いずれ味方を焼き尽くす漆黒の炎
蒼田
その声はいずれ終焉の業火となりうるだろう
一枚描き終え更にもう一枚キャンパスを用意する。
仕事ではないが何か新しいものが描けそうな予感だ。
もう一枚。
相方を手に鉛筆を持ちどんな絵が良いか思案する。
ここ最近の俺のテーマは政治だ。
ホットなテーマでもあるし、なによりアトリエに備え付けているラジオから不快になるような音が聞こえてくるからだ。
俺は別に政治に関心があるわけではない。関心がある訳ではないが、最近はひどすぎる。
今俺はそれを言葉ではなく、俺なりの方法で訴えている。
『怒り』を表すのならば燃え上がるような赤い炎。
いや……、感情によるものだから自然的なものでなくてもいいだろう。
ならば煉獄で見られるような黒い炎だろうか。
黒……だな。
燃やすのは悪魔か鬼か。
双方混ぜるのも良いが、西と東を混ぜるのは少し世界観的におかしな気がする。
やはり日本と言えば鬼、だな。
けれど鬼に黒い炎を届かせてはいけない。むしろその中を悠々と歩くさまを書かなければ。
頭の中に構図を思い浮かべながら軽く下書きをしていく。
軽く、本当に軽く鉛筆で下書きをし、キャンパスから体を離して考える。
ん~、背景は何がいいか。
小さな炎に焼かれる鬼の背景……。
札束?
いやこれは安直すぎるな。
鬼達が会合をして贅沢をしている様子はどうか。炎に焼かれながらも気にせずケーキを食べる鬼。
シュールだな……。
鬼というものを考えればケーキよりも『人』なのだが、流石に展示が出来なくなる。
ともすれば『酒』か。
鬼達が酒で宴会をしている様子をバックに炎に焼かれる鬼達。
良し決めた。これで描こう。
鉛筆を置きパレットに赤い絵の具を出す。手首で軽く捻り具を切る。チューブを元の位置に戻し筆に持ち替え、僅かに水を含ませる。赤い絵の具を筆につけてザッと広げ他の色と混ぜていった。
――赤は声だ。そして怒りだ。
他の色を混ぜることで色を濃くした絵具をキャンパスに塗る。
鬼を燃やす赤い炎は一つではない。
無数の小さな炎が鬼を燃やす。
一通り塗り終えると、赤を更に濃くしていく。
もっと……もっともっと!!!
自分の怒りをぶつけるようにガツガツ書く。
俺達の怒りはこんなものじゃない。
いずれお前達の全身を焼き尽くす業火になるっ!
ラジオの声を聴きながらペースを上げる。
「出来た……」
出来上がりをみて満足する。一晩で仕上がるとは思わなかったが、できた。
こんなに集中したのはいつ以来だろうか。記憶を辿らないといけないほどに昔のことだ。
満足する一作も出来たし、少し飯でも食べるか。
席を立ち体をぐっと伸ばしラジオを止める。
スマホを見つけ汚さないように起動させたが、
「え? 」
書き始めて三日経っていた。
いずれ味方を焼き尽くす漆黒の炎 蒼田 @souda0011
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