第1話 はじまらないはじまり
いつも通りの今日
いつも通りの仕事
コレを望んでいるまであるので文句も何も無いが
残業もない子やり残しも…ない ヨシ!
終業のチャイムと同時にさっさとデスクを片付けたた私は軽い足取りで帰路につく。
あぁホワイト企業素晴らしき。
今日は金曜日。明日は仕事もないし帰りに酒とつまみでも買って晩酌してしまおうか。
ウキウキで帰る突入浮いた話なし男の影なし
独り身OLの独り呑み
字面がとてもよろしくないが当の本人が一欠片も気にしていない。
最近気に入っている酒も買えたおかげか気が急いて歩みが早くなる。
ゲームかアニメ鑑賞かどうしてくれようか。
「ただいまー」
「あ、おかえりなs「間違えました失礼しました」」
週間で毎度言っているだけのペットもいない一人暮らし。
返ってくるはずのない返事が聞こえて、何か考える間もなく反射的に扉を閉めた。
なんか女の子がいた。えっ、ホラー?でも薄暗くはなくてむしろほのかに明るく光っていたような。
部屋番号間違えたんだろうか?いや、でも自前の鍵で開けたし、207号室階段登ってすぐ。
うん、あってる。
あってるね? 私の家だ。
大混乱のまま再び扉を開ける。
「えっと、あのお話が…」閉める
困った顔の美少女がいた夢じゃない?
突然の非日常に動けずにいると中からそっと扉が開き、中学生くらいの妙にキラキラしい少女が恐る恐るこちらをうかがいながら出てきた。
「あの私は、こことは異なる世界から来た神テレスティティットです。
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
「いやぁおつまみご飯ばっかりで申し訳ない」
「いえ、そんなことないです!とっても美味しいです」
机に広げられた料理の数々に、上座につくキラキラしい少女
先程まで大混乱していたはずの私が何をしているかというと、もてなしている?
とても美味しそうにモグモグと食べ進めていてくれて、可愛い妹味があって楽しい。
むずかしいことはいまはかんがえない。
「気に入ってもらえてよかった。そういえば、神様ってことは、お酒好きだったりしますか?」
コップを持ったままモジモジしている神様
これは遠慮しているけど、好きとみた。
「とっておき、持ってきますね」
「わぁ、ありがとうございます!って何で私はもてなされているんですか!?」
自称神サマはお酒を持ってきたあたりでようやく流されていることに気がついたようだ。
「神様だって名乗ったから?」
「なぜそれだけで信じたんですか!?嘘だったらどうするんですか!?」
大慌てで詰め寄られたけど、それを侵入者のあなたが言ってしまうのか。
それに、私が何も考えていない、なんてことはない、一応。
「仮にただの不審者だとして、人間でこの体格差なら、無力化しやすい。
なんかの怪異なら出会った時点で、それも家に入り込まれて、名も知られてるならつんでる気がする。
そこまでのじゃないにしても、『神』と名乗った以上、よくよくもてなして、本物にしてしまえばいいかなって?」
さらっと理由を告げると言葉もないようだ。
呆気に取られた様子で返事はない。
本物っぽいおば…カミサマに聞きかじりのオカルト知識がどこまで有効かわからないが、色々思いつく限りをやっている。
いくつか効果があるとおもし…助かるんだけど
美少女のドン引き顔の気まずさをごまかすように持っていた
「んく、……おいしい」
心を落ち着かせるためかは分からないが、
特になんともないのを確認して、横目に神棚を見る。
「よかった、お気に入りなんだ……この御神酒」
「んぐ?」
わるいナニカなら浄化されたりするのかもしれないが、神様に供えるくらいには上等なお酒なので、奉じる分にも文句はつけようがないだろう。
まして家主の留守中にあがり込むような不審なやつに 。
「ほら、日本人だし、怨霊だって疫病神だって祭って神様にしてるし……ね?」
「ね?、じゃないですよ!あぁもうこんな感じじゃなくて、もっと厳かで、神秘的にやろうと思ってたんですよ。なのに、部屋に来たらいないし、全然驚いてくれないし」
プンプンなんて、擬音がつきそうな怒り方をしている美少女。
この顔で厳かなのは難しいんじゃないか。
「すごく驚いたよ?」
「どこがですか!?第一声が『うーん、わかった。おもてなしさせてもらうよ、カミサマ。簡単な話じゃなさそうだしね』って何なんですか!?余裕綽々の上に、謎のオーラまで出てましたよ!」
「 いやー驚きすぎると一周回って冷静になるタチで。謎のオーラは、この前友人と作って遊んだキャラクターをイメージしたからかな?」
仲間内の遊びのための演技でも数をこなせば、それなりにオーラも出るらしい。
どうせなら、その友人のところに行けばよかったのに。そっちの方がいい反応してくれただろうな。
ちなみに、その友人は私に、東西問わず様々なまじないなんかのオカルトの知識を授けてくれた張本人でわりとマッドなので、自称神様が出会って、いや、その前に家に忍び込んで大丈夫なのかは知らない。
「しょ、諸悪の根源がいた…」
口に出してないのに伝わった?やっぱこういうのって、心読めたりするんだすごいなぁ
なんて心の中で思ってみれば、カミサマがピシリと動きを止めたのが見えたので予想があってる確認もできた。
「…………ぐすっ」
カミサマが泣き出してしまったので、仕切り直し
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
なんとかなだめていると、私のお腹に抱きついて、顔を埋めたまま離れなくなってしまったので、そのまま話を聞く。
泣かせた本人なんだがなぁ。
一言で言うなら「テンプレ」
どうやら、私はこのカミサマの異世界へ転生する魂に選ばれたらしい。
トラックに撥ねられた覚えも死んだとも思えないんだがとこぼせば、割った魂の半分だけ送るのでなかったことになります!と言う。魂を…割る……?
本当は伝えるつもりがなかったのか半泣きで慌てながら、問題はないんです!後遺症もないです!ちゃんと治してから送るので!経過も見るので!痛みも感覚もないです!送る方も留まる方もなんの害もないようになるので!と怒涛の勢いで詰め寄られた。うーん。
さて、この神様の世界はそこそこ若い世界にも関わらず、安定しきってしまったとか。
最初は何が悪いのかわからなかったが、「病気も怪我もないけど、成長も進歩もせず、幼いまま」という説明に納得。
過ぎた安定は停滞でしかないという事だそうだ。
カミサマは自分の世界のため、真面目に真面目に頑張ってきて、同僚にも褒められて嬉しくて、誇らしくて。
さらに真摯に取り組んでいったら、それが仇になった。
世界が安定、いや停滞したことで、カミサマ本人の成長も止まり、同期の中でひときわ小さく会うと苦笑い。特に、不安定な分成長の早かった同期にはからかわれる。尊敬する先輩にも不憫な子を見る目で見られる始末。
これまで一生懸命に頑張ってきただけに、それはもう落ち込んで、世界の管理もおろそかになって。
なのに、世界が安定しきっているというのは伊達じゃなく、その程度では小揺ぎもしない。なんなら、直す為の変更すらのみこんで、再び停滞。
私、何もできない、と更に落ち込み悪循環。
そんな風に鬱々と過ごしていると、先輩がよその魂を貰ってくるのはどうかしらと勧めてくれたらしい。
本来は、もっと成熟したカミサマたちの娯楽として流行っているものだが、ここまで安定しきっている世界を未熟なままのカミサマでは修正出来ない判断され、許可が下りた。
ただし、無条件の特別扱いだと同期の嫉妬や妬みを煽りかねないので、珍しい未熟なまま安定した世界の記録とレポートの引き換えで。
「私の大失態の記録が、永久に資料として残るのが確定してしまいました。しかも資料としてはとても有用なようで、会ったこともないような大先輩から質問が来たり、参考資料に使わせてくれとか言われるんです……。私にとっては、黒歴史でしかないのに…」
再びぐずりモードになってしまったカミサマ
褒めて、なだめて、なだめすかして話の続きを促す。
「実際に、これからどうなるんです?」
「はい、転生に関しては先輩からメモを貰っているので、そのまま読み上げます」
そう言いながら、カミサマが取り出したそれは分厚い紙束。もはやメモではなく、本の方が近い。
「ええと、いわゆる『いわゆる神様転生。チートはそこそこ、大体のの希望は通る、使命ほぼなし。世界観はご都合中世、剣と魔法の世界、日本もどきもあるよ!』以上です」
「あいわかった!」
なんて簡潔でわかりやすいんだ。と納得すると驚かれる
「えぇっ?!」
「どうされました?」
「いえ、あまりにもすんなりだったので」
「すんなりいくように、私みたいなオタクだったのでは?」
「そう…なんでしょうか。先輩はあなたにオススメな子を選んどくよとしか」
果たして、私は初心者向きなのだろうか?
「 はっ、ダメです。また話が脱線する気配が。もう先に全部説明するので、質問などは、後でまとめてお願いします」
「はーい」
「ふむ、説明の項は……『イセカイの手引き』の1章の3項5ページに該当する?」
「んはは、すみません。ちょっとまっててくださいね」
疑問を顔に貼り付けて動きを止める神様を置いて、本棚を漁る。
出したのは、神様の持つメモに負けず劣らずの厚みのファイルが大量に詰まった書類ケース。
一冊取り出したファイルの背表紙には『イセカイの手引き』の文字。
いやはや、何で知っているのやら、神様だからか、そうか。
「これはいったい?」
「趣味で書いてる文字通り『イセカイの手引き』だよ」
異世界もの好きのオタクがならば考えたことがあるであろう『もしも自分ならば』
そうやって気の向くままに考えて、調べて、まとめて膨れ上がった結果がコレ。
ネット小説によくある転生・転移をパターンに分けてまとめた第一章から始まって、よくあるチートや欲しい能力や思いついた道具についての第二章、残りは使えそうな知識をまとめた膨大な資料集
普遍的なサバイバル術、原始的な道具・罠の作り方、気候帯から見る動植物の傾向、鉱物の特徴・成分、合金の組成、地形から見る文明の出来方とざっくり人類史、動植物の育て方基本、調味料等レシピ、代替レシピ、などなど。
実践できる知識を端から試していったレポートまである、なつかし。
それで、1章3項5ページだから……
バタバタとめくって出てきた文章は
『 友好的で、少しの頼み事。ある程度の希望は叶うが、直球に火力のある能力は少なめ。全体的に穏やか。タグで言うならば、ほのぼの・スローライフが入る。程々の注意点があるものが多い印象』
「うわっ、何ですか?これは『お詫び。何もかも希望通り、望むまま。特に説明することもない、ばなな』……『もてあそぶ系邪神。死んで終われたら十分ハッピーエンド。南無』…」
「自分以外見ないはずだったし、自分が見てて楽しいようにしたらこうなりました」
カミサマは何か言いたげな顔をしていたけど、また脱線しかかったのに気づいたのか、結局何も言わずに首を振ってメモの続きに目を落とす。
と、そのままジト目で動かなくなった。
横目でメモを覗き込むとそこには『追記:その手引き色々使えそうなんで貰ってきてください ■■』
名前らしき部分は文字化けしたように読めないが、見たとこ先輩なんだろうか。わりとお茶目な先輩なようだ。
あげる分には構わないが、転生先に持っていきたい気持ちもある。
待てよ、私の知りうる限りのやべえ知識もまとめた覚えがある。
お手軽毒殺法、火薬、兵器、原子力に関してもざっくり、有名な人体実験の概要あとは、創作都市伝説史実ひっくるめた占術、魔術、呪術。
危ないが過ぎるが、項目の削除はしたくないしなぁ。
となると、最低でも閲覧規制が必須になる。
「なんてものを!ダメです、絶対にダメです!危険すぎます!」
心を読んで分かったらしいあまりにマズイ内容に断固拒否されてしまう。
食にこだわる日本人としては、味噌醤油が封印されるのは耐えられない。せめて料理レシピだけでも。
あれ、待てよ、料理レシピにもカテゴリー料理()があったような。
よく燃え広がる瓶入りカクテル()とか炸裂する湯豆腐()とか。
いいよって言ってくれそうだったカミサマの顔がみるみるシワシワに。
「これを書いたということは、内容も覚えているんですよね?」
「ソウデス。例え忘れてても、とっかかりがあれば、全部思い出せる程度には」
カミサマは渋い表情のまま目を閉じゆっくり息を吐く。
「ひとまず、この手引きに関しては所有者以外読めないよう封印をかけた上で、転生先に送ることにします。それでもくれぐれも扱いには気をつけてください」
「ワカリマシタ」
「まだ言いたいこともありますが、時間がかかり過ぎているので進めます」
「ワカリマシタ、スミマセン」
「それでは能力や転生先について決めていきましょう」
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*note『イセカイの手引き』
オタクの夢と厨二心がいっぱい詰まっている。
情報の偏りが激しく、食べ物やそれに関する項が半分を超えた。
この手引きだけわりとノンフィクション
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