(6)

「おい、いつまで待たせる気だ? 夜が明けたら不利になるのは、そっちだろ?」

 意識が戻って、最初に聞こえたのは……サイコ女の声。

「おい……もう、降参した方がいい。これ以上やると……お前、死ぬぞ」

 今度は謎の女(その2)の声。

「え……えっと……これ……火事場の馬鹿力の使い過ぎ?」

「似たようなモノだ。効力が切れた途端に反動が来る肉体強化魔法を使っちまった。もう、お前の体の筋肉は……あっちこっちズタボロだ」

「じゃ……治癒魔法とか……回復魔法とか……」

 けど……謎の女(その2)は、首を横に振る。

「せ……聖女……様……」

 え?

 え? え?

 どう言う事? 聖女様も……哀しげな表情かおで……。

「今、『聖女』サマに魔法で調べてもらった。寄生生物系の相手と2連続で戦ったんでな……念の為に……」

「な……何?」

勇者ボルグ様は……気付かれていませんが……勇者ボルグ様は、先程の2体の怪物の体液を浴びています。ほんの少量ですが……」

「そ……それが……どうしたの……?」

勇者ボルグ様の手足の皮膚と同化して……」

 ……。

 …………。

 ……………………。

 待てッ‼

 待てッ‼

 待てッ‼

 待てッ‼

 待って、待って、待って、待ってぇ〜ッ‼

 何?

 何?

 何?

 どういう事?

 ここ、ポリコレ過剰かポリコレ逆転してるだけのナーロッパだと思ってたら……とんだホラー世界だったのッ?

 い……いや、待てよ。

 あのサイコ女が、僕と同じ世界の出身なら……僕の世界が僕が気付いてなかっただけで、裏で化物どもが暗躍してるよ〜な無茶苦茶な世界だったのッ?

 うわあああ……。

「もし、治癒魔法や……回復魔法を使えば……

「そ……そ……そんな罠有りぃ?」

「なんで、今は、痛みを遮断する魔法しか使ってねえ。一応、お前は戦えるだろうが……下手に戦えば、痛みを遮断する魔法の効力が切れた途端……今度は、もっと酷い事になる」

「ひ……ひ……ひ……酷い事って?」

「おい、『聖女』サマ……この世界に車椅子って有るか?」

「えっ? どのようなモノなのですか、その『車椅子』とは?」

「身体障碍者向けの介護施設は?」

「あ……あの……どう云うモノか、私には、さっぱり……」

「や〜め〜て〜」

「じゃあ、こいつを、元の世界に強制送還する事は出来るか?」

「あ……え……えっと……」

「あのさ、元の世界に戻れたとして、お前、年単位でリハビリ入院しても大丈夫な位の財産とか……」

「無いッ‼ 無いッ‼ 無いッ‼ 何とか元に戻してッ‼」

「やる方法は有る。まず、寄生生物の細胞に汚染された箇所に『病気を治す』魔法をかける」

「それでいいじゃんッ‼」

「ところが、寄生生物の細胞は、お前の皮膚と同化してるんで、それをやると血がドビュ〜だ」

「じゃあ、その傷を治す魔法を……」

「だから、迂闊に回復魔法をかけると、寄生生物の細胞が増殖するんだよ」

「じゃあ、どうすんの?」

「小さな範囲に『病気を治す』魔法をかけ、続いて、その小さな範囲に『傷を治す』魔法をかけ……その繰り返しだ。早い話が、すんげ〜細かい作業を延々と繰り返すしか無い」

「ええええッ? ちょ……ちょっと待って、どの位、時間がかかるの?」

 聖女様と謎の女(その2)は天を仰ぐ。

「確実に夜は明けるな」

「おい、いつまでグズグズしてるつもりだ? こっちの次の選手の紹介をしてもいいか?」

 サイコ女が、そう言うと……一歩前に出て来たのは……。

 顔中に紫色の腫れ物が有る超キショい……。

「お……おい、待て、そんな奴まで作ってたのか?」

「ああ、それが、どうかしたか?」

「何、考えてる? そいつを戦わせたら、お前も無事じゃ……」

「済むんだよな、これが……」

 そう言って、サイコ女は……どこからともなく、を取り出して、顔に装着した。

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