(10)

「や……やめろ……絶対に……やめろ……」

 僕は、サイコパス洗脳能力者に鉄の首輪を付けられ、その首輪から伸びてる鎖で引っ張られる。

「君の為なんだ。理解してくれ」

「ふざけんな」

「あ……あの……やめた方が……ええだ」

「どっちみち……もうすぐ終る。何もかもが……」

 牢獄の暗い通路。そこを無理矢理進まされ……。

「ここだな……」

 サイコパス洗脳能力者は、ブ厚い扉の1つに鍵を指し込み……。

 ガチャン……。

 聖女様と再会出来る時を告げる音。

 同時に、最悪の展開が始まる音。

「さぁ……感動の再会だ……」

「ボ……勇者ボルグ様?」

「せ……聖女様……」

「その男の人から離れてッ‼」

「僕に近付かないでッ‼」

 えっ?

 突然始まる……聖女様から逃げようとする僕と、僕に抱き付こうとする聖女様との追いかけっこ。

 で……でも……何の事だ? 聖女様のさっきの台詞……?

「う……うぶ……っ」

 何故か、サイコパス洗脳能力者が自分の口に手を当てる。

「うげぇ〜ッ‼」

 突然、サイコパス洗脳能力者は床にゲロを撒き散らす。

「お……おかしいな? この世界の常識に毒され過ぎたのかな?」

「へっ?」

「あれ? ボクは、そう云う偏見なんて持って無かった筈なのに、この白肌のヒトモドキのメスを見た途端に、すげ〜気分が……」

「なに言ってる? 可愛いじゃないかッ‼ 萌えるじゃないかッ‼」

「それって君の感想だよね。ボクにとっては見てて気分が悪くなるような生きてる価値も無い醜いヒトモドキだ。まぁ、いいや、君がメスのネアンデルタール人の腐れ@#$に自分を*%&をブチ込むような人倫にもとる真似をする前に……」

 僕の大切な聖女様のどこがネアンデルタール人だ? この野郎、殺してやるッ‼

「さぁ、その醜い白肌ヒトモドキのメスを殺すんだッ‼」

 うるさい、死ぬのはお前だッ‼

 死ねッ‼

 死ねッ‼

 死ねッ‼

 死ねッ‼

 僕は、サイコパス洗脳能力者を何度も何度も何度も殴り付け……そして、血が飛び散り……あれ?

「何で……?」

「何で……?」

 僕とサイコパス洗脳能力者は、同時に、そう叫んだ。

「洗脳……能力……発動してないの?」

「もう1つ……変だ……」

 えっ? あ……良く見ると……。

……

 たしかに、僕が奴を殴り付けた事で、血が飛び散った……。

「君は……自分の拳が、そんなになるまで、ボクを殴り付けたのに……ちっとも痛くない……」

 でも……

「その男の人は……‼」

 聖女様を除いた……僕を含めた3人が、同時に「えっ?」って感じになり……。

 あ……そう言えば……あの元力士の超スピードでの激突を食らったのに……何で、こいつ生きてんだ?

「その男の人は……異世界の魔法で生かされている人でない何かですッ‼ 転生者としての能力を失なった代りに……」

 ビキ……っ。

 ビキ……っ。

 ビキ……っ。

 サイコパス洗脳能力者の肌が変化していく……茶色く……硬そうな……まるで……。

「何か……危険な怪物に変えられてしまっています……」

「え……あっ……?」

 そして……サイコパス洗脳能力者が、さっき吐いたゲロから……植物の芽みたいなモノが生えていた。

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