第3話 前途多難な目覚め
穏やかな風が頬を撫でるのを感じて目を覚ます。
くわっと大あくび、私はぼんやりした頭のまま口元をむにゃむにゃ動かし顔を起こす。
心地よく暖かい風が木々の間を通り抜ける。風が吹いてくる方に顔向けると、日の光で温まった緑と土の匂いを感じた。
見渡す限り森が広がっている。
……??
長いこと眠っていたのか、妙にこわばる体。ゆっくり起き上がり体をよくよく伸ばしてほぐす。
動いて血の巡りも良くなって、私の頭もようやく動き出す。
私、生きてんな?
あの雰囲気では死ぬか、あの白いところで発狂するかどっちが早いかだと思っていたけれど。
めぼしいものがないかキョロキョロ見回すも一面中、巨木とツタと土ばかり。太陽は上の方にあるように見えるので、昼のはずだがそこそこ薄暗い。人の手が入っている痕跡もなく、森の相当に深いところらしい。
私は倒木の影に隠れるように、半分木の葉に埋もれて寝ていたようだ。誰か長くここにいた形跡もない。
地面についていた側が、湿気でじっとり濡れている。濡れた毛並みが張り付いて気持ちが悪いし風が当たって寒い。このまま体が冷えて風邪でも引いたら困るので、舐めて、毛繕……い?
「きゃんっ!?(毛繕いっ?!)」
驚いて飛び上がる私の口から出たのは、言葉ではなく、鳴き声。
見れば、薄汚れてバサバサに乱れた茶色の毛並み、土で汚れて黒い四つ足、太くて長い尻尾、そして頭の上 視界の端に見える三角耳。
パッと見た印象は、みすぼらしく汚れて痩せた犬。どう考えても人間じゃない。
「ひゃんひゃん、にゃーん(ワンワン、ニャーン)」
犬寄りは猫寄りな高めの鳴き声、ふむ。口の周りをぺろりと舐めて毛を整えると、舌が猫のようにザラザラしているのが感じられる。手を確認、肉球。力を入れると爪が出る、爪は収納タイプか。
見た目犬で猫っぽい特徴たっぷりの生き物。
つまり……狐(ver.夏毛)?
驚きとか、怒りとか、それよりもゲッソリする気持ちが先に来る。
私、狐好きだけど、愛でたいのであってなりたいわけじゃなかった。いや、確かに、四つ足の動物になってみたくはあったけど、少しの間体験したいってだけで、ずっとなんて望んでない。
どうなるんだ、私。いくら「器用」で中身人間な狐でも、ものづくりって無理では。器用と言っても「器用な人間」と「器用な狐」じゃ天と地ほど差がある。そもそも文明のある生活、文化的な生活できるのか?いやその前に生き延びれるのか?
そうだ、ステータス!
いや、その概念がある世界?そもそも、ここは行く先予定の世界?元の世界?それとも全く関係ない世界?
人間の時のように頭を抱えようとしてバランスを取れなくなり、地面に頭を突っ込む。四つ足でバランスをとる生き物だった。地団駄を踏んだあと、四つ足らしく頭を降って顔の土を飛ばす。ため息が出る。
ステータスがあるとしても唱えるのが条件だと無理だし、とうんうんうなっていると、まさに私が「ステータス」ですと言わんばかりの半透明の画面が浮かんだ。念じるだけで良いタイプだったようだ。
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種族:狐
ギフト:「器用」「努力の実り」
スキル:「アカシアの本棚」
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少ない、なんだか「ステータス」の表示がものすごく不親切な予感がする。
種族……やっぱり狐かあ。せめて妖狐とか野狐なんらかの不思議パワーがありそうな狐ならまだ生きやすそうだったんだがなぁ。そしてスキルはなんとなくわかるけど、ギフトってなんだ?
と思えば勝手に追加の画面が出てきた。説明も出せるなんてありがたい。
ギフト:才能・素質
スキル:特殊な能力
全然ありがたいなんてことはなかった。
言いたいことはわかるけど、知りたいことはそうじゃない。情報が少なすぎる。
狐:普遍的な哺乳動物の一種
器用:先天 とても器用
努力の実り:先天 努力は実を結ぶ
次々と説明欄を出していくも簡潔すぎて欲しい情報が出てこない。困った。あまりにもあんまりでは?本当に何も伝わってこない。
最後、ギフトの「アカシアの本棚」、多分願った能力で知識の本棚化のことなんだろうけど…。
アカシアの本棚:先天 得た知識を本型の幻影として保存する
[蔵書一覧][司書][資料検索]
おお!文字が多い!いや、感動するとこじゃなかった。……司書って何ぞや?
疑問のままに浮かぶ文字に触れると新しい画面が出現。
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司書:不在
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文字はグレーになっており、触れてもそれ以上何も起こらない。
せめて[資料検索]はっ?!
慌てて触れて出てきた画面は
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資料検索:司書不在につき制限中
履歴のみ使用可能
[履歴]
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もちろん検索したことなぞないので履歴ももちろん空。
未練がましくべしべしと文字列を叩くもなんの変化もなかった。
つ、つんでる。
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*note イヌ+ネコ=キツネ
イヌを、限りなくネコの生態に近づけるように進化させていくとキツネになる
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