第9話 探しても探しても見つからない

【登場人物紹介】


笹井七瀬(ななせ)…良太とカップルユーチューバーをしている。元カレの明人に急に姿を消された過去を持つが現在は結婚予定の彼氏、良太とちゃんと向き合っている。




河原良太(りょうた)…七瀬の彼氏。根が陰キャな七瀬とは対照的に根っからの陽キャ。YouTubeの個人チャンネルも七瀬より登録者数が多い。




立花楓(かえで)…七瀬の同居人。高校時代からの親友。



山口明人(あきと)…七瀬の元カレ。6年前、七瀬の前から急に姿を消した。



黒川栞(しおり)…明人に2回告白して2回共振られた。何故よく一緒にいるのかは不明。



早川美波(みなみ)…グループユーチューバー、シックスラインズのメンバー。良太の相談に乗るやいきなりキスをした。







_______________________


〜笹井七瀬の視点〜


 花火大会当日。七瀬は楓と二人で周っていた。途中、良太たちの集団に遭遇し、軽く挨拶はした。凄く気まずかった。お互い花火大会行くことは事前に教えていたが七瀬は人見知りなため、大人数の集団が苦手である。その中に自分の彼氏がいて挨拶せざるを得ない状況は少し苦痛だった。


 七瀬はそれでも楓と二人で花火大会を満喫した。満喫してる様子をSNSに上げることも忘れない。楓は一般人のため、顔を隠しての投稿だったが『親友と花火大会〜』と充実ぶりをアピールした。


そんな楽しい時間も束の間。七瀬は遠くに明人を見つけてしまった。明人は栞と一緒にいた。胸がモヤッとした。すぐにその様子に気づいた楓は七瀬を明人から遠ざけようと別の場所へ連れて行く。そういうところも楓は気遣い上手だった。








_______________________



〜山口明人の視点〜


 明人は七瀬と同じ花火大会に来ていることなど露知らず、栞と周っていた。花火が打ち上がる瞬間をリンゴ飴を舐めながら二人で見ていた。



「ああ。カップルで来たかったな」


栞はそう呟いたが、明人は何と返していいか分からなかった。



「この前は本当にごめん。」


「いいよ。でもこれ、明人なりの罪滅ぼしのつもり?」


「そういうわけじゃ…」


「そういうわけでしょ!明人、本当に分かりやすいんだから。じゃあこれでチャラね!」


そう言って栞は明人にキスをした。その瞬間、花火が打ち上がる。恋愛ドラマなどでよくあるような光景だった。




そんな明人と栞のキスをたまたま見てしまった人物がいた。河原良太だった。







_______________________


〜河原良太の視点〜


 良太は花火がよく見える場所の場所取りを美波と二人で行っていた。その時、明人と栞がキスしている様子を見てしまった。


「何かあった?」


心配そうな美波。良太は正直に答えた。


「今の人、七瀬の元カレ。ほら、この前話した」


「あー!突然いなくなったって言ってた人か。隣でキスしてるのは彼女さんかな?」


「そっか。彼女か」


安堵した様子の良太に美波は気づいた。



その時だった。


七瀬が焦りながら良太の横を通り過ぎた。



「七瀬!?」



良太は七瀬の様子を心配して後を追いかけた。



「七瀬?どうしたの?」 


「あ、良太!ごめん!良太に貰った髪飾りなくしちゃったの。本当に大事な物だから今、探してて」



良太は自分があげた物を必死に探してくれる様子に再び安堵した。



「そっか。じゃあ俺も探す」


「ほんと?ありがとう」


「俺、向こう探すからさ!七瀬は引き続きこの辺探して」


「わかった!」


七瀬と良太は二手に分かれた。





_______________________





 七瀬は自分が通った場所を一通り探したが髪飾りは見つからなかった。良太にも連絡したら『こっちもまだ見つからない』と返ってきた。良太はまた新しいの買えば?と提案するが『あの髪飾りは良太が誕生日プレゼントにくれたものだから。絶対見つける!』と返した。それを見て良太も七瀬の本気度を再認識した。



 探しても探しても見つからなかった。七瀬はあるはずないと思いながら花火大会の会場の隣にある神社(人気が少ない神社)に来た。花火大会の前にその神社に立ち寄ったため、そこで落とした可能性も考えたからだ。七瀬が一人で探していると後ろから声がした。





「探してるのってこれ?」





明人だった。明人が七瀬の髪飾りを持っていた。



「あ、それ!でもどうして?」



「七瀬が焦りながら髪飾りないって彼氏と話してるの聞こえちゃってさ。で、七瀬のインスタ見たらさっきあげた写真では髪飾りしてたからあの辺の場所で落としたのかなあって推測つけてそこを探してた」


「え!すご!探偵?」


「ま、俺は凄いからね!」


「調子乗んなって!」


七瀬は明人の頭を軽く叩いて髪飾りを受け取った。


「本当に見つけてくれてありがとう!」


七瀬は明人にお礼を言う。あんなに気まずかったはずなのに何故か普通に話せていた。




「じゃあ私、戻るね!」



七瀬が立ち去ろうとしたその時。明人は七瀬の腕を掴んだ。


「待って」


七瀬は驚く。



「ちゃんと話すよ。何で姿を消したのか」


「何で今になって?この前、あんなに拒絶してたのに」


「わからない。でも話したくなっちゃったんだ」





 そう言って明人は自分の幼少期の話から七瀬に話し始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る