(9)

「ふふふふふふ……」

 洗脳能力持ちは……何か異様にキモい笑い声を……ん……?

 何だろう……何故、笑い声なのに、泣き声のようにも聞こえるんだろう?

「君は、ボクが前世で失なった大切な……女の子に似てる……」

 え……えっと……。

「ひょっとして、デブ専?」

「……違うよ。

「何言ってんの? 今まで、僕がやってきた事は……全部……」

「この世界の転生者の固有能力は……前世の人生や願いが反映されたモノだ」

 洗脳能力者は、僕の指摘を、あっさり無視して自分の言いたい事だけ言ってる。

「膝を壊して相撲取りをやめた奴は、超スピード。SNSへの投稿が炎上して心を病んでしまった萌え系絵師は絵に関する能力。……そして、カルトのエロ教祖同然の屑野郎の寄付金チュ〜チュ〜バ〜だった例の『エロゲ戦鬼』の著者を『脳内御花畑の理想主義者がやらかしてる正義の暴走を止めてくれる聖戦士』だと信じてしまったせいで……本当に助けたかった女の子を助けられなかったボクは……洗脳能力」

 え……えっと……何を言って……。

「あ、えっと……ところで、どんな平凡な人生を送って、どんなありがちな願いを持ってたら『火事場の馬鹿力』なんて凡庸な固有能力を得るかは、よく判んないけどね」

 うるさい、余計な御世話だ。

「ひょっとして、君、なろう系小説の読み過ぎで『ざまぁ』だけはやりたかったのに、誰に『ざまぁ』したいかも自分では良く判ってなくて、どういう『ざまぁ』をやりたいかも良く考えてなかった馬鹿だったの?……だとしたら、かわいそ……」

 やめろ。せめて、嘲笑口調で言ってよ。

 ホントに同情されてる感じで言われてら、余計にみじめになる

「君は、この世界に異世界転生した時に、自分が選ばれた者だと思ってたんじゃない?」

 いや、そりゃ、異世界転生とかしたら、そう思うのが普通だろ。

「でも、いつの間にか、自分は無価値な存在だと思うようになっていった……。例えば……そう……カルトの教祖とか、あの『聖女』を名乗る白肌ヒトモドキのメスとか……そんな大切な誰かの『愛』を失なってしまったら……自分は、もう生ける屍になる。そう思うようになってしまってないかい?」

 クソ……こ……こいつ……固有能力さえ使わずに……普通に言葉だけで洗脳とか出来るのか?

「それ、カルトに洗脳されてる奴に、ありがちなパターンだから。最初は『僕は特別だ』と思い込ませる事で引っ掛けて……少しづつ『僕は無価値だ。あの御方が僕を愛してくれるのをやめたら、僕は生きてる資格さえ無い人間の屑になる。あの御方の愛を失なわない為なら何だってやってやる』って逆の考えを刷り込んでいく」

「ち……違う……」

「まぁ、いいよ……君がどう思っていようと……君を解放してあげよう……。あの『聖女』の洗脳から……」

「あ……あの……えっと、本気だか?」

 スナガも流石に……震え声で、そう言い出した……。

「本気だよ。まずは、彼を例の『聖女』と対面させ……ボクの能力を使って、彼に『聖女』を殺させるんだ。これで……彼は解放される」

 そして……洗脳能力者は……。

「あははは……そして、ボクも……ようやく休める。ようやく……あの子の所にける」

 あのサイコ女とは、何か色々と完全に方向性が違うけどサイコ野郎な点だけは共通してる奴は、泣きながら、そう言った。

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