第2章:ETERNAL 0 or -1.0

(1)

「ここが町の外への出口だ」

「う……うん……」

 地下の下水道を出て、町の外へ何とか脱出……。

 でも、今の僕は、この白人が差別され、有色人種が文明人というポリコレ配慮にも程が有る異世界で、多分、世界でたった1人のユニークな男。

 言い方を変えれば……この世界で最もマイノリティ。

 元の世界のような白人こそ至高の人種で、日本人がその次で、その次は親日有色人種……という理想のような世界でも、全てが逆転したこの世界でも、どう考えても、差別されるのが当然の面白顔左衛門。

 顔の半分が白人で、もう半分が有色人種。

 こんなのが町を歩いてたら、誰だって「うげぇ、きめぇ」と思う筈だ。

 僕だって、そう思う。

 元の世界でも、この世界のどっちに居たとしてもそう思う。

 そして、あの馬鹿強い宿屋の娘に口裂け男にされた時に……筋肉か神経にヤバい損傷を受けたようで……口元は四六時中、笑っているような形。

「ま……まぶしい……」

「えっ……でも、夜は明けたばかり……」

 スナガが、いぶかしげに、そう言った。

「ま……まさか……」

 聖女様は、何か心当りが有るらしい。

「あの朝日を見て下さい」

「だから、まぶしいって……」

「まず、どちらか片方の目をつぶり、続いて、反対の目をつぶって見て下さい。それで何か判るかも知れません」

「えっ……?」

 多分、聖女様だけが、この狂った世界で、僕の唯一の味方だ。

 言う通りにしてみ……ん?

 あれ?

 片方の目だけで朝日を見た時だけ……無茶苦茶まぶしいのに、もう片方の目だけで見ると……ふつ〜。

 そして、まぶしく見える方の目は……あああああ……。

勇者ボルグ様は……あの薬の影響で、顔の半分だけが、肌や目の性質が、ウルクの中でも更に純血種に近付いてしまったのです」

 え? どう云うこ……。

「は……はやく、顔を布で覆って……」

 な……なに……なにが、どうなって……。

「おい、何だ、お前ら……? えっ……?」

 その声の主は……通りがかりらしい農民の親子……。

 父親・母親・そして、男の子と女の子……。

「おと〜さん、おか〜さん、あのデブのおじちゃんキモいぃ〜ッ」

「しっ、指差すんじゃありません」

「ば……化物だ……こんな化物見た事も聞いた事もない……。逃げろ……病気が移るぞ」

 だ……だれが、デブじゃあああああッ……。

 うきゃきゃきゃきゃ〜ッ‼

 って、何で、こんな時に、火事場の馬鹿力が発動すんだよッ‼

 す……すんだ……すんだ……すんだよ〜ッ‼

 でも……あ……そうだ。

 この火事場の馬鹿力が発動したのは……発動する必要が有った時だ。

 この火事場の馬鹿力のおかげで、聖女様を救い出せた。

 この火事場の馬鹿力のおかげで、ピンチを打開出来た。

 そうだ。

 僕は男だ。

 理性的な現実主義者だ。

 ピ〜ピ〜とヒスを起す感情的で非論理的な女どもとは違う。

 そして、現実主義とは……今まで通りやってれば、とりあえず巧く行くだろうって事だ。

 おれは偶然も2つまでは許すことにしてるんだ。しかし3つも重なったら、こいつは偶然じゃない。何らかの必然があるんだ。……それが、元の世界に居た頃にSNSでフォローしてた、あのすごいすごいすごいすご〜ぉぉぉい人の御言葉だ。

 ああ、あの人は、今頃、都知事になってるだろう。異世界転生した僕が、その御美姿おすがたを見届けられないのが残念だ。

 ともかく、きっと、この親子を殺さないと、僕達の身にマズい事が起きるんだ。

 あと、あの人の名著「エロゲ戦鬼」を置いてくれと言ったら、僕を@#$%を見る目で見やがった高校の図書館の司書も殺すべきだ。

 ふざけやがって、僕の糞親父。何で、本屋もロクにないクソ田舎に引っ越しだんだよっ? 現代人必読の書である「エロゲ戦鬼」が買えねえじゃねぇ〜かぁ〜ッ‼ ボケた爺ィなんて安楽死させればいいじゃないかッ‼ お前も安楽死させてやろぉ〜かぁ〜、この毒親がぁ〜ッ‼

 うきゃっ‼

 うきゃっ‼

 うきゃきゃきゃきゃ〜っ‼

 まずは、父親に飛び蹴りッ♪

 倒れた所で、何度も、何度も、何度も、何度も踏み付けッ♪

 どんッ♪

 どんッ♪

 どんッ♪ どんッ♪ どんッ♪ どんッ♪

 ああ、駄目だ。

 異世界転生してチート能力を色々と得たけど……踊りが巧くなるってのは無いようだ。

 邪悪な農民一家の邪悪な父親の背中の上で、踊りみたいな感じで飛び跳ねようとしたけど……でも、何か、我ながら、下手な盆踊りにしか思えない。

 とりあえず、まず、悪は1つ地面に倒れ伏し、動かなくなった。

 そして、残る3つの悪は……。

 怯えて、動けない……。

 3人で抱き合って、腰を抜かしてる。

 大丈夫だよ。心配しないで。僕は優しい男だから、3人とも、お父さんと同じ場所に送ってあげるよ。

 うきゃきゃきゃきゃ……この3人を殺すなど……女子供を殺すより楽な作業よ、うきゃきゃきゃきゃ♪

「御主人様、いけねえだッ‼」

「うるさい、スナガ、止めるな。こいつらを殺さないと、聖女様の身が危なく……」

「御主人様、人間の女子供は殺す前に@#$もんだ。さあ、一緒に、こいつらを*%&するだ」

「えっ?」

 え……えっと……あれ……僕……何をやって……えええええッ‼

 おい、スナガ、ズボンを降すなッ‼

「逃げなさいッ‼ 早くッ‼ お母さんの事は、どうなってもいいから、人を呼んで来て〜‼ この化物を早く殺さないとッ‼ 町の人達にも被害が出るッ‼」

「だまれッ‼ 人間がぁ〜ッ‼」

 スナガは母親の喉をナイフで切り裂き……。

 続いて、男の子の喉にナイフを突き刺し……。

 あ……女の子が逃げ……。

「追うぞ〜ッ‼」

 きっと、あの時、火事場の馬鹿力が発動したのには理由が有る。

 この親子は、今、殺しとかないと大変な事になる。

 どう大変な事になるかは、さっぱり判らないけど……僕は、僕のチート能力を信じ……。

 あじッ‼

 痛いッ‼

 顔がッ‼ 痛いッ‼

「あああああ……」

「こ……これは……私が太陽の光を浴びた時に起きるのと……同じ……」

「えっ、どうなって……?」

「こうなってますだ」

 スナガは、鏡代りに、ナイフの刃を僕に見せ……。

 僕の顔の……白人化薬をBUKKAKEられた側は……火傷でもしたかのように……無数のイボが出来て赤黒く変色していた……。

 けど……こんなに……痛くて……苦しいのに……口元は笑みの形のままだった。

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