第14話 近づきたいよ理想の人 不釣り合いな恋です
「俺のことまだ好きだったりしない?」
衝撃の一言。七瀬はすぐに答えられなかった。
「どういうこと?何を言ってるの?」
「だからさ、、」
何かを言いかけたその瞬間。明人は倒れた。七瀬は急いで明人を家に入れ、布団に寝かせた。楓も騒ぎに気づき、駆けつけた。
しばらくして明人が目を覚ました。
「ごめん。俺、鬱患ってから無理しすぎると急に立ち眩みするんだよね」
「そうなんだ、、大丈夫?」
「うん。俺さ、栞に何度も告白されて、でもその気持ちに答えられないから栞を突き放しちゃったんだ。そしたら喧嘩になって家を出て行っちゃって。心のどこかで一人は寂しいって思いがあって気付いたら七瀬の家に来てた。いきなりごめん」
「大丈夫。しばらくここで休みな。」
楓は気を遣ったのか部屋から出ていった。
「ありがとう。で、七瀬は今」
「その質問には答えられない。ごめん。」
「違うんだ。栞に言われた。過去の恋を忘れるには新しい恋をするべきなんだって。でも栞とヤっても気持ちは変わらなかった。俺はまだ七瀬が好きって気づいちゃった」
「そんなこと言われても困るよ、、私は結婚予定の彼氏がいるしユーチューバーだし」
「俺と一緒にさ、どっか遠く行かない?YouTubeなんてやめてさ。本当は気付いてるんでしょ?ユーチューバーは合わないって」
「そんなこと言わないで!確かにみんなキラキラしてて私なんかがやってていいのかって思うこともある。でも私は有名になるために必死にここまで努力してきたの!それを、、無駄にしたくない、、」
「そうだよね、、ごめん。俺の独りよがりだった。帰るね」
明人はそう言って七瀬の家のドアを開けた。
その時!
目の前には良太が立っていた。
「何でいるの、、?」
「あ、、」
「撮影のために七瀬起こしにきたんだけど。何であなたがいるんですか?」
七瀬も良太の存在に気づいた。完全に修羅場だ。
「あ、明人が私の家の前で倒れちゃって、、それで」
「何で七瀬の家の前にいたの?」
「それは…」
「もう七瀬に関わらないでもらっていいですか?」
良太はそう言うと家のドアを閉めて明人を追い出した。怒っているのだろうか。こんなにきつい言い方をする良太は初めて見た。良太と喧嘩などしたこともなかったし怒ってるところも見たことはなかった。
「あ、あのさ、経緯説明すると」
「いいよ。どうせあの男がストーカーっぽく着いてきたんでしょ?七瀬は何も悪くないって分かってるから。だから何も言わないでね」
良太は悲しそうに言う。気づかないようにしているのだろうか。
「それより、今日の撮影のために早くスタジオ行くよ!あ、後、結婚式の日程も決めちゃったからさ、招待したい人リスト送っといて」
「あ、うん」
結婚式の日程決めるまでに早いと感じた七瀬だったが良太への罪悪感から何も反論できなかった。とにかく自分には良太との結婚をする以外に選択肢はなかった。
七瀬は撮影中、ソワソワしていたがそれは良太も同じだった。視聴者は鋭い。
『最近このカップルの様子変じゃね?』『結婚前に喧嘩とか?』『ワンチャン破局ある?』
このようなコメントが増えていた。気にしないようにしていたがやはり図星をつかれると痛い。良太もさらに不安を煽られていた。
それよりも七瀬にとって心にきたコメントは『このカップル、前から思ってたんだけどさ、釣り合ってなくね?』『わかる。何か彼氏はめっちゃ陽キャで人気者だけど彼女の七瀬は無理してる感じ』『めっちゃ分かるwww』というコメントだった。
七瀬は自分のコンプレックスが刺激される度に傷ついていた。そして明人の件もあり、自分は良太と釣り合っていないんじゃないかという思いが増してきていた。
そんな思いの中、結婚式当日となった。陰キャ時代がバレてしまうため、高校時代の友達は楓しか誘わず、YouTube仲間を中心に誘った。良太は過去の友達から幅広くよんでいた。そんなところからも良太との人脈の差を感じた。
控室。七瀬はドレス姿で待機中。しかし、心はうわの空だった。忘れようとしても結局、明人の顔が浮かんでしまう。花火大会の日、明人の過去を聞いて以来、気づかないようにしていたのに。無意識のうちに明人を求めていた。そして何を思ったのだろうか。式場に入るとすぐに「ごめんなさい!まだ結婚できません!」と言って式場を立ち去った。
周りはザワつく。良太も怪訝そうな顔。美波は「大丈夫?」と良太を心配する。そんな周囲を見る間もなく、七瀬は走り続けた。まるで結婚から逃げるかのように。
走り続けて駅にたどり着いた。きっとネットは荒れるだろう。結婚式当日にブッチとか大炎上に決まっている。絶対に後で後悔する。心では分かっていたが身体は正直だった。衝動的なものだった。明人を探すために駅に来てしまったのだ。
………明人。明人。どこにいるの?………
七瀬は人混みの中、明人を必死に探していた。
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