(9)

「待て……休憩インターバルをくれ」

 謎の女(その2)は……超胸糞ホラー映画……たとえば、子供が舌を切り取られて終るとか、そんなロクデモ展開の……でも観終わった直後みたいな表情で、そう言った。

「わかった。試合開始のタイミングは……そっちで決めてくれ。ただし、あくまで常識の範囲内でな」

 まぁ……そんな表情かおにもなる……。

 相手は……攻撃したら細菌兵器を撒き散らすトンデモ改造人間。

 実は、簡単にやっつける方法は有るけど……サイコ女の罠に、まんまとハマって、その方法は使えなくなった。

 謎の女(その2)は……天を見上げる……。

「1つだけ……あれを倒す手が有る」

「え?……いや、早く言ってよ、それ」

「でもな……その方法をお前に教えてやるには、1つだけ条件が有る」

「何?」

「例えば『岩清水弘は早乙女愛の為なら死ねる』……」

「誰、それ?」

悪いわりぃ、あたしらは、お前ら主流人類サピエンより老化が遅くて寿命が長い。見た目より遥かに年寄なんで古いネタ使っちまった」

「あ……そ……」

「例えば『聖女様の為なら、死ぬより酷い目に遭ってもいい』『姿形など、どう変ろうと問題無し』『あいつに勝つ為なら、俺の人生が無茶苦茶になる位、何て事はない』……あたしが、お前に、これから何を言おうとも……格好良さげなだけの覚悟や決意のない言葉……絶対に口にするな」

「えっ?」

「あたしが、お前にやって欲しいと思ってるのは……そんな真似だ。お前が仮に家族のかたきだとしても……逆に踏み殺しても何とも思わない……愛どころか憎しみさえ抱く価値すらない虫ケラ未満の相手だとしても……そんな目に遭わせるのは躊躇ためらわざるを得ないような酷い真似だ。『お前が死んでも知った事か』以上の……『お前が死なないまま、お前の人生が無茶苦茶になっても知った事か』……それ位の決意が必要な真似だ。お前が、もし、安易に『自分がどんな目に遭っても、聖女様の為なら……』……そんな台詞を口にしたなら……後で後悔するのはお前自身だ」

「いいよ……どんな事になっても……僕は……」

「その先に、どんなクサくてダサい台詞を言うつもりか知らんが……後でお前が……死を望むどころじゃない……ような事態になる覚悟は……本当に出来てるのか?」

「出来てる。やる」

「最後の確認だ。後になって、ここであの『聖女』サマなんて見捨てりゃ良かった……そう思う日が確実に来るような酷い目に遭う事になるぞ。それが嫌なら……ギブアップして、あの『聖女』サマを、あたしの片割れに引き渡せ」

「くどいよ、やる。何が有っても後悔しないよ」

「判った。おい、『聖女』サマ……こいつに回復魔法を使え」

「えっ?」×3。

 僕と聖女様とスナガの口から同時に同じ言葉が……。

「あ……あの……回復魔法を下手に使えばマズい事になるって言ったのは……」

「ああ、そうだ、あたしだ。早くやれ、『聖女』サマ……このマヌケの体に取り憑いてる寄生生物の細胞が増殖しても……構わず、回復魔法をかけ続けろッ‼」

「あ……あの……それは……いくら何でも……」

「こいつの意志は確認済みだッ‼ このマヌケは……あんたの為なら、自分の人生が無茶苦茶になる事に同意したッ‼」

 ご……ごめんなさい……こいつが何を考えてるのか……判んないけど……ごめんなさい……さっき、格好良さげな事を言ったばっかりなのに……。

「細かい事は、後で指示するッ‼ ッ‼」

 ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、僕なんて、とんだボンクラのヘタレなのに……聖女様の前で格好付けたいだけで……心にも無い事を言っちゃいました。赦して赦して赦して……。

「あんたもこの世界の『大地母神』サマの代理人アバターなら知ってるだろうがッ‼ この世界でも、あたしらの世界でも……。このマヌケは、この世界の『大地母神』に選ばれた転生者…………でありながら、使、今、この時、まさに……

 謎の女(その2)が……僕に向ける視線は……馬鹿過ぎて同情せざるを得ない底が超抜けまくった超ドマヌケを見る憐れみの目……。

「もう……どうしようもねえ……あんたや、このマヌケが、この先、何を望んで、どんな選択をしても……それは全部無意味だ……。。あんたの為に、こいつが死ぬより酷い目に遭うのは……たった今、避けられねえ運命になった。ここで、あんたが、こいつを助けようとしても……その行為や選択には、あんたの自己満足以上の意味はねえ」

「わ……わかりました……。仕方ありません……」

 聖女様、わかっちゃ駄目だって……仕方なくないよ……やめて、やめて、やめて……あああ……僕の腕が腕が腕が……足が足が足がああああああッ‼

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