のにも余裕がないのにもかかわらず彼女はそれを心配するそぶりなく(私が伝えていないのも悪いが)一方的に話を聞いて欲しいという傲慢な態度への不満に由来するものであった。それを糸口に色々思索してみるに、私の彼女に対するわだかまりが証明されて言った。
本来恋人というのは支え合う存在であるのは自明である。しかし私の場合は低く見積もっても9割支えている。こちら側の精神負担率が高いということだ。私は元々、人を頼れない人間で本音を吐露することは自分を丸裸にされているが如き恥ずかしさを覚えるので人に弱みを見せれない人間であった。
しかしそんな私でも人に頼りたい気持ちはある。特に彼女などという存在は特別その殻を破り頼りたかった。向こうもそれを望んでいて本音やありのままの感情を話して欲しいと何度も言われた。彼女の前で本音を出さなかった。というより出せなかった。彼女は月3回ほど大きく落ち込み病んでしまう人間だからそんな人を前にして自分の負の感情は背負わせまいと私の心の奥底にしまい込んでしまっていた。そして今になってようやく直視したくない現実に直面した。コップに貯まった水は爆発寸前にまでなっていた。いや少しばかり溢れていたのかもしれない。兎に角、彼女のケアをしんどいと思うようになっているのはもう自覚している。
なんで俺がこんな負担しているのだという反発心が顕著になってしまった今、彼女を愛せるか分からないのだ。
彼女とは週に1回金曜の夜から日曜の夜まであっていた。こう聞くと普通かと思うかもしれないが大体の場合、日曜の夜彼女に泣きつかれて終電を逃し月曜の朝帰りもしくはそのまま月曜の夜まで一緒にいる、ひどい時は火曜の朝まで一緒にいたのだ。
私はなんだかんだ押しに弱いのでそれを渋々了承していた。彼女はそこで泣き出すこともあった。私がイヤイヤ一緒にいるのではないか、無理を言って居させているのではないかという感情かららしい。そう言うとき私はおそらく1番欲しいであろう言葉をかける。
「大丈夫。俺がいたくて一緒にここにいるんだよ。何も心配しないでいいよ。」と。そうすると彼女も落ち着く。
しかし、私の心は疲弊していた。認めたくはなかったが、帰り際にやっと解放された。疲れたしんどい。と思ってしまっていたからだ。そもそもの性格が合わないのだと思う。私は1人の時間がたくさん欲しい人間だ。対して彼女は毎日でも会いたいとよく言っていた。先月から会う頻度を2週間に1回のペースに変えたが、彼女が寂しいと言い出すことがしばしばあった。
もう疲れたんだよ。俺は。人付き合いとして、俺のそのものの性格として人にそこまで会いたくないということだと思うようにしたいが、相手が彼女だからだという認めたくない事実が脳裏によぎる。
俺は間違いなく今枝分かれする道を前にした岐路に立たされている。1つは来た道を戻る道。もう1つは真っ直ぐ伸びているだろうが暗くてよく見えない道。俺はまだ選択できずにいる。
数時間前に彼女に電話して思っていることを全て話してきた。本当は別れるか別れないか決心がついてから話すつもりだったが、今すぐしたいというのですぐに電話をかけた。彼女は案の定、泣きながら自分が悪かったという謝罪の言葉とまだ付き合いたいということを震えながら言い、自分の悪かった部分を治すから別れないでと懇願してきた。
俺は思っていたより人間臭い人間だった。それを聞いて揺らいでいる。来た道を見てもう1回光るものがあると信じて戻ろうとさえ思ってしまっている。心を鬼にして切り捨てるような態度で「別れよう。俺のことはもう忘れてくれ。俺も忘れる努力をするから。愛していたよ。心から。嘘じゃない。」と言えたらどれだけ楽だっただろうか。
矛盾の静寂 染島霞 @rambow
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