第13話 首から下だけでも愛してよ
休みの日。七瀬と良太は結婚式場を決めるために下見をたくさんしていた。条件はそこそこ高級であること、SNSにあげたときに見映えが良いかどうかだった。やっぱり知り合いのユーチューバーも呼ぶとなると結婚式場をケチったと思われることは避けたいという気持ちがあった。そして結婚指輪もそこそこ高級なブランドの所で買った。
………これで良いんだよね………
何の躊躇いなのだろうか。幸せなはずなのに何故か心がソワソワしていた。
家に帰ると疲れすぎて布団にベッドインした。楓が話しかける。
「ねえ。今日結婚式場決めて結婚指輪買ったの?」
「うん」
「それは早く結婚するため?早く明人を忘れるため?」
「楓、何を言ってるの?」
「あんたを見てると分かるよ。明人と再会してから落ち着かないし。この前明人に過去の話聞いちゃったんじゃない?それで再熱しちゃったんでしょ?でも今自分には彼氏がいるし、それを世間に公表までしちゃってる。ここで破局なんてなったらスキャンダルどころの騒ぎじゃない。だから早く結婚しないと。そんな気持ちなんじゃない?」
「そんなんじゃないよ、、」
「強がらなくていいよ。私の前では。気持ち分かるからさ」
「気持ち、、」
「別に良太に不満があるわけじゃないでしょ?でも良太は有名ユーチューバー。考えないようにしてるけど自分とは住む世界が違うと潜在的に認識しちゃってるんじゃない?自分は良太のお陰で有名になれただけだって。高校時代、地味だった七瀬からしたら本来なら手の届かない存在。だからいつも背伸びしちゃう。でも明人は違う。高校時代の自分を受け入れてくれた存在だから自然体でいられる。明人といる方が楽だって感じちゃってるんじゃない?」
「そうだよ、、多分楓の言う通り。良太は完璧な彼氏だよ。だから怖いの。完璧すぎて。自分が釣り合ってないんじゃないかって。良太の理想の相手になれるように背伸びもしちゃってさ。一緒にいて楽しいはずなのにいつも繕ってるっていうか、無理してるっていうか。だから明人の前だと自然体にいられて楽なんだと思う。でもダメなんだよ。この気持ちは封印しないと。もう6年前のことなんだし。ここで破局なんかしたら私はユーチューバーではいられなくなる。ここまで積み上げてきたものを全て失っちゃう。だから大丈夫。私は良太と結婚するから」
「何が幸せかちゃんと自分で考えた方がいいよ」
楓はそう伝えて自分部屋へ行った。
………客観的に見て私、本当にわがままだな。こんなに大切にしてくれてる彼氏がいるのに浮ついちゃうなんて、、…………
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〜黒川栞の視点〜
「あのさ」
明人が話す。
「やめて。この前の話でしょ?あれはホラ、たまーにあるいつものアレだから」
「いや、でもあの行為、栞とまだ二回しかしてないし、、そんなに頻繁になかったよね?」
「そうだね、、ごめん。やりすぎたね。でも何も言わないで。私、別にこの前は告ったわけじゃないし」
「うん。でも!!思わせぶりな態度取るのも良くないって思うからさ、言っときたい。もう栞とセックスはできない」
「そ、そう。もう心は大丈夫なの?」
「そもそもセックスは愛した人とヤるものだし。前に精神的に限界だった時に栞とヤっちゃったこと、本当に反省してる。栞は俺の性処理道具じゃないんだし。だからもうできない。ごめんね。これからも友達として仲良くしたいからさ」
………友達って何?友達と恋人って何が違うの?私たち、セックスしたんだよ?………
栞は明人が振り向いてくれない苛立ちを募らせていた。
…………彼氏になってくれないならせめて、、せめてセフレにはなってよ。明人のことを支えたいんだよ。そのためなら幾らでも脱ぐからさ。首から下だけでも愛してよ。明人。…………
栞の涙を象徴しているのだろうか。外の雨の音がより栞の悲壮感を感じさせる。
「もし明人の心の支えにすらなれないなら。私のいる意味は何?彼女でもない。セフレでもないなら私は何で一緒にいるの?もしもう身体を重ねてくれないなら、付き合ってくれないなら。私はもう明人に会わないから」
そう言って栞は明人の家を出た。
「一人にしないで」と明人は呟いたがその呟きは雨の音にかき消された。
栞は一人で遠くまで歩き、泣いた。せめて明人の心の支えになりたかった、、その気持ちは何時間泣いても消えなかった。
………こんな気持ちになるなら6年前、ヤるんじゃなかった。明人のこと好きになるんじゃなかった………
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〜笹井七瀬の視点〜
七瀬が楓に自分の本心を吐露した翌日。七瀬の家のチャイムが鳴った。開けるとそこには明人がいた。
「七瀬。俺のこと、まだ好きだったりしない?」
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