(10)

「ああああ……こ……こんなの……有りぃッ?」

 僕の服の袖やズボンや手足の防具は……弾け飛び……手足の表面に……ずらっと並ぶ……小さな能面のような寄生生物。

 あと……植物タイプの寄生生物にまで寄生されてたらしく、能面の隙間に浮かんでんのは血管みたいな外見の何か……。ただし緑色。

「行けッ‼ 試合開始だッ‼」

 謎の女(その2)が絶望状態になってる僕の尻に蹴りを入れる。

 な……なんだよ、これ……女のクセに、このキック力……。

「おい……どうした……」

「い……痛い……」

「そんな事を気にしてる場合か。さっさと、あいつにパンチか前蹴りを食らわせろ」

「いや、でも、あいつの体が傷付いたら、細菌兵器入りの体液が霧状にブシュ〜……」

「ああ、その説明をしたのは、あたしだが、これしか方法は無い。行けッ‼」

「あ……あの……あと……これ……元に……もど……」

 絶望的な表情で首を横に振る聖女様。

 謎の女(その2)は……。

「お前の未来に待ってるのは、この『聖女』サマの為に死ぬより酷い目に遭う、というたった1つの結末だけ。そんな運命を、お前は自分の自己責任で確定させてしまった。仮に……今回、手足が元に戻ったとしても……」

「おい、試合開始なら、こっちから攻撃していいのか?」

 サイコ女がそう言った。

「好きにしろ……。ああ、お前の手足を元に戻せても、それは、清算すべきツケを先延ばしにしただけだ。後になって、『運命』ってヤツが、支払い遅延込みで取り立てに来る。早い内に両手両足だけを支払うか、後になって、それ以外の何かまで失なうか……お前の好きな方を選べ」

「そ……そんな……」

「いいから、行けッ‼」

 何で……こうなるんだ……。

 もうヤケだ。

 僕は……目の前まで迫った細菌兵器人間に……パンチ……。

 ずぶり……。

 あっさり、パンチが細菌兵器人間にめり込み……。

 ぶしゅ〜……。

 細菌兵器入りらしい体液が霧状になって……。

 う……うぐ……。

 吐き気。

 痛み。

 痒み。

 くすぐったい。

 鼻水ダラダラ……目が……ぼやけ……。

 って……これ……。

『普通の人間は、苦しみの余り、舌を噛み切ったり、苦しみを止める為に自殺する』

 その話が……本当なら……まだ……この……これは……序の口……。

 あばばば……。

 べばばば……。

 自分の口から漏れるのは……意味不明な……。

 ふげらが、へこらで、げろげろば〜。

 むにゃら……のはう……へこれらろ〜。

 みにゃ?

 ましら、れっや、にょほらびら〜。

「おい……しあいが……おわったいじょう……あたしのまほうで……こいつをたすけてもいいよな」

「ああ、すきにしろ。そいつらは、かいほうする」

 ちまこん?

 ん〜めさざるじ?

 ぎょふりゅ?

「おい、しっかりしろ……」

「あ……あれ……?」

「安心しろ、細菌兵器は死滅した」

「え……どうやって?」

「ぐりゅう……」

「ぐりゅう……」

「ぐりゅう……」

 僕の手足に寄生してる能面型の寄生生物達が声をあげる。

「そいつらのお蔭だ……」

 あ……こいつらは……「並列処理」とかで……見た魔法を真似したり、逆の魔法を瞬時に編み出せ……。

「そいつらも死にたくなかったんだろう。瞬時に、あの細菌兵器と宿主を滅ぼす魔法を編み出してくれた。ついでに、細菌兵器に感染した症状を消してくれる魔法までな」

「あ……そうか……ありがとう……おまえら……あんがい……いいやつ」

「ど」

「う」

「い」

「た」

「し」

「ま」

「し」

「て」

「♥」

 能面型の寄生生物達は……そう答えた……。

 ああ……ちょっと……気味悪いけど……僕の命の恩人。

「けどな……そいつらが絶対に対抗魔法を編み出せない魔法が1つだけ有る」

 ……えっ?

「や……」

「や」

「め」

「て」

「た」

「す」

「けて」

「そ」

「れだ」

「け」

「は」

「ッ‼」

「ちょ……ちょっと……こいつらは……僕を助けて……くれて……」

「でも……こいつらは、危険過ぎる」

 パッチン。

 謎の女(その2)が指を鳴らした。

「ぐわあああ……」

「うげええ……」

「ひぎぃ……」

 次々と能面達の口から悲鳴。

「な……なんだよ……これ……?」

「こいつらが役目を果たした後に皆殺しにする為のバックドアが仕掛けてある。詳しい理屈は省くが……そのバックドアは、こいつらの命そのものと表裏一体だ。こいつらが下手に、そのバックドアを無効化したら……こいつら自身が死ぬ」

「そ……そんな……やめ……こいつらは……僕の命……」

「お前にとっては、命の恩人でも、一歩間違えば人類を滅ぼしかねない危険な寄生生物だ。こうするしか無い」

「や……やめ……ご……ごめん……君達が……僕を……助けて……くれたのに……」

「しにた……」

「……くない……」

「で……」

「も……ぼ」

「くた……」

「ちがたす」

「からないな」

「ら……ぼくた」

「ちのことをわ」

「すれな」

「いで……」

 僕を助けてくれた、寄生生物達は……弱々しい声で……弱々しい声……弱々し……えっ?

 あの……ちょっと待って……。

 寄生生物が消えてなくなった僕の手足……。

 骨が見えてんですけど……。

 つか……。

 うわあああ……。

 冗談じゃない……。

 骨が丸見えなんて生易しい状態じゃないぞ、これッ?

 、この状態ぃぃぃぃぃ〜ッ‼

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