第5話 思い出ファースト こんなところで喧嘩しない

七瀬と良太がファミレスに入ると栞(七瀬にとっては知らない女性)と明人がいた。明人は七瀬に気づき、気まずそうに目線をそらした。七瀬も明人を見て平常心ではいられなかった。その様子に良太も気づいていた。


「店変える?」


良太の提案にすぐに応じた。


「ごめん。」


「いいよ。この前の男の人いたね。」


「うん。女性の方は知らないけど。」


「無理に話す必要はないからね?」


「わかってる。でも結婚するにあたって知っといて欲しいことでもあるの。少し話せるかな?」


「わかった。俺の家で話そう」


そう言って二人は良太の家に向かった。



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〜山口明人の視点〜


「今、七瀬ちゃんいたよね?」


「うん。最近会う頻度多くなってきてるな。こっちに戻ってきたからなんだろうけど」


「そうだね。いつまで逃げ続けられるかだね」


「……」


「明人。きつくなったら何でも私に相談してね?」


「うん、、」


明人は俯いて考え事をしていた。



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〜笹井七瀬の視点〜


 七瀬は良太の家に到着するとファミレスで出会った明人が元カレであること、そして明人と付き合うまでの経緯も話した。さらに明人と付き合ってから起こった様々なことも語り出した。




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【登場人物】

高校時代の登場人物。


笹井七瀬(ななせ)…陰キャオタク。クラスの端でいつも漫画を読んでいる。何でも話せる友達は別クラスの楓のみ。



立花楓(かえで)…七瀬の親友。七瀬と同じくオタクで学校内に友達は七瀬しかいない。



山口明人(あきと)…サッカー部。クラスのモテ男。大体の女子から狙われている。



間宮花林(かりん)…クラスの陽キャ女子。学校中のイケメンを取っ替え引っ替えしてると噂。






〜七瀬の高校時代〜



 七瀬と明人が付き合ってから一週間経過した頃。放課後、七瀬が帰宅しようとすると花林が前に立ちふさがった。


「アンタさ、明人と関わらないでって言ったよね?最近は一緒に帰ってるみたいだけど。キモいんだよ、お前みたいなオタク陰キャが明人と仲良くしないでくれる?」


「そ、そう言われても」


困っている七瀬の元に明人が現れた。


「七瀬が俺と帰ることの何が悪いの?俺の彼女なんだから」


「は?明人、こんな地味な奴と付き合ってんの?」


「何か悪い?お前みたいな人を見た目で判断して見下す奴より七瀬の方が全然マシだけど?」



明人は花林にそう言い放つと七瀬を引っ張って一緒に帰った。


「ありがとう、明人!」


「お前も少しは言い返しなよ。」


「だって。地味で陰キャなのは事実だし」


「地味で陰キャで何が悪いんだよ。そんな七瀬が俺は好きなんだからさ!」



七瀬は顔を赤くした。


「おいおい、照れるなって!七瀬、照れたから今日は強制キスでーす!」


「え、でもそれ、ご褒美じゃん」


「はいはい。つべこべ言わないの!」


七瀬と明人はキスをした。沈んでいく夕日が余計綺麗に見えた。まさに青春の1ページ。そんなひとときを過ごしていた。



 翌日。明人は学校を欠席した。先生は体調不良と言っていたが七瀬は心配になってラインした。


『明人、体調大丈夫?』


すぐに返信がきた。


『大丈夫だって。ちょっと風邪引いただけ。心配すんなって!』



 明人か体調不良で休んだのはこの日だけではなかった。それから定期的に休むようになっていった。1ヶ月に1回は必ず、多い時は2週間に1回ほど体調不良で休んでいた。体調不良の日はお見舞いにも来ないでほしいと言われていたため、ラインのメッセージのみでのやり取りとなっていた。さらに明人の家に行くことも避けるように言われた。明人は汚い部屋を七瀬に見られたくないからと言っていたが真相は分からない。だから家でのデートはしたことがなかった。お互い実家で気まずかったのもあるが。





 明人と付き合って半年ほど経った頃。明人は急にこんなことを言い出した。


「そろそろさ、ヤりたくね?」


「え?ヤりたいって?」


「アレしかないでしょ」


「待って待って。私たち高校生だし、、」


七瀬は明人が初彼氏。そんな行為したこともなかった。


「え。付き合ったらヤるでしょ。普通」


「明人はヤったことあるの?」


「もちろん」


………聞きたくない。彼氏の過去の性経験なんて………


「どうしても、、無理?」


明人の懇願に七瀬は言葉が出なくなった。全く興味がないわけではなかったからだ。でも初めての体験なので恐怖が拭えなかった。だから明人に怖いということを素直に伝えたら「俺に任せろ!」と自信満々に言われた。結局、放課後、誰もいない教室に忍び込んで初体験をすることになった。


「痛い!!痛い痛い痛い!」


「七瀬、暴れないで」


「ごめん、やっぱ無理」


やはり七瀬は痛みに耐えることができず、最後までイカずに不完全燃焼のまま終わった。痛いことを伝えたら流石に明人も諦めてくれた。


「俺、七瀬が好きだから七瀬の嫌がることはしないって決めてるんだ。七瀬が本当に俺と身体を重ねたいと思ったらその時、最後までやろ!」


明人は笑顔でそう言う。下ネタ耐性すらあまり無かった七瀬はこの発言が衝撃だった。それと同時に社会勉強にもなったとプラスに捉えた。






 高2の2月。進路相談の時期。七瀬は早稲田大学を第一志望にしていた。明人も七瀬と同じ大学に通いたいからと早稲田大学を第一志望で提出した。


「そんな理由で提出していいの?」


「いいの!七瀬とずっと一緒にいるんだから!」


「嬉しいけど〜」


教室でこのような会話をしている時、毎回花林の視線を感じる。今回も睨みつけてるかのような顔をしていた。この時にはもうほぼ気にならなくなっていたが。



「あれ?明人、首どうした?怪我?」


明人の首に何やら怪我のような跡があった。


「あ、これは。うん、ちょっと怪我しちゃって」


「かわいそうに、、」


七瀬は少し違和感を感じたが、そこまで気には止めなかった。






 高2の春休み。高3になったら受験勉強が忙しくなるだろうということで今まで二人で貯めてたお金で京都に旅行に行った。結局、この旅行の夜の旅館で二人は完全に身体を重ねた。もちろんゴムはつけていたが。七瀬は思っていたより気持ちよく感じ、その日は5回もヤッた。最後の方は明人の方が疲れていた。この日、七瀬は過去最高に幸せを感じていた。



 しかし、翌朝。明人は突然、東京に帰ると言い出す。


「ごめん、急用入っちゃって。俺、帰らなきゃ」


「え!今?」


「うん。本当にごめん。今日色々回る予定だったのに」


「そんなに大事な予定なの?私も今日の旅行凄く楽しみにしてたんだよ?」


「ごめん、、」


明人は特に説明もしないまま、新幹線で帰宅した。七瀬も納得いかないながらも東京に帰宅した。

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