第3話 新幹線に乗って
ゴロゴロと荷物を引きずって新幹線を待つと旅に出かける気分になる。私は計画も立てないし、チケットも取らないし、荷物も積まない。それらを全部旦那様がやってくれて、こうしてホームに立って新幹線を待つ頃には、向こうはすでに達成感を感じてしまっているらしく、
「ああ、始まったら終わっちゃうな〜」
と寂しそうに言い放つ。
私がようやく駅のキオスクでお茶と小さなお菓子を買って少し熱を帯びながらルンルンとスタート地点に立った時には、彼はもう終盤戦なのだ。
忙しなく私に切符を渡して改札を抜けるのを確かめて、また取り上げてパスケースに仕舞う。そうやって至れり尽くせりの環境の中で…こっちは、多分、旅の醍醐味をさほど知らずに過ごしていく。当然あれこれ言わない、行く先で揉めない私の態度は都合は良いけど、物足りないんだろうな〜
ここに来るまで繰り返し似た動画を何度も見せられ、宿も列車も町並みも全て知った上で挑む。それを確認するための実学に出かけるのだ。それはそれで良いもんだ。新鮮に答え合わせしながら旅は続く…
新幹線の駅には駐車場が隣接していて、歩いて2分のこのスタートダッシュは有り難い。帰りもここまでくればもう家に付いたも同然。その快適さを実感しながら旅の一日が始まる。
この方法を見つけるまでは、最寄りの駅まで先に車で荷物とともに送ってもらって、その番をしながら後から歩いて駆けつける夫を待つ。それから名古屋まで電車に揺られ、途中で一回乗り換えて名古屋駅を降り、長いコンコースを新幹線口まで歩いてようやくホームへのエスカレーターを登る。
この間一時間…最寄りの新幹線の駅まで直接で30分の行程により時間は30分しか縮まらないが、あの、人の溢れるコンコースを歩くことが省けるなんて最高だ。
疲れを知らぬまま新幹線が滑り込む姿を確かめる。この駅は人の姿もそこそこで名古屋駅に近いため自由席でも席は空いている。高齢者向けの割引サービスは「のぞみ」に乗れないのではじめから「ひかりとこだま」待ち。それなら名古屋まで行かなくてもあの駅でいいじゃない。と苦肉の策で閃いたこの最良の方法は私達に革命をもたらしたのである。
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