(12)

 冗談じゃない。

 冗談じゃない。

 冗談じゃない。

 冗談じゃね〜ぞ、こんな死に方‼

 僕は選ばれた主人公、チート能力持ちの転生者サマだぞ‼

 何で、こんな……死に方しなきゃいけな……あひゃひゃひゃひゃ〜ッ‼

 あれ?

 宿屋の娘の攻撃が一瞬だけ止まった。

 それに、何だ、この笑い声は……?

 あ……この世界に異世界転生した時の最初の戦い……あの時と同じ力があああああッ‼

 死ね、小娘ッ‼

 僕は背中の大剣を抜き……。

 グサッ‼

 大剣の間合じゃなかった。

 宿屋の娘と、僕の距離が近付ぎた。

 腹の辺りの……鎧の隙間に、あっさりと……刺身包丁風の細長い包丁を刺された……。

 それでも、僕は……大剣を振う。

 ジャンプ……。

「えっ?」

 驚く小娘。

 ぐははは……今こそ、わからせタイムだッ‼

 突然湧き出した謎の力によるジャンプの反動か……地面からは何かが割れるような音。

 そして……。

 ポキ……ッ。

 僕の腹に刺さった包丁の刃か柄が折れる音。

 ざまあ見ろ。

 僕がこの世界に異世界転生して最初の強敵は、武器の1つを失なった。

 飛び上がった僕は、大剣を振り降しながら着地。

 大命中‼

 ん……?

 命中した……。ただし、地面に……。

 霞む目で良く判んないけど……小娘は……逃げてた。

 そうか……僕の戦力に恐れをなしたかッ‼

 その通りだ。

 非ネームドの雑魚キャラにしては、良い判断だ。

 所詮は宿屋の小娘が、なろう系のチート主人公に勝てる筈が……。

 あ……あれ?

 って、事は、宿屋の娘は生きてるぅ?

 ボヤけまくった目に映るのは……宿屋の娘の背中。

 そして……宿屋の娘が大回転。

 右手には、中華包丁風の……それは、包丁と呼ぶには、幅広すぎた。ブ厚すぎた。そして……ともかく、鶏丸ごと程度なら力まかせにブツ切りに出来そうな大型包丁が……ボクの頭を目掛けて、横殴りに……。

 うわああああッ‼

 だが、包丁の軌道が逸れる。

 ぱっくり。

 僕の頭に命中はしなかった。

 ただ、僕の口の辺りを切り裂き……あれ……血がゴボゴボ出てるのに……痛みは……感じ……意識が……薄れ……。

 あれ?

 重さが……消えた……。

 し……死ぬのか?

 こんな所……うわああああ……。

 僕は暗闇の中に堕ちていった……ただし……

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