④同時刻・同じ満月

 モッズコートを着た男は、ベランダの柵に凭れながら、満天の星を見上げていた。

 世界の自然環境が改善された成果だ。数年前より幾段と美しく見える。

「なぁ~にアンニュイになってんだよ。そんなに昨日のことが気になってんのか」

「……まあな。何か嫌な予感がするんだ」

「嫌な予感ねぇ……」

「早いうちにここは放棄した方が良いだろうな。コトが起きてからじゃ手遅れになる」

「焦りすぎだろ。ガキの頃のダチに、妨害を食らったってだけで……」

「……不動。少しは危機感を持つべきだ。計画を失敗で終わるわけには行かないんだ」

「それは同感だけどよ。だったら相棒にも、そう言ってやれよ。あの女、パソコンの前で小躍りしてんだぜ? Vチューバーの良さが、オレにはよーわからんのよなぁ」

 不動はスマホを起動させると、動画共有サービスのサイトを開いた。

 チャンネル名は『merlin』。

「――おっ! 例の動画、かなり伸びてるぞ。チャンネル登録者数は七十万を超えてる。こりゃ最終段階のときには百万は行くな」

「……右眼は馴染んでる。計画は絶対に成功させる」

 男は右眼を軽く撫でると、鬱金色の光を輝かせた。

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