第2話 出会いはスローモーション
七瀬は家に帰ると早速、楓に明人を見かけたことを話す。
「ねえ!今日駅で明人を見かけたの!」
「え?見間違いじゃなくて?」
「見間違いじゃない!明人って叫んだら振り向いて。でも私の顔見て逃げちゃった」
「そんなことが…?」
「何で逃げたんだろう。」
「アンタまさか明人に会って気持ち動いたりしてないよね?」
「そんなことないよ。もう吹っ切れてる。でも何で突然姿を消したのか。それだけ知りたくて、、」
七瀬と明人の出会いは高2のクラス替えだった。
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〜笹井七瀬の高校時代〜
【登場人物】
高校時代の登場人物。
笹井七瀬(ななせ)…陰キャオタク。クラスの端でいつも漫画を読んでいる。何でも話せる友達は別クラスの楓のみ。
立花楓(かえで)…七瀬の親友。七瀬と同じくオタクで学校内に友達は七瀬しかいない。
山口明人(あきと)…サッカー部。クラスのモテ男。大体の女子から狙われている。
間宮花林(かりん)…クラスの陽キャ女子。学校中のイケメンを取っ替え引っ替えしてると噂。
4月。クラス替えで唯一の友達、立花楓と離れてしまった七瀬はクラスで話せる友達がいなく、教室の端で一人で漫画を読んでいた。クラスの陽キャたちの視線を感じる。特に一軍グループのリーダー的存在、間宮花林がこっちを見て馬鹿にしてる感じがした。
………一人でいることの何が悪い。どうせボッチだって馬鹿にしてるんでしょ………
そんな事を思っていると教室のドアが空いて一人の男子生徒が入ってきた。それが山口明人だった。
「山口くん。遅刻です」
担任の先生が言う。
「ごめんごめん。寝坊しちゃって」
………新学期初日から寝坊とか。舐めてるなぁ………
七瀬には分からない世界だった。一応高校時代は優等生として過ごしていたため、遅刻などをしてくる人とは根本的に分かり会えないと思っていたからだ。
明人が入ってくると教室がザワつく。
「ねえ、あの人が明人くんでしょ?」
「そうそう!学年1イケメンと名高い」
「でも最近彼女と別れたんだって?」
「まじ?花林狙っちゃいなよ〜」
「え〜」
陽キャたちが遅れて入ってきた明人を見てそのような会話を繰り広げていた。
………はぁ。恋愛なんて何が楽しいんだろ。たかが高校生レベルのイケメン見てそんなザワつくことないでしょ。まあ恋愛なんて陽キャたちの遊び。陰キャの私には性に合わないよね………
七瀬はクラスの人たちのざわつきを達観して見ていた。恋愛とかに若干羨ましい気持ちがあったのも事実だ。でも陰キャの自分には無理だと諦めていた。
放課後。七瀬と楓が二人で帰宅していると七瀬は教室に忘れ物をしたことに気づいた。
「あ、いけない。私、財布忘れちゃった。ごめん、先帰ってて」
七瀬は教室に戻る。すると教室には山口明人が一人で音楽を聴いていた。七瀬が入って来たのに気づくと片耳だけイヤホンを外した。
「あ、七瀬さん。どうした?忘れ物?」
………名前、覚えてくれてたんだ。クラスの人とほぼ喋ってないのに………
「そ、そうです!財布忘れちゃって。山口くんこそ何やってるんですか?」
「お!俺の名前覚えてくれてたんだ。嬉しいなぁ。俺はね、今、サッカー部の練習抜け出して教室で休んでるの!」
「え!サボってるって事ですか?」
「そういうこと!だから今日のことは二人の秘密ね!」
明人はそう言ってジェスチャーで「しーっ」とやった。これが笹井七瀬と山口明人の出会いだった。
………好きになんかなってない。好きになんかなってない!………
家に帰ってから七瀬は自分に言い聞かせた。
………少し喋っただけじゃん。そんなんで好きになるの?普通。なってるわけないよね。でも………
明人と話した時の光景を鮮明に思い出してしまう自分がいた。それでも自分と釣り合うわけがないと言い聞かせ、気持ちに気付かないフリをしていた。
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〜現代〜
偶然明人を駅で見かけてしまった翌日。七瀬はユーチューバー仲間の誕生日会に来ていた。パーティのようなイベントは疲れるため、あまり好きではなかったが誘われた時に断ってしまうと今後誘われなくなる可能性があるし、有名ユーチューバーと仲良い様子をSNSに上げる名目で無理して参加していた。
「いぇい!久しぶり〜七瀬!この前の配信見たよ。結婚するんだってね、おめでとう!!」
「ありがとう〜」
「まあ、お前ら二人は絶対に結婚までいくと思ってたよ。」
「いや~でも本当に久しぶりだね七瀬。あんまこういう集まりいないからさ」
グサッときた。七瀬は自分でも他のユーチューバーから誘われる機会が良太より少ないことには気づいていた。根っからの陽キャな良太は定期的に有名ユーチューバーの集まりに誘われて参加している。それをSNSで見ると「何で私は誘われてないの?」と病むことが多かった。今日は久しぶりにファンにキラキラアピールができると意気込んで来たが、「あんまこういう集まりいない」という発言に傷ついた。
………まだ私は本当の意味でキラキラした生活はできてないのかもな………
そう思うとその日の気分が一気に落ちた。でもそれを悟られないように必死に元気なフリをしていた。テンションを上げるために飲みまくった。あまりお酒が強くない七瀬は当然ダウンしてしまった。
その日は七瀬は歩けなくなるまで泥酔し、良太が連れて帰ることになった。良太はそんな時でも怒らずに優しく寄り添ってくれる。七瀬にとって本当に理想の彼氏だった。
七瀬をおんぶしながら家の近くの駅を通りかかった時。七瀬の少し先に山口明人のような人物が歩いているのが見えた。
「明人!?」
七瀬は酔いが覚め、そう叫んだ。彼氏の良太におんぶされた状態で。
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