第3話 誰も承認欲求強すぎて

「明人!?」


七瀬の言葉に明人は反応して振り返った。逃げようとする明人を七瀬は追いかける。


「何で逃げるの?何も言わずに私の前からいなくなって。何で逃げてるの?何があったか話してよ!」


「話したってあの時に戻れるわけじゃない!」


明人はそう言い切って走り去った。


沈黙が生まれる。彼氏の前で別の男を追いかけたのだから当然だ。


「今の人は…」


「いいよ。何も聞かないから。深刻そうだったし。」


そう言って良太は何も聞かずに家まで送った。


「明日、午後から゛シックスラインズ゛とのコラボ撮影あるし、早めに寝なね。じゃ、おやすみ」


良太は最後に七瀬にキスをして帰った。


七瀬は後悔した。



………いくら元カレがいたからって良太の前で追いかけるのは絶対間違ってた………


それでも何故明人は自分の前から姿を消したのか、それを知りたい気持ちは変わらなかった。




 翌日。゛シックスラインズ゛とのコラボ企画の撮影が始まった。スタジオに着いた時も良太はいつもと変わらず七瀬に接してくれた。


 撮影の合間の休憩時間。゛シックスラインズ゛のメンバーの一人、早川美波(みなみ)が良太の元に近寄って話し始めた。


「結婚おめでと!」


「ありがとうー!」


「でも気をつけてね。結婚報告後に破局したカップルユーチューバーもいるから」


「俺たちに限ってそんなことあり得ないよ」


「それもそっか!」


良太はこの時、昨日の七瀬の様子を思い出して顔をしかめた。



 撮影が終わり、七瀬と良太はディナーに来ていた。六本木の高級ディナー。もちろんインスタグラムにもその様子は載せた。



『今日は゛シックスラインズ゛さんとのコラボ撮影後、良太とディナー!』


と投稿。良太も同じような投稿をした。


 


 家に帰って七瀬は自分の投稿のいいね数が良太に負けてることを気にしていた。


「うー!同じ時間にほぼ同じ投稿したのに何で。やっぱ良太の方が人気なのかなぁ」


「そんないいね数で落ち込まなくていいと思うよ?」


「めっちゃ大事だよ?インフルエンサーなんだし。明日はもっと画角気をつけてみようかな?」


楓はこのような七瀬のこだわりにはもう慣れていたがやっぱりそこまで気にするのが理解できない様子でもあった。




_______________________


「お待たせ!七瀬!」


明人が待ち合わせに10分遅刻してやってきた。


「もう!遅いよ!今日の昼ご飯、明人の奢りね!」


「やーだね!割り勘だよ割り勘〜」


「もう!」


高校時代の七瀬と明人だ。この日は二人でディズニーランドに行く日だった。七瀬と明人は開園から閉園まで楽しんだ。アトラクションもたくさん乗ったしショーもたくさん観た。ショーの最中、明人は七瀬の肩に寄りかかって寝てしまった。そんな明人を見ながら七瀬は幸せを感じていた。



………あぁ。幸せ。明人、、………





七瀬は目を覚ました。良太の家の布団で寝ていた。


「あ、、」


「やっと起きた。休みだからって遅いよ!」


「ごめん。」


「今日俺、夜、飲みだからさ、ユーチューバー仲間と。家に帰るなら鍵閉めてってね」


「え、待って。今日インスタ何もあげてない!」


「今日くらい良いじゃん!」


「せっかく良太の家に来たんだしゲームやってる姿でも投稿しようよ!ファンのためにも」


「わかったよ。じゃあ電源入れるね」


二人はインスタのためだけにゲームの電源を入れ、やってる様子を投稿した。



………1日1投稿はしないと!その日何もなかったみたいに思われちゃうし………


それ以上に七瀬は良太がYouTube仲間と飲んでいる日に何もしてないと思われるのが嫌だった。そのため、ちゃんと夕方までは良太の家で充実した日を過ごしてたとファンにアピールするために投稿した。



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〜河原良太の視点〜


 良太はユーチューバー仲間同士で飲んでいた。そこにはこの前コラボしたシックスラインズの早川美波もいた。良太は七瀬の承認欲求が強すぎる話を仲間内にした。


「何か頑張りすぎっていうか着飾りすぎっていうか。俺は気にしてないのにファンから見て釣り合ってるかどうかとかも結構気になるみたいで、、」


「七瀬ちゃん、そういうとこあるよね。まあでも良太はそれを受け入れてるわけでしょ?」


「もちろん。カップルユーチューバー始めた時から七瀬のその性格は受け入れてたよ。でも着飾りすぎて七瀬自身が壊れないか心配なんだよね、、」



帰り道。たまたま良太と美波は同じ道を歩いていた。


「良太!うちで飲む?二次会!」


「いや、明日案件入っててさ。もう帰って寝ないと」


「うち泊まれば?うちからの方が近いでしょ?」


「流石にそれはまずいって。」


「それもそっか!じゃあね!」


美波は良太を手を振りながら見送った。少し寂しそうな顔で良太を見送った。



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〜山口明人の視点〜


【登場人物紹介】


黒川栞(しおり)…27歳。明人とよく一緒にいる女性。交際しているかは不明。




明人はカフェで栞と二人でお茶していた。明人は席で七瀬のインスタグラムを見ていると栞が覗き見して言った。


「それ、明人の元カノだっけ?何でまだSNSチェックしてるの?」


「どうしてるんだろーって思ってさ。この前、たまたま駅で会っちゃったから」


「え?そうなの?」


「うん。逃げちゃった」


「え!何で。もう別れて6年とかでしょ?気まずくないだろうし挨拶くらいすればいいじゃん」


「無理だよ。事情があったとはいえ勝手に消えたのは俺の方。今さら合わす顔なんてないよ。」



そう話すと明人はさみしげな表情で七瀬のインスタグラムを眺めていた。

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