第6話 二つの心は何故に離れていくの?

【登場人物】

高校時代の登場人物。


笹井七瀬(ななせ)…陰キャオタク。クラスの端でいつも漫画を読んでいる。何でも話せる友達は別クラスの楓のみ。しかし、クラス1のイケメン、山口明人と付き合っている。



立花楓(かえで)…七瀬の親友。七瀬と同じくオタクで学校内に友達は七瀬しかいない。



山口明人(あきと)…サッカー部。クラスのモテ男。大体の女子から狙われている。しかし、漫画やアニメに詳しく、いわゆる三軍女子の七瀬と付き合っている。



間宮花林(かりん)…クラスの陽キャ女子。学校中のイケメンを取っ替え引っ替えしてると噂。七瀬の恋敵。






_______________________


 明人の突然の帰宅に納得いかないながらも七瀬も東京に帰宅した。七瀬は帰宅して早々、楓の家に行き、愚痴をこぼした。


「何で!せめて理由言ってよ。こっちは京都回るの楽しみにしてたのにさ」


「確かにそれは明人が酷いね。せめて理由言ってくれれば良かったのにね」


「ほんとね。」


七瀬は明人から電話がきてることに気づいていたがこの日は出なかった。高校時代ということもあり、七瀬自身も幼かったため、楽しみにしていた旅行が丸一日潰れたことに対して怒りが収まらなかった。せめて理由言ってくれるまでは電話に出ないと決めていた。



 春休み中だったこともあり、それから明人と会うこともなく一ヶ月が経過し、新学期となった。


新しいクラスは楓と明人と同じクラスだった。明人は新学期早々遅刻で教室に入ってきた。七瀬は去年の新学期を思い出した。


 放課後。明人は七瀬に誠心誠意謝罪し、手作りのクッキーをプレゼントした。


「ごめん。これで許してくれるとは思ってないけど。でもこれで許して!」


「どういうこと?」


「俺も分からん。」


七瀬は呆れて笑った。この時には大分心が落ち着いていたため、明人を許すことにした。


「一緒に帰ろ!」


「うん!」


二人は仲直りして手を繋ぎながら帰った。


 しかし、翌日、明人は学校を欠席した。それからというもの、明人の欠席率は増えていった。七瀬が理由を聞いても体調不良としか言わない。でも学校に来ている日は元気な明人だったし放課後は一緒に受験勉強を図書室でするのが習慣になっていた。七瀬は明人と一緒だから受験勉強は頑張れた。



 数日後、明人は保健室の先生に呼び出されていた。明人の欠席が増えてることを心配していたため、七瀬は保健室の先生との会話をこっそり盗み聞きしてしまった。すると明人は過度の受験ストレスで精神病っぽくなっていることが先生から告げられた。七瀬はそれを聞いて唖然とした。すぐに明人に問いただした。そして謝った。受験に対してそんなにストレス溜めてたことに気付けなくてごめんと。


「いや、七瀬が謝る必要はないんだけどさ。早稲田大学は無理かもしれない。精神的に。志望校、明治に下げない?」


明人は一緒に志望校下げる提案をしてきた。七瀬はそれは譲れなかった。高校3年間、帰宅部で周りから陰キャと馬鹿にされてきた七瀬にとって学歴だけは絶対に譲れないと決めていたからだ。


「ごめん。それはできない。どうしても早慶以上の大学に行って自分を変えたいの」


「俺と同じ大学じゃなくていいの?」


「同じ大学じゃなくても明人と関係が壊れることはないと思うよ?」


明人は少し不機嫌になって「あっそ。」と言って立ち去った。七瀬は明人が自分と同じ大学に拘る理由が分からなかった。



 明人と喧嘩した翌日。噂が回るのは早かったのか、花林が明人に近づき、慰めていた。関係がギクシャクしてるところを奪おうという魂胆なのだろう。しかし、明人はフル無視で動じなかった。



 でも七瀬が話しかけようとしても別の所に行ってしまった。



………やばい。思った以上にギクシャクしてる………



七瀬は受験勉強が気が気じゃなかった。明人との関係をどうにかして修復させないと。かといって志望校は下げたくない。ジレンマだった。そんな時、明人がたまたま保健室の先生に相談しているのが聞こえた。明人としては七瀬と同じ大学に行きたいし自分が彼女より下の大学になるというのが嫌だという理由があるらしい。また、別の大学行くことで新しい男と出会って自分が捨てられるのではないかと危惧してるらしい。



………明人って意外とメンヘラ?………



でもそこまで自分のことを思ってくれてると分かって少し嬉しかった。だからその日、『私は別の大学行っても明人とずっと付き合ってくつもりだよ!安心してね』と送った。返信は来なかったが、既読はついた。




 翌日。七瀬は早慶オープン模試だった。前日まで明人とのギクシャクが原因で勉強に手がつかなかったが、一旦切り替えて模試に集中しようと試みた。また、明人から『早慶オープン頑張れ!七瀬ならできる!』とラインがきていたため、一応ギクシャクが解消されたと解釈した。こんな感じで明人との第二のギクシャクも無事解決した。



 それからは特に明人と喧嘩することはなく、放課後受験勉強したり、帰り道一緒に帰ったり、たまに息抜きにカラオケ行ったり等、青春を謳歌して過ごした。また、クリスマスの日だけお互い予定を空け、クリスマスマーケットでデートした。この日は事あるごとにキスをしまくった。そしてこの日に受験終わったら春休みくらいに去年の旅行のリベンジをしようと約束した。


「これは絶対ね!去年のリベンジ!約束破ったら針千本でいいよ!」


「いや、1万本ね!」


「うわぁ〜。ま、絶対破らないけど!しばらく受験で会えなくなるけどお互い頑張ろうな」


「もちろん!」


二人はそう言ってハグをした。


「好きだよ七瀬」


「私も好きだよ。明人!」


これが二人の最後の会話だった。




 七瀬は受験に集中するため、スマホを一旦解約していた。もちろんそれは明人にも伝えていた。そして第一志望の早稲田大学の合格発表日。政治経済学部と法学部は落ちてしまったが無事、教育学部に合格した。真っ先に明人に伝えようと電話した。



………あれ、繋がらない?………


また折り返し電話かかってくるだろうと思い、『報告あるから電話したい』と送った。


しかし、一日経っても一週間経っても一ヶ月経っても明人から折り返しの電話がくることはなかった。それどころか既読すらつかなかった。


『どうした?』『何かあった?』『会いたい』


全て未読。



………何で。何で何も連絡がこないの?………




 そのまま音信不通となり、卒業式の日も明人は現れなかった。

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