第17話 好きになっちゃいけない人なんて本当はいないはず

〜河原良太の視点〜


 いきなりの良太の告白に美波は困惑する。


「あ、もう吹っ切れたの?七瀬ちゃんのこと」



「うん。不安な時、いつも美波がサポートしてくれて俺、嬉しくて。今度はちゃんと美波を幸せにしたいって思ったんだ」



美波は涙目になった。



「そんなこと言われると、、もっと好きになっちゃうじゃん」



「いいじゃん。俺たち付き合うんだし」



良太はそう言って美波を抱きしめた。そしてキスをした。



「これからよろしくね、美波!」



「こちらこそ、良太!」









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〜笹井七瀬の視点〜


 七瀬は明人にサポートされながら病室で横になっていた。


「明人。帰らないの?」



「七瀬が心配だから。また倒れたりしたら大変だし。今日はずっとここにいるよ。迷惑じゃなければ」



「迷惑…じゃないよ…」



明人と七瀬は目を合わせて笑う。全く気まずくない。むしろ明人の顔を見て安心感さえある。良太の時はこんなことがあったらすぐに相手の負担を気にして元気になったフリとかしていたのに。今ではもっと明人に甘えていたい。



「明人。甘えてもいい?」


彼女のように七瀬は言う。6年前の青春時代のようだ。



「いいよ」



明人は七瀬をそっと抱きしめる。



「ずっとここにいるから。俺はもういなくならないから」



6年間分の思いを込めて抱きしめる。抱きしめられてる間、七瀬は高校時代の思い出に耽っていた。



「明人…好き」



「俺も好きだよ。七瀬。6年間悲しい思いさせてごめんね」



 七瀬は思い切り泣いた。疲れが溜まっていたのか、そのまま眠ってしまった。









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〜黒川栞の視点〜


 明人ともう会わないと誓った栞は居酒屋でやけ酒をしていた。栞の中で明人への未練はまだ残っていた。



………はぁ。衝動的になりすぎたかなぁ?………



「どうしたんですか?お姉さん」


いきなり隣の席のサラリーマンに声をかけられた。



………これって、、ナンパ?………


「あ、びっくりしなくていいよ。ナンパとかそういうのじゃないから」



………え、じゃあ何?………



「お姉さん、一緒に飲まない?」



………やっぱナンパですよね………



それでも栞は話を聞いてくれるならナンパ野郎でもいいと思って一緒に飲むことにした。サラリーマンの名前は瓦木茂(しげる)。34歳。栞より7歳ほど年上の男性だった。栞は明人との出来事を話した。



「えー!じゃああなた、その人に6年も恋してたの?」


「まあそういうことになりますね」


「すっご!俺は報われない恋にそんなに費やせないなぁ」



………報われない恋か………



 栞はふと寂しくなった。一緒に過ごした6年間、明人は一度も自分のことを好きにならなかったのだろうか。二回セックスはしたけどそれは完全に寂しさを紛らわせるためだったのだろうか。下半身でさえも必要とされてなかったのだろうか。



「好きになっちゃいけない人だったんだと思います。6年前に気づいてれば。ホームヘルパーと被介護者という関係のままでいれば。こんな気持ちになることもなかったんだと」



「報われないかもしれないけど好きになっちゃいけない人ってのはないんじゃないかな?」



「え!だって報われなかったら無駄じゃないですか」



「例え報われなくても誰かを一途に愛するってなかなかできないことだよ?だから栞さんがその人を好きになったことにはきっと意味があると思う。好きになっちゃいけない人なんて本当はいないと思うよ?」



 茂さんにそう言われて栞は心が落ち着いた。というよりこの人と話してると安心感があると感じた。最初はナンパしてきた人だと思ってチャラいイメージがあったが徐々に信頼を得ていった。そしてそのまま二時間近く談笑し、連絡先も交換した。







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〜笹井七瀬の視点〜


 七瀬が目覚めてしばらくすると明人も目覚めた。しかし、明人の様子が少しおかしい。



「どうした?明人」



「ダメだ。今日ダメな日かも」



「ダメな日?」



「ごめん、話しかけないでほしい。俺、帰るね」



七瀬は何が起きたのかわからなかった。しかし、話しかけてはいけない雰囲気だったので明人を見送り、また眠った。


 

 再び目覚めると病院に知らない人がきていた。



「本当にここにいたんだ。」


「誰ですか?」


「七瀬ちゃん!急にYouTubeやめちゃったから心配してたんだよ。やっと会えた。ねえ、俺と一緒に来てよ」



………やばい人だ………



七瀬は直感で感じた。きっとユーチューバー時代のファンなのだろうが、有名人あるあるのストーカー行為というものだろう。七瀬はナースコールを押して事なきを得た。しかし、七瀬は考えた。



………もしかしてYouTubeやめたとはいえ、私にもうプライベートなんてないのかな?明人と食事行っただけでもネットで情報が拡散されるし。この情報化社会にネット配信なんてやるべきじゃなかったのかな。私は今後、明人と結ばれたとしてもずっと世間の目を気にして生きていかないといけないのかな………



そう考えると気が遠くなりそうだった。そして軽い気持ちでYouTubeを始めた過去の自分を憎んだ。

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