第2話 はじまるはじまり

「それでは能力や転生先について決めていきましょう」


話を仕切り直すようにキッパリと宣言するカミサマだが、すぐに落ち込んだ顔になってしまう。


「大変申し訳ないのですが、この能力のために割ける『力』に余裕がないのです」


カミサマ本人が幼いというのに加え、ここにも安定しすぎた事の影響がでて使える『力』が少ない。

一定の予備を除き、世界から生み出される『力』ごと安定化のためのシステムに組み込み、想定通り世界の安定に一役買って、買いすぎた結果が今。


「実は予備分も少し前に1度使い切ってしまい、そこから貯まった分しか…」


どうにか世界を立て直すための試行錯誤、最後の手段。それは『魔王』を創り出し安定を安寧を崩すこと。


先輩の協力の下、先輩の世界の勘違いの激しい魔族とその取り巻きを呼び込む。

案の定、我は魔王なり。この地を喰らい尽くしたその暁には、神界をも攻め滅ぼし云々とかのたまい暴れ出す。



𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃


突如現れた強大な魔王軍


戦が起こり、多くの国々が手を取り合い抵抗する。数では勝るも、魔王軍の圧倒的な強さに激しい戦いは続いていく。終わらぬ戦いに疲弊していく人類。


とうとう追い詰められたその時、世界に座す神霊達の祝福を受けた戦士が各地に誕生し、人類は勢いを取り戻していく。


そしてついに、後に勇者と呼ばれる戦士によって、暴虐の限りを尽くした魔王が討ち取られた。


こうして人々は、未曾有の災禍に勝利を収める。

傷は深いが、脅威は去った。人々は力を合わせながら、日常を取り戻していくのだろう。


めでたしめでたし


𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃



しかしそれは人類視点での話

カミサマから見ると、戦のあった数十年とその後の復興の十数年。100年の身にも満たない間。

人類が、世界が成長していたのはその短い間。


魔族の持っていた技術を手に入れることもなく、さして文明レベルが変わることはなかった。


消耗と労力の割に、少ししか成長しなかったカミサマ。具体的には、見た目が小学校低学年から高学年くらいになるまで。そしてそこで再び打ち止め。

その上、保守的で世界の危機も体験することがなかったカミサマにとって、魔王騒ぎは心労が多すぎてそう何回も耐えられるとは思えなかった。


そんなわけで、残った少ない力でほどほどの人間に、ほどほどの期間、ほどほどの変化を起こしてもらうための試験第一号に選ばれたのが私ってわけだ。閑話休題。



「本当に申し訳ないのですが、現状50年分ほどの『力』しか使えません」

「具体的にどれぐらいなんで?」

「そうですね、まず剣も魔法も何でもできるようにするとなると、一人前の腕前にはなれても達人には届かないですね。特殊な種族になる場合、更に落ちます」


わりと十分では?


「能力を絞れば、国1番を競えるくらいにはなれますが、世界一には届きません」


十分では???


「事前に拝見した、人気の異世界小説の能力には及ばず、本当にすみません」


カミサマは鎮痛な面持ちで頭を下げる。

私としてはそこまで謝るほどではないように思う。ハードモードな世界ならともかく、安定しすぎてむしろ変化が欲しい世界なら。

いつかチートやらコードやらを使ってゲームをしても楽しいのは最初だけだった。

まぁ、知らぬ場所に行くのだし、いざという時の保険は欲しいからそのくらいだろうか。ちなみに言語については最初から一般常識程度に分かるようにしてくれるので能力とは別との事。



「直接的なでっかい力は必要ないです。ってことで、はい」

『イセカイの手引き』のあるページを開いて差し出し、ある項を指す。


「『ぼくのかんがえたすごいのうりょく(タイプ別)』……」

「この能力で、種族は人間。選べるなら、そこそこ良い商家の三女で……力って足りますかね?」

「……足り………ます……ね?」

「やったー」


望んだ能力は、ザックリ3つ。

「器用さ」

「努力が報われる保証」

「得た知識の本棚化」


昔から好きなものづくりを異世界に行っても続けたい。異世界特有のものづくりもやってみたい。


直球でものづくり才能ではないのは、最初から何でもできて何でもわかっちゃ面白くないんである。作るための過程、試行錯誤こそが楽しいのだ。

それにやってみたいのはものづくりだけじゃない、剣と魔法の世界なら、色んな魔法を使ってみたいし色んな武器も使ってみたい。だから、広く影響のある器用さを上げてもらい、努力した分が身につくように保証をつけて、

色々手を出した結果増えた知識を本にしてとどめることで忘れないようにすれば、大体のことはできるようになるという寸法だ。

分かりやすく鑑定とか、完全記憶にしないのは、ただの本好きのロマンだ。


「本当にこれでいいんですか?まだ余力があるので、その分を使えば最初からもう少し強くなれますよ」

「うーん、強くてニューゲームなぁ。あ、じゃあ知識を本にするだけじゃなくて、資料請求の機能が欲しい。何かしらの対価を払って欲しい情報に関わる資料を貰えるとか?司書さんに情報収集を手伝ってもらった時みたいに、複数候補が出せると、さらにいいなぁ」

「そこは素直に鑑定能力ではどうですか?残りの力で十分な性能になりますよ」

「うーん、このままで」

「はい。となると、まだ少し力が残っているのですが…」

「何かあった時、その分で助けてもらう予約はできますか?」

「一応、力のロスは多いですが可能です」

「ではそれでお願いします」

「……」


眉間にシワを寄せたまま動かなくなるカミサマ、何やらすごく考え込んでいるけど大丈夫だろうか?


「そ、それでは決めることも済んだので転生させます。後のことは、こちらで済ませておくので気を楽にしていてください」


そう言って神様は、例のやたら分厚いメモを開くと、何やらブツブツ呟き始める。魔法の呪文かと思ってソワソワしながら耳をすませると、ただメモを読みながらのつぶやきだった。


「これがこうで……設定……指定先……」


つぶやくごとに、いかにもな魔法陣が浮かび上がり光を帯び、風もないのにカミサマの服や髪がはためく。


それを見ている私は、魔法だー!と感動半分心配半分。神様は真剣な表情で、額に汗を浮かべながら集中している。その視線の先で、魔法陣が二重三重に重なり立体に組み上げられていく。


「……保護……後は………送信指定…ううん」


大丈夫かな?そろそろ眩しくて見ていられな「あっ」

「えっ?」

「あっ、わっ、あぁ!」


絶対大丈夫じゃない!


浮かんでいたいくつかの魔法陣がぶれ、ギリギリと音を立て始めた。声をかけようとしたが、声が出ない、そも体が動かせずに視界がずれていく。


目も眩むような光の中、最後に見えたのは、今にも泣きそうな顔でこちらに手を伸ばすカミサマだった。











うーん、これは死んだかな。








……?






動けず、体の感覚もなく、視界は真っ白のまま。とうとう気を失うなと思うような目眩はそのままで意識は落ちない。

体感で2.30分ほど経ち、そろそろ発狂の心配をしないといけないなと一周回って冷静になった頭で考え始めたあたりで、記憶が途切れている。



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*note『カミサマ』

全知全能の神というよりは、単に上位存在のイメージの方が近い。種族。

テレスティティットは優秀で、維持管理はベテランに勝るとも劣らない。がその反動かアクシデント対応の能力が下手。

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